企業がデータウエアハウスを成功させるにはどうしたらよいか

大きな期待.確たるテクノロジー.にもかかわらず,なぜ多くの努力は失敗するのか

BY Nancy Cohen 翻訳 三重野 研一

MIS部門が仮設検証を行うのではありません.

略歴
 Kevin Nikkhoo氏は,Los Angelesに本拠を置くコンサルティング会社
Vertex Systems社の社長兼最高経営責任者(CEO).同氏は,テクノロジー関連の会議では講演者として頻繁に活躍.また,Microsoft社のソリューションプロバイダ諮問委員会(Solution Provider Advisory Council of Microsoft Corp.)の会員を務める.

 Barbara Gaskin氏は,Massachusetts州Wellesleyに本拠を置くコンサルティング,およびシステム開発会社Decision Support Technology社の社長.同社は,SeattleやKansas Cityにもオフィスを持つ.Barbara Gaskin氏は,「データウエアの戦略的価値の実現(“Realizing the Strategic Value of Data Warehouses”)」と題した白書を最近著した.

Q:アナリストによれば,データウエアハウスはしばらく流行となっているが,最近特に関心が高まっているとのことです.なぜ今,急激に関心が高まっているのでしょうか.

Barbara Gaskin:そう,データウエアハウス自体は何も新しいものではなく,データウエアハウスを実現するためのテクノロジーが変わって来たと,言えると思います.Internetをデリバリーツールとして,情報を配信するのが随分楽になりました.しかも,データ量も今まで以上に多くの量が送れるのです.
 では,データウエアハウスへの関心が急に高まって来たと言えるのでしょうか?私はそうは思いません.私の考えでは,恐らく関心が高まって来たのは,分析のための新しいテクノロジーに対してだと思います.新しいテクノロジーとは,例えば,OLAPツール・Webデリバリーテクノロジー・ビジュアル化ツールなどといったものです.  つまり,ユーザーの視点からデータの意味を得ることを可能にするプロダクトと言ったところでしょう.

Kevin Nikkhoo:
メインフレームの時代でも,意思決定支援のコンセプトとしてデータウエアハウスという考えは広く用いられていました.ただ,当時のデータウエアハウスは構築するのに多大なコストがかかりましたし,なかなか面倒なことでもありました.こうした点を全て変えてしまったのがテクノロジーです.
 新しいテクノロジーを使えば,離れたところにあるオフィスから情報を得ることができ,さらに,地理的に大きく隔たった所からも情報を得ることができます.エンドユーザーが必要とするデータを用意するために,元のデータを整理したり再構成したりすることも可能です.


Q:データウエアハウスは,依然として高くつくものではありませんか.

Kevin Nikkhoo:
高くつく?面白い言葉ですね.莫大な利益が得られるとしたら,それでも高くつくと言いますか.


Q:情報が,競争優位のための武器になっているという意見に賛成しますか.

Barbara Gaskin:
少し誇張した言い方ですね.もう少し正確に言えば,情報に基づいた知的資産や意思決定が真の武器になるということです.情報だけでは十分ではありません.さらに,情報に基づいてのアクションを起こせる組織といったものも必要です.

Kevin Nikkhoo:
データウエアハウスがもたらすものは何か,考えてみてください.データウエアハウスは,より多くの情報をより高い精度で得るための投資なのです.その時その時に応じた特別なクエリー(照会)を可能にし,隠れたビジネスの機会を見定めることを可能にしてくれるのが,データウエアハウスなのです.
 過去,間違った請求を見つけられなかったとしても,今すぐに見つけることができるようになります.顧客の傾向もつかめるようになります.データを通して顧客を綿密に調べれば,顧客に密着し十分に貢献できるようになります.こうして,精緻なマーケティングが可能となります.
 これはつまるところ,収益を伸ばすということです.さらに重要なことは,競争力のある企業は重要なイベントに迅速に対応することが出来る,ということです.データウエアハウスを構築すれば,重要なイベントを見定められるし,趨勢分析に基づきプロダクトを変更することも可能となります.


Q:データウエアハウスが,それ程まで難題を楽に解決するものなら,多くの努力がタイミング的にもコスト的にも失敗とされるのはどうしてですか.データウエアハウスを構築した企業の60%が,データウエアハウスは期待したほどの投資収益をもたらさなかったと述べている,という評価があります.

