(H16年2月9日)

■福井県・大長山での遭難通信の模様が地元のアマチュア無線家から入ってきました.
そのレポートをお届けします.

                  CQ ham radio編集部


昨日(*編注:7日)から関西学院大学14人が福井県勝山市の大長山で遭難し,アマチュア無線で救助を求めてきました.その模様をワッチしております.

昨日13時過ぎに救助の連絡をアマチュア無線家が聞き取り,県警に連絡したもようです.今朝(*編注:8日)の6時頃から頻繁に交信しておりますが,緊迫した空気が伝わります.

最初交信した人は衰弱のため交信できなくなり,交代したようです.

県警は必ず救助に向かうから頑張ってと励ましておりますが,学生14人は長い時間を過ごしているだろうと思います.

8日朝,8時40分に救助のヘリが飛びましたが,山は悪天候のため救助に行けないようで,必要な物資を落とすとの話です.毛布,カロリーメイト,薬,ホッカイロ,etcのようです.

無線機は何を持っているのかわかりませんが,乾電池が6本はいるらしいので,昔のハンディ機だと思います.でも予備電池が残り9本で,あと1回しか電池を交換できないようですがこれは救助のヘリが必要物資の中にいれれば,また時間は延びますが,それまでの時間を持たさなければいけないので,大変だと思います.

8日朝,6時からは1時間ごとに定時連絡をとの話になっております.6時にこれから7時,8時,9時,10時と1時間おきに状況を連絡してくださいと県警が伝えていましたが,その時点で10時になると聞いたときに,10時までとは長いな〜と思いましたが,今はその時間になりました.

残念ながら,救助のヘリはまだ学生を救助していない模様です.1回に二人しか乗せることができないようで,順番を決めるように言っていました.1回に二人では7回ですから,天候によっては続けて救助できないので心細いだろうと思います.

○こちらW(メンバーの名前)です,警察の方応答してください,

*ハイどうぞこちら警察です

○こちらWです.メンバーの疲労が激しいです.

*こちら警察です.凍傷者の人数,凍傷の場所,程度はわかりますか

○こちらWです,5人が凍傷で指先,一人が重傷.

*こちら警察です.この重傷の人の程度はどのぐらいかわかりますか.

低体温者の状況はボーとしている,などの状況を知らせてください.

○こちらWです.低体温者はボーとするらしいです.

*こちら警察です.山頂南に向かって登ってください.

○こちらWです.山頂の南側はかなり急斜面で登れません.

この交信のあと,アマ無線家がガンバレと励ましの言葉をかけています.

時間は10時38分です,只今交信していたものを入力しました.

身近にこんな事が起きるとこちらも緊迫します.

8日のその後の経過は以下のようなものです.

ヘリは行ったけれども,見つけられず何か目印をと言ってます.

山はシートを出していると言ってますが,色が銀色では白い山の中では見つけにくいと思います.近くまで行ってて,救助できないのも歯がゆいものがあると思います.

山ではヘリの音が聞こえるそうで,ヘリは,近づけば雪崩になるおそれもあり,新雪で雪が舞い上がり,わからなることもあるので,容易ではないとの話など緊迫した模様が伝わります.

遭難のSOSから,約一日経過するなかで,山の方の疲労も激しいだろうと推測できますし実際にその疲労のようすが無線を通じて,こちらにも伝わってきます.

石川,富山の県防災ヘリと自衛隊が出動準備ができていると遭難者に言っていますが,悪天候のため,いまだ救助できずにいるようです.

山の方で,凍傷者が増えたと言っているのに,警察ではそれを受信できなくて富山の局が警察に中継しています.県警の無線が山の無線を受信しにくいのは問題です.もっと良い,受信機とアンテナが必要だと思います.

ただいま14時50分です,でもまだ14人の学生は救助できないです.ガスがひどくて現場に近づけないようです.

ヘリはスキージャムの駐車場で待機しているものと思われます.学生が状況を聞いた時に,近くのスキー場の駐車場にへりが待機していると言ってましたが,おそらくスキージャムの駐車場の事だと思います.

福井春江空港には石川県と富山県防災へりが待機していて,小松空港には自衛隊機が待機していると無線で話をしています.

145.00MHzで話をしているので,詳細がよく分かりますが,本人達と親の気持ちを考えると心が痛いです.聞ける事に関してはアマチュア無線家の特権のように思うのですが,状況が状況だけに複雑にものがあります.

こちらでも雪がひどくなりました.この分だと山はガスもかかり,雪も吹雪いているのではないかと思います.

ハンディの電池消耗を防ぐために緊急以外は一時間ごとの連絡にとどめている模様です.その1時間が長いです.さっきヘリの音が聞こえますと言った声は元気だったのですが,へりでの救出が困難になり,学生達も元気がなくなったようです.声に張りがなく,聞いていても心配です.

