インタビュー
これが,「FLORAネットターミナルセット」だ!

岩村 益典

  「百聞は一見にしかず」ということで,日立のNet PCを応用した「FLORAネットターミナルセット」について,デモを交えて取材させていただきました.感想を一言で表すと,まさに「コロンブスの卵」と言うか何と言うか,「10BASE-Tでこれほどのパフォーマンスが実現できるのか!」でした.自分のマシンにHDDが搭載されているかのような感覚で使用できるのに,HDDの音がしないのが奇妙に思えるほどです.このシステムを完成させるために,Windows 95,Windows NTを詳しく調べたという,日立の技術力に脱帽…….この種のシステムに対応したソフトウエアが数多く出てくることを,ユーザーとして強く希望します.

 このシステムは,クライアントにはHDDを搭載せず,グループサーバーと呼ばれるサーバー上に各クライアント用のディレクトリーがあります.各クライアント固有ではないファイルは,リードオンリーの共有ディレクトリーに保存され,各クライアント用のディレクトリーには固有のファイルのみがインストールされています.このディレクトリー,クライアントマシンから見ると,なんとCドライブになっているではありませんか.見事としか言いようがありません.また,Windows 95のインストールについても,各クライアントの固有ファイルを用意するだけなので,1台あたり数分で終わってしまうのです.見た瞬間に「これ欲しい!」と思えるシステムです.

デモンストレーション

 早速,技師の竹本さん・加藤さんにデモンストレーションを見せていただきました.使用したマシンの構成は,表1の通りです.

■ ディレクトリーはこう見える

 サーバーのディレクトリーをエクスプローラで見てみましょう(図1).

Windows 95を構成しているファイルは,リードオンリーのすべてのクライアントで使用する共有ファイルと,クライアントごとに固有のファイルとに分けることができます.各クライアントのWindows 95共有ファイルは「E:\Netwin95\Server」に入っています.各クライアントのWindows 95ファイル,アプリケーションファイルは「E:\Netwin95\Client \Clnt0100」などに入っています.つまりクライアントの数だけディレクトリーが作成されるのですね.これをマシンディレクトリーと呼んでいます.

 では,クライアントマシンでエクスプローラを起動してみましょう(図2).

先程のマシンディレクトリーが,クライアントから見ると,あたかも自分のマシンのCドライブになっています.これが新技術です.クライアントマシンのユーザーはあたかも自分のマシンにHDDが取り付けられているのと同じ感覚で操作できるのです.実際のエクスプローラの操作でも,なんら通常と変わることがありません.Cドライブとして使用することができます.
 Windows 95の共有ファイルは,リードオンリー属性が付いているので,クライアントマシンから変更することはできません.このような仕様により,各クライアントのWindows 95のインストールは,各クライアントの固有ファイルだけなので,ほんの数分で済みます.また,Windows 95共有ファイルがアップデートした場合でも,サーバーの共有ディレクトリー内のファイルをアップデートするだけで,すべてのクライアントのWindows 95もアップデートされるわけです.

 Office 97も同じような構成で,共通で使えるファイルは共有ディレクトリーに,各クライアント固有のファイルだけ,マシンディレクトリーに入っているのです.実際にクライアントからWord 97を起動してみましょう.
 「スタート」-「プログラム」-「Microsoft Word」と操作すれば起動します.スタンドアロンのデスクトップマシンと同じです.

―――このWordの起動は,予想以上に速いですね.

 一度起動するとメモリーに読み込まれるので,2台目のクライアントで起動するときはもっと速くなりますよ.日本語変換もこの通り,かなり快適です.辞書本体は共有ディレクトリーに,日本語変換の学習情報は各マシンの固有のディレクトリーに保存されるんです.

――こうして見ると,いわゆるクライアント/サーバーシステムとはずいぶん感じが異なりますね.ユーザーから見るとスタンドアロンマシンの感覚で使用できる,管理者から見るとOSの再インストールやアップデート,ウイルスチェックなどがワンタッチで行える,という本当に便利なシステムですね.

 システムを守るためとはいえ,ユーザーに操作性の点で違和感を与えるわけにはいかないんですよ.この仮想HDD機能では,各クライアントからはほかのクライアントのドライブを見たり触ったりすることができないようにしているので,自分のマシンのHDDを操作しているのに比べて,全く違和感がないと言えるでしょう.
 アプリケーションにバージョンアップがあって更新用のDLLファイルがある場合には,このDLLファイルがマシン固有のものであればサーバー上のマシンディレクトリーに格納しますし,共通で使える共有ファイルなら共有ディレクトリーに格納するだけで,バージョンアップは終わりです.すべてHDDがサーバーにありますので,クライアントのところまで行く必要がないのです.管理者は,すべて自分のデスクの上で作業ができますし,クライアントの前に座っている人は,パソコンについての深い知識は特に必要ありません.