Barbara Gaskin:
他の調査でも同様の評価を見たことがあります.理由の1つとして考えられるのは,企業のビジネスサイドからの明確な目標がないまま,データウエアハウス構築の努力の多くがIS部門によって推進されているという点です.その結果,プロジェクトは最終目的なないまま自らの生命をかけてしまうことになってしまいます.
 データウエアハウスの構築に多額の費用を費やしている企業がありますが,その努力を価値あるものにするための最後の20%の努力を,忘れていることがよくあります.20%の努力とは,データを集めることに加え,分析の考え方なり仕組みなりを作り上げることです.ここに問題があると言えるでしょう.
 データウエアハウスの構築自体は,マーケティングやファイナンスやセールスの担当者が利用できる分析結果にデータを変えてくれるものではありません.例えば,プロダクトの収益性を見てみたいとしたらどうしますか.売上のデータとコストのデータを見るでしょう.でも,売上のデータとコストのデータだけの情報は,プロダクトの利益を正確につかむためにコストが賦課された後の情報ではありません.データウエアハウスの多くは,こうした最終的な解答を提供することができていません.ある部門では,顧客に関する基礎データをほったらかしにしていたが,このデータをフィルターに通す必要に迫られている,といったことになります.
 恐らくある特定の状況では,請求に対して支払っていない人は誰かなど実際にはそれ程関心がないとか,あるプロダクトの在庫不足を来した人は誰かなど実はそれ程気にしていないとか,そういったことはあると思います.
 しかし,後からデータの整理をしなくてはならない人にとっては,これは満足の行く仕事ではありません.


Q:こうした状況は,誰の責任だと考えますか.

Barbara Gaskin:
責任は企業全体のものです.IS部門に言わせれば,「データの提供はしたよ」ということになるし,ビジネスマネージャーに言わせれば,「データを欲しい形ではもらっていない」ということになるのです.IS部門とビジネスアナリストとの間にはお互いに理解を深める余地があると,私は考えます.責任は,テクノロジーにあるのではありません.最適なプロダクトなどと言うのは問題外です.ベンダーは,分析機能を持ったソリューションで,こうしたギャップを埋めようとしているわけです.

Kevin Nikkhoo:
経営陣の支持や参加が無いことは,確かに失敗の1つの理由です.データウエアハウスは,結局のところ,経営陣が活用する意思決定支援ツールなのですから.データウエアハウスから取り出した情報が,ユーザーの欲するものでないとしたら,データウエアハウス構築の努力は最初から意味がなかった,ということになります.
 データウエアハウスはどんなことがあっても経営陣が先頭に立たなくてはなりません.MIS部門では駄目なのです.私達が常に意識しておかなくてはならないことは,仮設検証はMIS部門が行うものではない,ということです.
 失敗の2番目の理由として挙げられるのは,プロジェクトの範囲が大き過ぎるということです.しかも,どんな結果が出ればよいのか明確に定められていないため,何ら効果的な成果もないままプロジェクトがいつまでも続くといった事態にもなりかねません.グローバル企業と言われる会社の中に,こうした徴候を見ることができます.
 必要なことは,少しずつ段階的に進むこと,1つ1つの段階を例えばデータマートのように明確にすることです.最初から全ての面を持ち出す必要などありません.
 失敗の3番目としては,エンドユーザーの期待が挙げられます.データウエアハウス構築の努力の全体をエンドユーザーに知らしめ,プロジェクトの進歩に合わせてエンドユーザーにプロジェクトの状況を知らしめることは,重要なことです.


Q:データウエアハウスの導入に際して,Decision Support Technology社のクライアントに対するコンサルティングのアプローチは,どのようなものですか.

Barbara Gaskin:
当社は,初期の計画段階を含んだ方法論を持っています.ISの人達とビジネスの人達から成る多機能チームの重要性を,当社は強調しています.IS側とビジネス側が協力して,解答を得ようとする問題は何であるかを自分達で調べることになります.


Q:データウエアハウス構築のコンサルティングを行う際に,Vertey Systems社はどんなアプローチをとりますか.

Kevin Nikkhoo:
データウエアハウスの構築を始めるに当たって,当社は多くの固有の問題に関する包括的な調査を行います.業務,方法論,人員配置,テクノロジーの問題といったものを通して,当社は顧客の役に立っているのです.


Q:Vertey Systems社から見て,全てがうまく行った企業の例を挙げてください.

