Platoの真実

ナレッジ(知的資産)の重要性を認識している企業が知っておくべきこととは


BY Sam Hamdan 翻訳 三重野 研一

略歴
 Sam Hamdan:WebSoft社のマネージングディレクタ.WebSoft社は,IT戦略立案などを行う企業向けコンサルティング会社.emailは,shamdan@websuave.com

 信者のみが救われ栄える黄金時代が来るという,ギリシャ劇のMicrosoft版の到来か.ある学派を指揮していた古代の哲学者のように,Microsoft社がボトムアップなナレッジデリバリアーキテクチャの学派を指揮していると見ることも可能なのだ.

● プラトン = Microsoft ?
 例えThales(訳者注:古代ギリシャの哲学者「タレス」.英語の発音は「セイリーズ」)が最初の偉大なギリシャの哲学者であったとしても,ギリシャの哲学者の中では,Plato(訳者注:古代ギリシャの哲学者「プラトン」.英語の発音は「プレイトウ」)が最も良く知られている哲学者であろう.この特権階級の人物Platoは,Aristoclesと呼ばれていたが,肩幅が広いために学生時代は,Platonというあだ名が付けられていた.「Platon」は「幅の広い("broad")」という意味である.
 紀元前389年,Platoは最初の大学であるAcademy(訳者注:「Academy」は「アカデミー学派」や「プラトン学派」や「プラトン学派の信奉者」の意味も有する)を設立した.
 Academyの主な目的は,思想を教化し,良識に富む統治がギリシャの町々で再び行われるようになることにあった.Platoは,残りの人生のすべてを,大学を運営することとともに,政治上のアドバイスを友人らに行うことに費やしたのである.
 Microsoft社のPlatoもまた,「幅広く("broad")」考えている.Platoは,Microsoft社のDecision Support Services(DSS)のプロジェクトのニックネームである.本プロジェクトの使命は,その思想を教化し,ナレッジデリバリマーケットにおいて良識あるオープンスタンダードの採用を実現することにある.
 ここで言うナレッジデリバリマーケットとは,データウェアハウス,データマート,データマイニング,オンラインアナリティカルプロセッシング(OLAP)などを言う.
● Platoで加速するデータマート
 OLAPアプリケーションをサポートすることを企図したPlatoは,部門別および職務別のビジネスライン(LoB: Line of Business)における広範なソリューションにとって,必須の製品となる.広範なソリューションには,レポート作成や分析といったものからデータのモデル化や意思決定支援といったものまで,幅広く含まれる.
 市場に出ているほかのOLAP製品と比べてみると,Platoは革新的な製品と言えるだろう.説得力のある価格体系,製品を学習し展開するのに要する時間,TCO,スケーラビリティにおける適切さ,使いやすさ,データ管理の機能的な特徴,などといった点から見て,Platoは,革新的な製品と言えるのである.
 ナレッジデリバリマーケットの混乱の最中に,またデータウェアハウス構築時代に,Platoは生まれ出ようとしている.BackOffice製品とセットで販売されるPlatoが出荷されると,部門別/職務別ナレッジデリバリアーキテクチャであるデータマートが,全社的なデータウェアハウスの構築よりも速いテンポで増加するようになるのは,当然のことのように思われる.
 これは,Microsoft社がボトムアップなナレッジデリバリアーキテクチャを指揮,指導することを押し進め,企業が部門別に行うOLAP能力の飛躍的な向上を可能にするであろう.
● メタデータの共有によるデータマートの構築が増える?
 統合化されたKnowledge Delivery Frameworkについて語っている際には,実際には,エンタープライズナレッジウェアハウスの構築,活用,管理のためのコンポーネントについて語っているのである.これには,データのマクロマイニングエンジンおよびデータのミクロマイニングエンジンとの統合という問題も含まれる.
 Microsoft社のKnowledge Delivery Frameworkにおいて,同社は,強固に統合化されたフレームワークを提供してくる.ほかのデータウェアハウスベンダーのアプローチに比べ,Microsoft社のアプローチは,それほど混乱を来すようなものでもないし,費用効率の悪いものでもないのだ.
 この同社の統合型フレームワーク,すなわちKnowledge Delivery Frameworkは,NT上でデータマートを構築し稼動することを当面の目標としている.Microsoft社のアプローチを見れば,同社が,データウェアハウス分野における現在の動向を以下のように認識していることが分かる.
 その認識とは,集中方式による全社的なデータウェアハウス構築の傾向よりも,むしろメタデータの共有によるさまざまなデータマートの構築の傾向が強まる,という認識である.

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全社的なデータウェアハウスの構築が少なくなって行くのに対し,データマートの構築は増加している.ナレッジを活用し,主体的に働く人達が個人的な多次元キューブやOLAPキューブに頼る傾向は,ますます強まるだろう.