―――共有ファイルや固有ファイルという切り分けはすごく大変な作業だったのではないですか?どれが共有されているファイルか,実際その機能は何かと,1つひとつ特定していくのですよね?私たちがまねをしようと思ってもなかなかできない部分があるんでしょうね.それが,ノウハウという部分ですね.

 そうですね,リソースキットを隅から隅まで読んで,細かいところをチューニングして,モジュールを作って,サーバーからインストールができるような形にしました.

■ リモートで電源コントロール

 次にリモートで電源のON/OFFを実行してみましょう.電源のON/OFFはサーバー側のWeb上で動くアプリケーション(通称「クライアントモニター」と呼ばれている)で実行します(図3).

起動しているマシンのアイコンはブルーになっています.電源のON/OFFは個別に行うこともできますし,電源OFFは,すべてのクライアントで一斉に行うこともできます.例えば,グループサーバーの電源が入ったと同時に,クライアントを一斉に起動させることもできます(図4).

つまり,電源のON/OFF管理をサーバーで集中して行えるのです.
 クライアント電源OFFの設定もこちら(図4)で行うのですが,サーバーからクライアントにOFFの要求を出すと,クライアント側では,「1分後に電源がOFFになります」というメッセージが表示されるようになっています.これは,データを保存したりする時間を確保するためです.もちろん,1分以上に設定することもできます.クライアント側では,メッセージを受け取った時に,もっと作業したい場合は,電源のOFFを拒否することもできます.  2台目のクライアントの方で電源のOFFを拒否してみましょう.そのことがサーバー側のクライアントモニターに表示されています.この拒否に対する強制終了は,今回のバージョンでは行わないようにしています.ユーザー登録カードの様子を見て,管理者の方が優位な地位に立てた方がよい,ということになれば強制終了できる仕様にするつもりです.なお,1分間待つことなくクライアント側でシャットダウンしても,もちろん構いません.ディスプレイもグリーン機能,つまり節電機能付きなら自動的に節電モードに入るので,マシン全体がストップすると考えていいです.
 また,電源を一斉にONにする時には,各クライアントごとに5秒ずつ間隔を置いてWindows 95を起動するようにしています.

―――その間隔には何か理由があるのですか?

 ええ,ファイル読み込みのピークを少しでも分散させる意図です.すべてのクライアントが一斉に同じファイルにアクセスするとネットワークのトラフィックが多くなってしまうのです.いろいろ調べて試した結果,5秒くらいが良かったのです.クライアントの電源がONになり起動すると,数秒後にサーバー側のアイコンがブルーに変わります.

■ ZAKも使える

―――この「FLORAネットターミナルセット」に,ZAKを入れることもできるということですが,ZAKに関してはどうお考えですか?

 どうしてZAKが必要なのかというと,TCOの低減のためには,エンドユーザーに余計なこと,不必要なことをやらせない,が重要だと思うのです.現在のZAKではまだ十分とは言えませんが,それでもかなりユーザー側でできる操作を制限することができます.Webでデータを見るだけのマシンなら,エクスプローラなどを起動させないようにする必要もあるでしょう.ただ,ZAKの導入は設定が大変なのが難点ですね.
 通常の画面とZAKの画面を比べてみると,例えばこのZAKを導入したデスクトップ上にはアイコンがありません(図5,図6).

   

マイコンピュータとかネットワークコンピュータなどは必要ないわけですよね.アルバイトの人などが使用するマシンには,まずそういうものを制限してしまいます.メニューの方も不必要なものは削って,これだけシンプルにできるということですね.

インタビュー

 概要がわかったところで,主任技師の富沢さんと鈴木さんにお話を伺いました.

■ 開発に至る経緯

―――このシステムの開発のきっかけについて教えてください.発想としては誰でも思いつくことかとは思うのですが,ネットワークユーザーが同時に同じファイルにアクセスしたときのパフォーマンスがネックになるのではないですか?例えば,辞書などに何人もが同時にアクセスしてしまうと,変換が遅くならないかなあとか.多くの人が「どうせやってみても実用にならないかなあ」でやらずに諦めてしまうようなことを,見事に実現している点がすごいですね.このハードルを越えて実現しようとしたきっかけを教えてください.

 まず,企業の中でインターネットの技術をどのように応用していこうか,という話がありました.ちょうど,2年くらい前です.そのころWindows NTが華々しく世の中へ出てきて,これを利用すれば,おもしろいことができるんじゃないか,TCOという言葉は使いませんでしたが,全体的経費の低減につながる製品を作れるんじゃないか,と考えました.そこで暖め始めた企画が現実に動き出してから,実際の製品化までは半年くらいでしたね.

