第1章 パワーMOSFETと

パワー・トランジスタの違い(4)

パワーMOSFETは安全動作領域が広い

 

パワーMOSFETは安全動作領域が広い

 パワー・トランジスタの許容損失PC は,コレクタ−エミッタ間電圧VCE とコレクタ電流IC の積より狭くなる領域が存在します.一般にこの領域は,ホット・スポットと呼ばれる電流集中による2次降伏現象(セカンダリ・ブレークダウン現象)が起きている領域です.図5(b)に示すようにこの現象はS/B(Secondary Breakdown)領域として安全動作領域の特性図に示されています.安全動作領域はSOA(Safety Operation Area)とも呼びます.

 1秒間単発パルスのドレイン電流が流れるときのSOAラインを見るとわかりやすいのですが,定格電流IC(max)(連続)と定格電圧VCEO(max)を結ぶ直線が途中で屈曲して−45°以上の傾斜になっています.この−45°以上の傾斜になっている部分がS/B領域です

 一方,パワーMOSFETの場合は,このような電流集中領域が存在しません.最大ドレイン電流と最大ドレイン−ソース間電圧と最大許容損失の三つの条件から単純にSOAを算出できます.図5(a)を見るとわかるように,SOAラインは−45°の直線で結ばれています

(図5)

パワーMOSFET2SK2964とパワー・トランジスタ2SC2883の安全領域

(約33Kバイト)

 

パワーMOSFETは最大ドレイン-ソース間電圧VDSS まで使える

 一般に高電圧を扱うパワー素子の場合,安全性と信頼性を考慮して定格電圧に対して,70〜80%のディレーティングをして使うように半導体メーカは推奨しています.たとえば,パワー・トランジスタのコレクタ−エミッタ間に加わる可能性のある電圧が40Vであれば,最大ドレイン−ソース間電圧VDSSは50〜57V以上の素子を使うことを推奨しています.しかし電流値が大きく,しかもスイッチング速度の速い高電圧スイッチング回路にパワー素子を使う場合は,その電源により高い電圧が重畳されることがあります.

 従来はこのような応用の場合,以下のような考え方で回路設計をしていました.

 パワー・トランジスタの動作範囲は,最大コレクタ-エミッタ間電圧VCEO(max)までは使えない.必ずディレーティングして使う

 パワーMOSFETは,VDSSまではSOAを気にすることなく使える

 したがって,パワーMOSFETのほうが同一定格であれば安全性が高いと言えます.

 ところが近年,パワーMOSFETのカタログにはアバランシェ耐量保証が明記されてきています.つまり「パワーMOSFETはVDSS をオーバしても条件によっては使える」という考え方に変わりつつあります.

パワーMOSFETは並列接続が容易である(1)

 どんなときに素子を並列接続するのでしょうか?

 それは出力回路で大電流を流したいときです.しかしこのとき問題となるのが個々の素子に流れる電流のバランスです.一般に素子を並列接続した場合,出力回路が流せる総電流は

 総電流=並列接続素子数×定格電流
となることを期待しがちです.しかし実際は少し違うようです.

パワーMOSFETは任意の素子に電流が集中しない

 話を簡単にするために,抵抗負荷をN個のパワーMOSFETを並列接続した出力回路で駆動する場合を考えてみます.そして,素子のゲートしきい値電圧
VGS(OFF)RDS(ON)がばらついていたとします.すると通電直後に,ある素子に1/N以上の電流が流れます.一方,すべての素子のドレイン−ソース間電圧は等しいため,もっとも電流の多い素子の損失が大きくなり接合温度TCHは高くなります.

 ところが,図6に示すようにパワーMOSFETのドレイン−ソース間の特性は抵抗と同じで正の温度特性をもっています.つまりTCHが上がるとRDS(ON)が大きくなって電流が減少します.したがってパワーMOSFETの場合は,定常状態において任意の素子に電流集中が起きるということはありません.

(図6)

パワーMOSFETのドレイン-ソース間オン抵抗とケース

 


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