「5.0を待ちながら」新連載 NT5.0エッセイ

・ Chapter 1 ・
BY KEITH WALLS 翻訳 中川 寛之

 「40」歳後のあなたの将来については,あなたがどうしても率直な意見を聞いてみたいというのなら,どうぞ.我々はそれをだめだなんて言うことはできない.なぜならそれは,劇作家サミュエル・ベケットの言うところの抗しがたい人間の条件が,不毛の世代の不安を呼び起こしているのだから――.そこへいくと,Windows NTバージョン「4.0」後については大いに違う.「5.0」には高い期待と熱い願いが寄せられている.さあ,開発と同時進行で進むリアルタイムの連続ドラマ「NT5.0を待ちながら」の開幕だ.今回はその第1幕である.

 MicrosoftはWindows NTバージョン5.0に「社運を賭けている」と言っている.確かに,Microsoftの言い方は誇大広告であり大げさである.だが,それはかなり本当のことでもあるのだ.Windows NTおよびBackOfficeスイート製品が強力なマーケットポジションを目指していることはだれにも否定できない.実際,その特色,OSに隠れた力強さ,およびBackOffice製品群はNTが市場で支配的ポジションを獲得するのに貢献することだろう.  だからこそ私はここで集中して,今後数ヵ月にわたり,Windows NTバージョン5.0の背後にあるものは何か,どんな技術が使われているのか,そしてその価値は――といった詳細を,そうした情報を必要としている人々に提供しようとしているのである.

 そして,それらをソフト開発者,ネットワーク管理者,戦略的アナリストの3つの視点に合致するような形でお届けしようと思う.しかし,この場でバグをあげつらってはしゃぐつもりはない.私はこの「5.0を待ちながら」を,まだリリースされてもいないMicrosoft製品に関してバグを見つけたとか,こんな不満があるといった雑誌のフォーラム的な場とする考えはない.もしあなたがWindows NT5.0のベータ1版を使っていて,それについての問題やコメントをレポートしたいのであれば,通常のしかるべきルートをとってもらいたい(そもそもベータ版というのは,その名が示すとおり,学習用のツールとして区別して取り扱われる必要がある.もしあなたがベータ版に製品版との類似点を求めようとするならきっと満足できないだろうし,製品版が発売されるまでインストールするべきではない).Microsoftからの製品版のリリース予定日は1998年7月から9月までの間とされている.私としてはMicrosoftに,発売予告日や目標など一切合切を忘れてもらい,製品版としてリリースする前に,動作が安定していて,信頼性があり,拡張性に富み,そして盛りだくさんな機能を備えたOS作りに専念してもらいたいものである.

テスト方法

 我々はWindows NTバージョン5.0のベータ1をIT\IS Labsのサーバーとワークステーションにインストールした.現在のベータ1は初期段階のベータ版で,高度で中期的な計画策定者とソフトウエア開発者が新しい機能に慣れ親しむことを目的としたものである.

新たな発見

 やがてお分かりになるとは思うが,バージョン5.0には膨大な数の新機能が盛り込まれており,それらの多くはお互いに重なり合うように作られている.このため新OSではすべての階層で信頼性が非常に重要になってくるのである.  ここで間違ってはならないのは,NTバージョン5.0はこれまでのバージョンに比べて相当に異なるものであり,また相当に大型化したソフトだということだ.さらに,バージョン4.0に比べると非常に,そしてはっきりと改良されてもいる.

 バージョン5.0には現行バージョンをしのぐ幾つかの新技術が搭載されている.プログラムコードの行数はバージョン3.1が600万行だったのに対し,5.0では2700万行以上となっている.だがこれは,Microsoftの技術者数百人がNTの最初のリリースからOSのさまざまなパーツやBackOfficeサーバーコンポーネントの開発に携わってきていることを考えれば,さほど驚くべきことではない.

 OSのサイズや機能あるいはメモリー消費が縮小することがないのは,変わらぬ自然の法則とでも言えようか.もし仮にこれが縮小していたのなら,OSの新バージョンが出るたびに値下がりを期待できたであろう.Windows NTバージョン5.0も例外ではない.前のバージョンに比べてかなり大型化し,インストールするにも時間がかかり(つまりインストール用のメディアからコピーするものが増えたということ),稼働中にはより多くのメモリーを消費する.この連載を進める中で,これらの点を数値的に検証するつもりでいる.  だが,コードの規模やメモリー消費に関する不満のポイントは何なのか?我々はWindows NTが提供してくれる機能や接続性,セキュリティーなどを望んでいるが,これらはCPUの動作周波数やI/O帯域幅,メモリーを必要とするものばかりだ.メモリー価格は現在,32MBのSIMMでだいたい100ドルくらいだが,もしあなたがネットワーク管理者としてバージョン5.0を使うつもりなら,少なくともワークステーションには2つ,サーバーには1つから4つのメモリーを増設した方がいいだろう.そうすればユーザーの不満を最小限に抑えることができるはずだ.

 メモリーが重要になるのは,MicrosoftがWindows NTバージョン5.0に搭載を予定しているものがけた外れに多いからだ.例えばActive Directoryや機能強化が図られたコンポーネントオブジェクトモデル(COM+),さらにはOSのベースレベルに至るまでのあらゆるセキュリティー面での強化などがそうだ.