―――今回が最初の版のリリースということですね.

 今まである技術を使っている部分も多いですから.
 以前のホストコンピューター,つまり汎用機の場合だと,ほとんど「何か処理してくれ」と送ったらその処理結果を出してくるだけでしょう.そういうものが本来,クライアント/サーバーとして考えられてきたのです.そういう意味では,今のクライアント/サーバーシステムというのは少し違いますね.何といってもトラフィックの発生の程度が違います.クライアント側のメモリーに,サーバーに入っているアプリケーションを起動したものが入って,動いているわけです.

 違うと言えば,お客さまからの問い合わせも変わってきましたね.調べてみれば簡単に解決できるような質問が増え,ネットワークの管理といったことを本当に考えさせられます.そういう意味で,Net PCを日立は作らないのか,という顧客の声もありましたし,クライアントの管理を一元化すると言う意味もあって今回のシステムを設計することになったのです.

―――管理部門があって,担当者がいて,というところでも,その人たちが見てもわからない,もしくは社内全体走り回るわけにもいかない,そんな時に集中的に管理できるかどうかはかなりの労力の削減になる,というのはよく分かります.

 そうなんです,このシステムでは,サーバーが1ヵ所にあるので,管理も楽です.バックアップも1ヵ所で済みますし.それに,このシステムでは,管理といってもクライアントの電源投入・切断などの処理は簡単ですし,保守もアプリケーションの再インストールで済むので,管理者に高いスキルを要求する必要もありません.実際,かなり大規模な会社でないと,なかなか専門的な技術は望めませんからね.

■ 努力は続く

―――Windows95で,どのファイルがリードオンリーで共有ファイルとして使用でき,どのファイルがマシン固有のファイルか,といったことはMicrosoftが公開しているのですか?もしそうなら,リモートブートは無理でも同じようなシステムを作れるように思うのですが?もちろんライセンスの問題はあるでしょうが.

 そう簡単には行きませんよ.Windows 95のファイルについては,すべて私共で検証しました.Windowsの起動システムまで調べました.そうしないと,複数のマシンを同時起動するときにパフォーマンスが低下するのです.複数のクライアントが同じファイルを参照してトラフィックが増加するんですね.このあたりも日立の技術が生きているんですよ.あなたがお持ちのWindows 95で同じことをしようとしても,そう簡単には行かないと思いますよ.また,チューニングは継続して行っています.まだ終わってないですね.一通りのことはできましたが,まだまだ最適化できるところがあるでしょうから.

―――見せていただいたところでは,確実に上手くまとめられたシステムという印象です.しかし,Windows NT 5.0が発売されると,これらの機能はほとんどWindows NT側で用意されてしまうのでしょうか?

 ある程度は,Windows NT 5.0でサポートされるでしょうが,リリースしたばかりのOSの新機能には未知数の部分が多いですから,顧客にお勧めするのは普及してからになりますし,それには時間がかかるでしょう.もちろん,このシステムもWindowsの進化と共に進化していきます.顧客は顧客で実現したい目的があり,それを実現することが第一で,OSが何かと言うことは大きな問題ではないんです.

―――確かに,個人ユーザーの場合は新しいもののほうが良いのかなという感じがしますが,ビジネスとなると別の観点が必要ですね.

■ ここが◎

―――設定など,初心者にはあまり触ってもらいたくない部分もありますね.ZAKなどはまさにそういった点を考慮されている製品ですよね.

 そうです,クライアント側でできることを制限することもできるので,例えばアルバイトの方にマシンを触らせるとか,パソコン教室で生徒に教える場合などに重宝しますよ.

―――びっくりしたのがレスポンスの速さなのですが.

 そうでしょう,10BASE-Tを使った場合で10台くらいのクライアントならIMEのアクセスでもストレスは感じませんよ.それに,今回のクライアントマシンのメインメモリーは32MBですが,64MBくらいにするとディスクスワップ が減るため,Office97がメモリー上で動作するので,もっと速いです.何と言ってもこのシステムの場合,ディスクスワップもネットワークを介して行っていますから,あるとないとでは大違いです.

―――クライアントのメモリーは,どのくらいを推奨されますか?

 標準で32MBを搭載していますが,やはりサイズの大きいWordやOfficeなどを使うアプリケーションでは64MBを推奨したいですね.サーバーは128MBが,一応必要条件ですね.というのは,スワップファイルもサーバー側にあるんです.そうすると大量のデータを書き始めると,まずクライアント側の方からスワップが発生して,サーバーに負荷がかかります.

―――ちなみに,100BASEにすると,接続できる台数というのはどのくらいになりますか?