15時の定時連絡があるはずなのに,ビバークしているところの亀裂に確認にでているのか連絡がありません.こちも心配です.

現在,8日(日)23時47分です.外はみぞれに近い雪が降っています.おそらく山は雪が降っているでしょう.

21時と22時に県警が一方的に情報を伝えていますが、アマチュア無線のメイン周波数でのやりとりは緊迫したものが伝わるので,普通の遭難事故より身近に感じ,無事を祈る思いが強くなります。

時々アマチュア無線家が『がんばれよ』と声を掛けていますが,受信するだけでもリグの電池が減ると思うと,励ましの言葉も掛けづらいものです.

継続して無線を聞いていると,関西学院のWさんの声にハリが出てきたり,救助に行けないと分かると声が弱々しくなっていくのは,聞いていても切ないものがあります.9日は天候がよくなると言うことですが,その予報がはずれないことを祈ります。

ガスのため救援物資も投下できない中で,食料も燃料もなく,6人の凍傷,1人の低体温者.早く夜が明けて、救助されることを願わずにはいられません.

枕元にハンディ機を置き,県警の無線を聞きます。おそらく多くのアマチュア無線家が聞いているでしょう.ニュースより早く,的確に入ってくる情報に『救助しました』の声を聞きたいものです。

9日(月)07時22分

枕元のハンディから聞こえてくる夜明け前4時,5時ころの警察の言葉から今のところは全員無事らしく,富山,福井の山岳会も救助に行くとのことですが,それまでに持ちこたえて欲しいものです.

自衛隊の大型ヘリが天候が回復次第救助に行くようで,大型だから,大勢の人が乗れますとの言葉で聞いている方もホッとしました.

もう明るくなってきています.雪崩が起きないよう,そして今日は救助されるに祈りたいものです.

9日夜明け前の時点で,3つの雪洞のうち,二つが雪で埋まりその中にいた6人と二人の安否が分からないとの連絡.

その後の連絡で,雪に埋まっていた人の生死を確認したようです.でも,応対している学生も自分の力が弱ってきているのに雪洞の天井が下がってきていないか,周りに亀裂がないかなどを調べて欲しいとの要求をしているが,聞いていても痛々しい思いです.

8時頃に定時連絡をしていたが,そのときに凍傷者の程度を知りたいと県警が伝えると,場所が違うので暫く待ってほしいとの学生の返事.それでは,それの返事の後は10時までは特別なことがない限り無線はしませんとの県警の話でした.

その後9時40分に県警から『県警です.関西学院大学のWさん応答願います』

と呼ぶが10時前のためか返事がなく、こちらも心配になります.ただ10時の定時連絡までとの話だったので,ハンディの電池の持ちを考えて電源を切っているのかもしれないと思います.

この時に県警から

『今から県警のへりが向かいます.昨日の話ではシルバーのシートしかないとのことですが,赤,青,など原色の物を例えばリュックなどを円形に並べてください』

と一方的に連絡してました.

9時50分にWさんからの応答があったようですが,学生の電池がなく弱くて聞き取れませんでした.

ハンディの電池が残り9本しかなく,今後の事を考えるとムダに使えないので受信だけしているようにとの指示.その後受信もできなくなった時に電池を交換するようにと言ってました.

10時40分に現場近くまで県のヘリ“九頭竜”が行ったようで,それをまた一方的に伝えていました.内容は,

『今県へり九頭竜がそちらに向かいました.それはそちらの風の向きを調べるたのに発煙筒を落とします.発煙筒が雪に埋もれた時には雪の上に出してください』

との連絡です.

その後救助のヘリから業務無線で14人を確認したとの無線が入ってきましたが,これはアマチュアバンドではないのですが,受信機で傍受できました.

11時40分,一人救出,搬送しましたと145.00MHzで流れてきました.ほっとしました.残り13名も凍傷があるものの,そのうち救出されるでしょう.

今朝も関西学院大学のWさんに,

『昨日と同じくヘリ5機,自衛隊も取立山から,現地の山岳会も救助に登りますからお互いに声を掛け合い,励まし合ってください』

と言ってましたが,昨日の朝も同じことを言っていたので,Wさんはそれをどんな思いで聞いているのかなと思いました。

11時53分小松から自衛隊のヘリが出た模様です.これで4回に分けて搬送するもよう.

テレビに学生が手を振っているのが写っています.

14時29分に最後の人が救出され、現場を離れました。【業務無線周波数】

その後14時34分に JH9YEQ 福井県警アマチュア無線クラブからこの周波数(1450.00)を緊急災害救助に使い各局にご心配をおかけしました。全員無事救助しました。

ありがとうございました。

と流れました。

それに対し、各局からごくろうさまでしたとの声が掛かりました。

最後の締めくくりに県警が挨拶していたのには感激しました。

<了>