 バージョン5.0に新たに加えられる機能のリストの中で最も興味を引くものの1つがActive Directoryだ.Microsoftは今年初めに,Active Directoryサービスインターフェース(ADSI)SDKを開発者ライブラリーとともに出荷した.ADSIは守備範囲を広く取ることに徹してはいるが,OSサポートコードが走るマシンのネットワークがなければ,それにどの程度価値があるのかはっきりしない.私としては,この連載が完了するまでにActive Directoryについて何度か取り上げるつもりだ.それは管理者やシステムストラテジスト,開発担当者にとって示唆に富むものになるだろう.

カーネルの変更部分

 Windows NTのカーネルについてはこれまでかなりの改良が施されてきた.その最大のポイントはバージョン5.0のカーネルがSMP(symmetrical multiprocessor:対称型マルチプロセッサー)の拡張性の問題を,ほとんどの場合において解決したことだ.  SMPの拡張性はOSカーネルへ向けての内部の問題で,アプリケーションが動作を進めるためにスピンロックの取得を要求した場合,OSはそれに伴うストール(失速状態)とリスケジュールを認識する.

 たとえスピンロックが直ちに使えたとしても,OSはなおいくつかのコンテクストスイッチを経て動作の中断を行い,アプリケーションコードの実行に戻ろうとする.これはWindows NT 4.0の特徴的な動作で,4.0では同期を取る技術などが利用されている非常に重要なセクションに出入りする際には,出る時と入る時それぞれに少なくとも1つのスピンロック取得が要求されるからである.

 Windows NTバージョン5.0で採用された新しい仕組みは,コンテクストスイッチの動作を数CPUサイクルほど遅らせるため,スピンロックが直ちに提供されれば(これが通常の状態なのだが),アプリケーションはコンテクストスイッチを求めることなく動作することになる.この変更はWindows NTバージョン4.0用のサービスパック3でも提供されている.

 バージョン5.0ではまた,「ジョブ」という概念が導入されている.ジョブとは確保可能かつ命名可能なオブジェクトで,関連プロセスもその中に含まれている.つまり「OpenVMSジョブ」とほぼ同義なのである.この新しいジョブストラクチャーの採用によって,いくつかのリソースはプロセスごとではなくジョブごとに制限できるようになる.つまり,ユーザーモードのCPU消費と物理メモリー(ワーキングセット)消費,およびCPUとの親和性が1つのまとまったジョブとして,あるいは1つのジョブの中のプロセスとしてコントロールできるということなのだ.

 このほかバージョン5.0カーネルの特徴を挙げると――.
● パワーマネジメントとパワーマネジメントAPIの採用
● Windowsドライバーモデル(WDM)への準拠.これによりWindows 95/98とWindows NT
は同じドライバーモデルとなり,開発者にとってはそれぞれのプラットホーム向けのドライバープログラム作成がより早く,簡単になる.
● プラグアンドプレイのサポート.バージョン5.0のベータ1ではプラグアンドプレイが一部についてしかサポートされていないが,PCMCIAのモデムカードをバージョン5.0を搭載したシステムにつないだところ,OSはモデムを認識し,正確に設定することができた.また,この作業完了後に再起動する必要もなかった.
● ベリーラージメモリー(VLM)に対する第1段階サポート.Windows NTで64ビットをフルサポートするには2段階あり,1つは64ビットアドレッシングのサブセットバージョンのサポートで,これは32ビット幅のアドレッシングスペースしか提供しない.第2段階のVLMサポートでは完全に64ビットのWindows NTとなる.

 このほかWindows NTバージョン5.0には興味深いトピックスがたくさんあり,あなたのコメントやアドバイス,あるいはこんなものが面白いといった意見はいつでも大歓迎だ.

UNIXのある生活

 今日,UNIXコミュニティーとメーカーはなお,どのように64ビットUNIXを実現し,どんな特色を持たせるかで議論を続けている.だが,今日言われている64ビットUNIXあるいはえせ64ビットUNIXは,それ以外の64ビットマシンとは全く異なるものなのである.これに対し,MicrosoftはただひたすらWindows NTを推進し,独自の基準,技術,機能そしてオープン性をひたすら追求し続けている.この断固とした姿勢を見れば,Microsoftが企業用サーバー市場に真剣に取り組んでいるのだということは,購入者に力強いメッセージとして伝わることだろう.

5.0のほかに

 さて,私はバージョン5.0に焦点を当てる前に,Windows NTサービスについて書くつもりだった.いや,今でもそのテーマをお蔵入りにするつもりはない.BackOffice Magazine(米国版)のWebマスターであるクリス・アマル氏が,本誌のサイト(http://www.BackOffice. com/)上でよりよい形でサービスに関する連載を提供できるよう準備を進めているので,その準備が整い,関連のチュートリアルができあがれば,本誌としてはWindows NTサービスについての連載を始めるつもりだ.

 

出典 BackOffice Magazine December 1997, pp.41-43.
ゥ1997BACKOFFICE MAGAZINE by PennWell Publishing Company.