 しかしながら,我々の経験から判断すると,企業は依然として「データウェアハウス対データマート」という問題に取り組んでいるように思われる.中央集中型データプロバイダにより管理されながらも,それと同時に分散型データプロバイダ/コンシューマ戦略に合致する,企業を発展させるための社内のナレッジデリバリに関するフレームワークの創造と拡大戦略という問題は,一般的なものとなっている.
 このことが,データウェアハウス構築のためのツールやコンポーネントを開発してきたMicrosoft社に,理解されていないはずはない.
 ボトムアップによるナレッジデリバリ環境(データマートフォーカス)の構築,活用,管理のための,統合されたメタデータ駆動型アーキテクチャを,Microsoft社は発表している.
 誰もが抱く疑問は,現代の新しいPlatoは期待にこたえることができるのだろうか,という疑問である.マーケットシェアを得るべく競い合っているナレッジデリバリエンジンの中から,特徴という点においてもTCOという点においても,果たしてPlatoは,最良のものとして出てくるのであろうか.

上級経営者層のニーズ

 今日,フロントエンドの分析ツールは,企業精神という抽象的な価値へ向けて,企業戦略を押し進めるためにナレッジの適用を促進するための主要な役割を果たしている.
 ナレッジを表出するフロントエンドツールは,ビジネスの成功,グローバル化,顧客中心の組織といったものの重要な推進力ないしは原動力となっているのだ.
 ナレッジデリバリエンジンに関する今日の課題を述べるとすれば,以下の点を指摘できよう.それは,例えばVisual Basicのようなツールを使って,いかにも経営者向けであるとか,いかにも自然な英語であるといったようなインターフェースをハードウェアに組み込むがごとき(hard-wiring)方法に頼るのではなく,一揃いのフロントエンドツール(ソフトウェア)に固有の,人間であれば誰でも直観的に認識できるインターフェースの能力というものが,今日のナレッジデリバリエンジンにはない,という点である.
 例え今日のフロントエンドツールが中級経営者層のニーズには応じているとしても,依然として,上級経営者層のニーズには応じてはいないのである.
 今日のフロントエンドツールには,上級経営者層が,重要な目標を達成する上で抽出したナレッジを適用するのを容易にするような,適切なデータマイニングコンポーネントが欠けている.
 上級経営者層が必要としているのは,人間であれば誰でも容易に直観的に認識できるインターフェースを使って情報のタイムリなデリバリを確実なものにするテクノロジや,企業の事業戦略実現のために知的資産(ナレッジ)を適用することを促進するテクノロジである.