Kevin Nikkhoo:
Patagonia社はワールドワイドな企業で,高品質なアウトドア用品を製造し,流通させ,小売りもしている会社です.Patagonia社は,成長の過程でまさに困難な課題に直面しました.France,Japan,Canada,そしてUnited States全域に,多くの異なったプラットフォームと様々なソフトウエアが同社にはあったのです.
 Patagonia社は,AS400も持っていますし,Windows NTも持っています.それぞれのマシンが,小売に対してはカタログ販売といった具合に個々のビジネス向けに特別なソフトウエアを動かしています.流通・小売り・通信販売・製造といった活動の全領域を考えてみると,1つの大きな課題は,どこから売上が生じるのかを見つけ出すということでした.
 どのプロダクトがうまく行っているのか?どの地域で?どのプロダクトグループで?Patagonia社には,品目別・地域別・プロダクトグループ別・顧客別といった,売上分析が必要だったのです.しかも,こうした売上分析を一目瞭然といった形で見たかったのです.
 開発されたシステムのおかげで,Patagonia社は,色々なところからデータを取り出し,中央のリポジトリーにデータを入れることができるようになりました.データウエアハウスは,多数のデータマートが寄せ集められて出来ています.データウエアハウスは,大きな企業の中の色々な部門,例えばマーケティングやファイナンス,セールスや製造といった部門が,様々な分野からデータを取り出すことを可能にしてくれます.
 Patagonia社のポジティブな特徴は,データウエアハウスソリューションを活用できるように同社がさらに成長・発展し続けているということです.このプロジェクトは段階的に進められて来ました.私は,段階的なアプローチこをが成功の秘訣だと考えています.
 データウエアハウスは,特に分析の分野において,期待していた以上の成果を出しているというフィードバックを,当社は得ています.エンドユーザーには,セールスマネージャーやオペレーションマネージャーも含まれています.
 私は,成功したことに驚いていません.というのは,何よりもまずこのプロジェクトが経営陣の支持を得て始められたからです.早い段階から,プロジェクト全体に対するしっかりとしたコントロールが成されていました.しかも,Patagonia社の人の言葉を借りれば,「プロジェクトのスケジュールに沿って重要なチェック項目に対する鋭い洞察を与えてくれる会社」として,データウエアハウスの構築に際しては当社Vertey Systems社をPatagonia社が信用してくれたのです.

Barbara Gaskin:
当社の実例としては,マーケティングおよびセールスで情報の必要性があった,中規模の製造会社の例があります.最初からこの企業では,同社のニーズに優先順位を付けることができました.この会社では自分達のニーズをデータウエアハウス構築の原動力としたのです.
 しかも,段階的なアプローチで.目的は,異なった受注システムや他のシステムの中にある種々のデータを一目瞭然といった形で見ることでした.各々の部門が皆,計画段階から参加しました.
 その結果,この会社は今や全世界に情報を配信することができるようになりました.努力する対象は,製造とマーケティングを密接に結びつけることに向けられました.コミュニケーションの観点からは,製造とマーケティングの両者は予測方法の理解をお互いに深めたと言えます.


Q:データウエアハウスに関しては,Windows NTはどうでしょう.先行きは暗いのでしょうか.向き不向きに関するWindows NTの議論についてはどう思いますか.また,WindowsNTとデータウエアハウスの関係で,Microsoft SQL Serverにはどんなメリットがあるのでしょうか.

Barbara Gaskin:
規模が問題になります.ただし,当社は,Microsoft SQL Serverを利用してデータウエアハウスの構築を成功させた経験を複数のクライアントで持っています.当社には約60GBまでの成功事例があります.これ以上の極めて大規模なものになると,難しいでしょう.
 ただ,私としては,SQL 6.5とSQL 7.0に違いがあると見ています.特に,Microsoft社自身もOLAPツールが出荷されるという点に関して.Microsoft社はデータウエアハウス分野でも今まで以上に重要な働きをするようになると,私は確信しています. Kevin Nikkhoo:過去,Windows NTはUnixベースのプラットフォームと競うことができませんでした.Microsoft社は,Windows NTにWolfpackと呼ばれるフォルトトレランス機能を導入しているので,状況は変わって来ると思います.
 今まではNTとSQLは大規模なデータウエアハウスには向いていないと言われて来ましたが,SQL 7.0とOLAPエンジンが出荷されるようになれば,SQL ServerとWindows NTの組み合わせは,競合他社に対する無限の競合の出現ということになるでしょう.SQL 7.0は多くの問題を解決しそうです.
 例えば,7x24アベイラビリティーの問題,レプリケーション,OLAP,パラレルクエリー,拡張SMPサポートなどに関する問題です.SQLの価格がさらなるインパクトになることは言うまでもありません.というのは,データウエアハウスの構築がなかなか進まないことに関する問題の1つは,導入費用の高さにあったわけですから.データウエアハウスは資金力の豊富な大企業だけが構築できるもの,といった感じだったわけです.
 Microsoft社のテクノロジーへのアプローチに注目してみて下さい.それは,大量かつ低コストを旨としたものです.ですから,Microsoft社はSQLとNTを低コストのプラットフォームとして出して来るでしょう.
 しかも,メタデータスタンダードのいくつかを提供することで,Microsoft社は,データウエアハウス構築のスタンダードを作り上げる上での同社の立場を強固なものにしようとして来ると思います.
 1998年以降,NTとSQLの組合わせが,データウエアハウスの構築に最も肝要なフォルトトレランス性とデータベースの特徴を備えているからです.


出典 BackOffice Magazine April 1998, pp.95-97.
ゥ1997 BACKOFFICE MAGAZINE by PennWell Publishing Company.