第1章 パワーMOSFETとパワー・トランジスタの違い(5)

パワー・トランジスタの並列接続

 

パワーMOSFETは並列接続が容易である(2)

パワー・トランジスタの並列接続

 VBE のばらつきはパワーMOSFETのVGS のばらつきに対して少ないのですが,図7に示すようにVCE(sat)は温度上昇に対して負の温度特性(IC ≦10A)を示します.したがって電流のアンバランスが生じると,任意の素子に電流つまり熱が集中してしまいます.

(図7)

パワー・トランジスタのVCE(sat)-IC 特性

(約9Kバイト)

 

 また,電流アンバランスが生じて接合温度Tjが上がると,VBE は負の温度係数をもつためVBE が小さくなります(図8).もしベース電流用のバイアス電源電圧が低いと,このVBE の減少がベース電流の増大を招き,さらにコレクタ電流が増加して電流集中が起きることがあります.

(図8)

パワー・トランジスタのVBE(sat)-IC 特性

(約8Kバイト)

 

パワーMOSFETは逆方向にもドレイン電流を流すことができる

 パワーMOSFETは,構造上ソースからドレインに向かって(ドレイン側にカソード)寄生ダイオードがありますが,ゲートを基準に考えるとドレインとソースは構造が対照的です.

 ソースを基準にゲートに正バイアスを加えれば,ドレインの電源電圧VDD が正であっても負であってもチャネルが開かれるため,両方向とも等しいドレイン−ソース間抵抗値が得られます図9にパワーMOSFETの逆方向のVDSID特性を示します.このようにパワーMOSFETのドレイン−ソース間は順方向だけでなく逆方向にも使えます.逆方向に電流が流れるルートには二つあります.一つは寄生ダイオード,もう一つはドレイン−ソース間のチャネルです.

(図9)

パワーMOSFETのVDS-IDR 特性

(約9Kバイト)

 

パワーMOSFETの寄生ダイオードを利用した応用例

 たとえばフル・ブリッジ出力のモータ駆動回路があります.ただしモータの制御方法によっては寄生ダイオードに高速性が求められます.そのときは高速ダイオード内蔵のパワーMOSFETを選びます.

ドレイン−ソース間の逆特性を利用した応用例

 たとえば同期整流方式のDC−DCコンバータがあります.

 パワー・トランジスタも構造的にはベースを基準にコレクタとエミッタが対照的です.しかしベースとエミッタ間,ベースとコレクタ間のhFE や耐圧などが対照ではありません.たとえば,逆方向のhFE は0.1〜3とたいへん小さい値です.また,逆方向のVCEO VEBO と等しく約5V程度しかありません.したがってパワー・トランジスタは多くの場合,逆方向には使うことができません.


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