 見積もりでは,30台くらいではないかと思っています.しかし,100MDPディスクや2倍,2.5倍,上手くいって3倍程度しかたぶんできないだろうというデータもあります.今の環境でこのクライアント10台分が大丈夫ですから,同時使用は10〜30台となりますか?同時使用でないのなら,何十台でもよいというとそれはそうなんですが(笑).一応は10台から15台ですね.

■ 本当に手軽なインストール

―――こうしてみるといろいろと活用法が見えてきますね.

 そうですね,インストールが速い(図7)ということで,パソコン教室なんかにも良いですよ.授業が終わった後で,すぐに再インストールできますから,それこそ生徒さんに好きなだけいじってもらうことができますし.今はWindows 95のみですが,近くOffice 97も簡単にインストールできるようになります.

―――私の知っているパソコン学校では,インストールのために,アルバイト2人がずっと残っているのです.夜9時に教室が終わってから,10時半までかかって総掛かりで入れているのです.

 今の現実はそんなものなのでしょうね.

―――その学校の場合,ネットワークがありますので,ネットワークがなければ一太郎やWordなどのアプリケーションのインストールだけ,環境設定ファイルを書き換えるだけで済んだのが,ネットワークになると生徒が何処を壊しているかわからないんですよ.気がついたらTCP/IPがなかったとか,NetBEUIがどこかに行っていたとか,いちいち調べなくてはならない.調べるくらいなら,OSごと再インストールした方が楽,となってしまうのです.インストールの詳細も全員が知っている訳ではないですから,Windows 95でネットワークの講習,などですと大変みたいです.
 そんなところに,このシステムがあれば楽でしょうね.

 よく自動車教習所にあるような学科試験練習システムなどの,ユーザーに○×を選んでもらうだけ,といったアプリケーションの場合も,このシステムの活用法として有効でしょう.教習所でいうと,予約関係などにもよ良いかな.遊園地などでも,各売店と中央がつながっていて,今日はポップコーンがいくつ売れた,何個発注が必要だ,などがすぐ把握できる,なんてシステムも良いかもしれませんね.

―――本当に使い方を工夫することによって,いろいろなことができる可能性を持っているわけですよね.大きいところで考えると,企業ネットワークの中にこのシステムを組み込んで使うといったことも有効ですね.

 そうです.データを見るだけの部門もありますし,顧客が触るマシンもあるわけですから,その環境が必要とするシステムを考え,このシステムが適当であるところに導入すればよいのではと思います.例えば,伝票入力専用のシステムなどが考えられます.

―――SOHOという観点からも有効なシステムですね.

 接続ユーザー数にもよりますが,通常業務にも,速度的に問題ないと思います.クライアントのAさんが,例えば10MBのコピーなどを始めてしまったりすると遅くなりますけど(笑).それに,管理するにも集中していて楽ですし,管理が楽な分,社員教育費も減らせるわけです.「これはしてはいけません」リストを作ってディスプレイに貼っておく必要がないわけです.

―――最後に一言,そして,今後の課題について,お願いします.

 システム導入の費用は,普通のシステムに比べて大幅に削減できるわけではありません.しかし,管理コスト,すなわち時間などを大幅に低減できるシステムなのです.TCOというと,どうしても資本主義社会なのでお金の方に考えがいってしまいがちですが,この手間というものを考えるとこのシステムの効果は絶大なのです.再インストールやバージョンアップ,ウイルスチェックもサーバー側のディレクトリーを触るだけなのですから.クライアントのシステムが壊れても,サーバー側のマシンディレクトリーのみを復旧すればよいのです.
 不要なことを排除して必要なことをきっちりする,それがTCO低減の基本だと思います.原点に立ち返って,本来の業務に必要なシステムとしてはどういう設定がよいかを考えた上で,最適化を行っていく必要があります.不要なハードディスクがあるために経費がかかっていてはいけないのです.

 今後の課題としては,いろいろあるのですが,このサーバーはPDC(プライマリドメインコントローラ)のみサポートしているんですよ.そうすると,企業内にPDCが何百,何千という形になってしまいますね.解決策はもうあるのです.このサーバーは普通のスタンドアロンサーバーとし,アクセス権をPDCからもらって,ぶら下がっているクライアントを起動する,ということですね.
 また,クライアントが増えると,デメリットとしてそれをまとめるサーバーも増えてしまいます.1台のサーバーにつき10台,とした場合にクライアント50台分だとサーバーが5台になるわけですよね.5台のサーバーを1人の人間が管理するのは非常に大変なので,代表サーバーという機能を設けて1台のサーバーがほかのサーバーの面倒を見れるような機能を作ろうかとも思っています.


BackOffice Magazine 1998 May 1998年5月号掲載