多次元分析への挑戦

 Richard Connelly氏は,同氏の著書「多次元分析者としてのマネージャ」(The Multidimensional Manager)の中で,「マネージャ達は,必ずしも自分達が多次元的に考えているという自覚はないが,多次元的に思考していること自体は事実だ」と述べている.まさにその通りだ.マネージャ達が理解しようとする数字は,顧客,製品,営業担当者,そのほか種々の要因の多種多様な相互作用で産み出されたものである以上,マネージャ達が,多次元的に思考せざるを得ないのは当然のことである.
 紙で当該情報をデリバリするのは,有益ではない.例え1ページ当たり50行としても,何十冊もの「戦争と平和」〔War and Peace:ロシアの小説家,思想家LevNikolaevich Tolstoy(1828年生〜1910年没)の小説〕に等しい長さのレポートをレビューするようなものだ.別の面から言えば,マネージャ達が,相当のレベルの詳細さにまでドリルダウンすることができなければ,コストとマージンの本当の推進力なり原動力なりをとらえることはできないのである.
 Microsoft社は,多次元分析を必要とする市場の存在に自分達は気付いているということを市場に対して知らしめることの重要性を,認識している.
 そこで,多次元分析を必要とする市場の存在にMicrosoft社が気付いていることを市場に知らしめる方法として,ナレッジデリバリエンジンを市場に出そうとしているのである.これにより,Microsoft社は,企業の分析上のニーズに応じようとしているのである.
 SQLベースのリレーショナルデータベースでは,あまりにも遅すぎて,多次元分析の能力を,本来提供できるものではない.例えば,集計,ドリルダウン,クロス集計,時系列分析,といったものなどである.Microsoft社は,非常に多くの問題を解決することのできるオープンテクノロジに基づく個人市場向けモデルの提供に,既に着手している.
 SQL Server用のPlatoの出荷により,1999年第4四半期までには,部門別および職務別分析のための強力なエンジンを,私たちは得ることになるであろう(最も,Plato自体は,1998年第4四半期までには利用できるようになる見込みではあるが).Microsoft社のデータウェアハウス戦略のコアコンポーネントであるSQL Server 7.0は,同社の能力に直接的なインパクトをもたらし,2年間で,同社の企業優位性を格段に高めることとなろう.Platoは,ハイエンドエンジンと直接競合すると考えられる.
 2000年までに,各社は,成長,発展する上での分析上のニーズを解決するための戦略的なオプションとして,Microsoft社のPlatoを考えるようになる.それまでは,各社は,ナレッジデリバリマーケットへのMicrosoft社の参入がもたらすインパクトを,主体的に評価することに励むであろう.
 Platoの将来を考える上で,最初にしなくてはならないことは,オープンスタンダードに対するPlatoの影響を認識することである.Microsoft社は,ローエンドベンダーならびにハイエンドベンダーの多くに,自分達のアーキテクチャを公開することを,促している.当座は,Oracle社やArbor社はOLAP用にOLEDBを採用すると,考えられている.それは,政策上の出荷時期の問題であって,将来を展望した上での仮説に基づくものではないと,考えられる.
 その上,経営層は,データが爆発的に増加するという問題の対処能力に関して,Platoと機能的に競合するソフトウェアを評価し,選別する必要に迫られることになるだろう.
 データの爆発的な増加は,一般に,集計処理の最後の20%の中で発生する.Platoは,「発見的方法」(訳者注:「ヒューリスティックス」もしくは「ヒューリスティック」とも言う)を活用し,ほかのすべての集計を引き出すことができる,最適な集計方法の集合を決定する.
 その結果,Platoは,データウェアハウス全体をスキャンするのではなく,わずかに存在する合計値から集計されていないデータを演繹することが,可能になるのである.
 実際に使用されるパターンに応じてパフォーマンスの最適化を図るために,Platoは,サーバーに送られた個々の,かつすべての照会(クエリ)のログを取る.そして,Platoが保持する集計方法の集合を微調整する際に,当該ログが利用されるのである.
 例えば,簡単なウィザードからデータベース管理者がPlatoに対し,回答を引き出すのに数秒以上かかったすべての照会(クエリ)の集計方法の新しい組み合わせを作成するよう指示することが,可能となる.ここで言う数秒とは,10秒もしくはそれ以上の秒数のことを想定している.

ROLAP, SHMOLAP?

 企業は,柔軟性に富むデータモデルを求めている.「リレーショナルオンラインアナリティックプロセッシング(ROLAP)対多次元オンラインアナリティックプロセッシング(MOLAP)」などと言う問題に,企業は悩まない方がいい.企業が関心を向けるべき問題は,ROLAPとMOLAPそれぞれの方法の強みなり長所なりを利用する,戦略的なナレッジデリバリとマネジメントアーキテクチャをどう実現するかという問題だ.
 この問題の解決のために,Microsoft社は,適材適所にROLAPとMOLAPの両方をインプリメントできる能力を,企業に提供する考えだ.
 だが,Platoはデータキャッシュが表せるため(MOLAPはパーマネントキャッシュ, ROLAPはテンポラリキャッシュ),Platoのデータ管理能力の内ROLAPに関する部分を活用して,Plato が持つMOLAP環境用に多次元データをあらかじめ自動的に集計し展開しておくことも,可能である.
 また,Plato が持つROLAP環境の多次元データをPlato 内のMOLAP環境用に自動的に変換する,このPlato の多次元データ変換機能は,Plato内の多次元データをPlato 以外のMOLAP製品用に変換することにも利用できる.
 このモデルは,SQL Server 7.0とほかのRDBMSがMOLAP分析用の多次元データの集合を体系化し管理することが本来的にできるようになるまでは,存在するであろうROLAPとMOLAPのギャップを埋める上で,有益であろう.

Microsoft Repository

 1999年中は,Microsoft社もOracle社のようなほかのベンダーも,種々のソフトウェアから成るDecision Support Servicesツールの有効性を高めることを継続していくものと思われる.
 これに含まれるものとしては,RDBMSと多次元エンジンのスケーラビリティ,統合型メタデータの能力とディレクトリ,データのリアルタイムな分散と同期化をサポートする多種多様なデータの変換機能,データの品質管理,集中型データプロバイダとオンライントランザクションプロセッシング(OLTP)システム間のクローズドループ型のデータマイニング機能のサポート,などが挙げられる.
 Microsoft社は,アプリケーション,コンポーネント,データに関して共有化でき再利用できるメタデータの有効な情報の共有化と同期化を促進するレポジトリを,提供してくる.同社のレポジトリのコンポーネントは,情報モデル,COMインターフェース,SQLスキーマ,レポジトリエンジン,モデル化ツール,管理ツール,で構成されている.主要なベンダー60社以上が,Microsoft Repositoryとのインターフェースの用意をすでに表明している.その内30社ほどが,単にMicrosoft Repositoryとのインターフェースを用意するだけにとどまらず,自分たちの製品の中に,Microsoft Repositoryを組み込むことを正式に表明している.例えば,Platinum社は,Microsoft社と提携し,Windows環境以外のプラットフォームやSQL Server以外のデータベースにMicrosoft Repositoryバーション2.0を移植する作業に着手している.
 Microsoft Repositoryは,共通のデータウェアハウスインフラストラクチャを提供し,データウェアハウスの新たな領域(例えばDTSモデルやOLAPモデルなど)を提供することで,ナレッジデリバリフレームワークの重要なコンポーネントとして,役立つことになる.
 Microsoft社製品とPlatoの統合という点に関しては,PlatoはSQL Server,Excel,Internet Information Server(IIS),Visual C++,Visual Basicといった製品と強力に統合化され,インタラクティブな分析のための開発用フレームワークに必要なもののすべてを提供してくることになる.SQL Serverがデータウェアハウスやデータマートの管理,運営に利用される場合は,PlatoはOLE DB経由で当該データにアクセスすることになる.また,SQL Server以外のDBMSであってもOLE DB準拠のDBMSであれば,どのようなものでもPlatoはOLE DB経由で当該DBMSのデータにアクセスすることができる.
 SQL Serverは,Platoのメタデータの保管場所としても利用されることになろう.ROLAPソリューションを展開している企業は,SQL Serverを集計結果の保管場所として活用することになるだろう.OLAPソリューションのメンテナンスを自動化するために,PlatoはDTSとともに,データウェアハウスから直接データを取り出し,MOLAPアプリケーションもしくはROLAPアプリケーションへ当該データを直接投げ込む機能を有することになるだろう.
 PlatoのDBAツールは,Microsoft Management Console (MMC)のスナップインとしてインプリメントされる.PlatoとSQL ServerがMMCを共有して利用するということは,データベース管理者にOLTPとOLAPサーバーの両方の集中管理機能を提供することになるということだ.
 Excel 9(2000)は,Platoのピボットテーブルサポート機能をネイティブで持つ見込みだ.Excelには,Platoのピボットテーブルサービスコンポーネントも組み込まれるだろう.このPlatoのピボットテーブルサービスコンポーネントは,リレーショナルデータを多次元スキーマで包むことができ,モバイルコンピューティングのソリューションとして利用することができるものである.
 ユーザーは,Platoの照会(クエリ)とデリバリの両方,もしくはどちらか一方を媒体として,Internet Information Server(IIS)を利用することが可能だ.IISとPlatoで,開発担当者は,ADO MDコードを実行して強力なWebベースのOLAPソリューションを作り出すASPを書くことができる.
 Visual Basicのプログラマは,ADO MD経由でPlatoのデータとメタデータに,何の制約も無くアクセスできる.C++プログラマは,OLAPインターフェース用OLE DB経由でPlatoにアクセス可能だ.ADO MDおよびOLE DBとも,Platoのピボットテーブルサービスコンポーネントを通して,クライアント側でインターフェース仕様を確認することができる,
 Platoサーバーは,完全なオブジェクトモデルも有している.このオブジェクトモデルは,Visual C++ならびにVisual Basicでプログラミング可能だ.Platoサーバーのプログラムは,システムのメンテナンスを合理化するように書くこともできるし,あるいは,PlatoのOLAP Managerの機能本位なところを見た目を工夫してより親しめるように書くこともできる.
 2000年中には,Microsoft社のWindows NT,SQL Server 7.0そしてPlatoは,全社的なデータウェアハウスの増加スピードよりも,より速いペースでのデータマートの増加の,推進力ないしは原動力となるだろう.
 同時に市場では,ローエンドからミッドレンジのテクノロジのベンダーの後退を見ることになるであろう.ハイエンドの市場では,ハイエンドベンダーは,当初,2000年第1四半期までは,Windows NT,SQL Server 7.0,Platoの影響をそれほど大きく受けることはないと予想される.
 PlatoとほかのBackOffice製品で,企業は,ボトムアップなナレッジデリバリアーキテクチャに専念し続けることが可能になるだろう.また,PlatoとほかのBackOffice製品により,企業は,インテグレーションの問題に対して適切な注意を払いながら柔軟で多種多様なソリューションの優位性を確立し続けることが可能になることと思われる.
結論:Microsoft社にとって,ナレッジデリバリの問題は,もはや手の付けられない難問などではない.


出典 BackOffice Magazine Aug. 1998, pp.89-92.
(c)1998 BACKOFFICE MAGAZINE by PennWell Publishing Company.

1999年1月号掲載