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Mr. M.P.Iのプロセッサ・レビュー 第4回 現在は過渡期? 筋を読みにくい富士通プロセッサ・ライン M.P.I
プロセッサ・ビジネスを広範囲に展開していこうとした場合,市場をなんらかの基準によりセグメント分けし,各マーケット・セグメントごとに最適な製品シリーズを投入していく,というのが常道である.半導体ビジネスは数の勝負.各セグメントで勝ちぬくことが数の確保につながり,結果的に収益につながる. 昔,筆者が在籍していた外資系の半導体メーカなどは,このへんの意志決定が非常にシビアで,いくらよい製品ができても,すでにあるマーケット・セグメントに売れ筋の別の製品が存在していればお蔵入りということもあった.一方,日本の半導体メーカの場合,そのときそのときの顧客の要求に応じた結果,複数のプロセッサ系列を抱えてしまうことが珍しくない.また,これらの使い分けも,成り行きまかせであることが多いように思われる. さて,このような視点で富士通の32ビット・マイクロプロセッサ(マイクロコントローラ)を見てみると,「つぎはぎだらけ」という印象がある一方で,「現在は過渡期であり,未来に向けて筋の通った戦略はあるのだ」というメッセージも読み取れる.なかなか一筋縄ではいかない製品群である. ●ハイエンドはSPARClite,ローエンドはFRとすみわけ 以前であれば,富士通の32ビット・ソリューションというと,まずSPARCliteが頭に浮かんだ.SPARCliteはSPARCという有名なRISCアーキテクチャの血筋を継いでいるにも関わらず苦労の絶えなかったチップのようだ.一時期,米国などではSPARCというと顧客に会ってもらえないので,MB863xxxという個別の型番を名乗って販売していたこともあると聞く.マーケティングの方針などで米国Sun Microsystems社や米国Texas Instruments社が市場を混乱させたあおりを受けつつも,地道に組み込み市場で活動したかいがあり,現在では,デジカメなどいくつかのマーケット・セグメントで地盤を築いて,定着させたのだから立派なものだ. そのうえ,富士通製のコア(実際には米国子会社のFujitsu Microelectronics社が開発)を使った系列に加えて,米国ROSS Technology社を買収(後に転売)して獲得したHyperSPARCのコアを使ったスーパ・スカラ・プロセッサの系列もラインナップに取り入れた.組み込み向けのRISCプロセッサとしては,かなり性能の高いところまでカバーすることになった. 一方,ローエンドのROM/RAM搭載のマイクロコントローラ市場ではFRというシリーズを展開している.筆者もマイクロコントローラの売り込みに行くと,「コンペの相手はFR30」という話をちょくちょく聞く.それなりに手強い相手である. ●FR-VがSPARCliteを駆逐する? さて,FRとSPARCliteで分担してカバーしてきた市場に対して,最近,富士通が新たに投入したのがFR-Vと呼ばれる新シリーズである.FR-VはVLIW(very long instruction word)とは言うものの,キメラというか,フランケンシュタインというか,ちょっと不思議な感じのするチップである.RISCとDSPとSIMD(single instruction stream-multiple data stream)をVLIWという枠でかろうじて繋ぎあわせて統合している,と言ったら言いすぎだろうか. コンパイラ技術で十分にハードウェアの力を引き出せるとのことだが,まだよくわからないところも多い.ただ,ツボにはまったときのピーク性能はすごそうだ.ここで,FR-Vがそういった演算パワーを食う方向に性格づけられていれば,FR-V,SPARClite,FRの位置づけは明確で,3者で市場をすみ分けるという結論になるのだが,富士通のマーケティングのねらいはどうもそうではないようだ. だいたいFR-V自体,一つの固定したいわゆる命令セット・アーキテクチャを指す言葉ではなく,フレームワークとでもいうべき基盤技術全体を指す名称で,用途によってはローエンドの軽いFR-Vも出てくるのだという.このため,FR30の上位にFR-Vの軽いタイプが来る,と位置づけられている点が目を引く.こうした印象を薄めるためか,スーパ・スカラのSPARCliteの上位にVLIWの高性能なFR-Vがあるというロードマップも示しているのだけれど,ちょっと“むりやり”という感じは否めない. 筆者の印象では,そのうちローエンドはFR,ミッドレンジからハイエンドはFR-V,真ん中のSPARClite系はなくしていく方向,と見えるのだが,どうなのだろうか? ●FR-Vの成功は今年,来年の立ち上がりにかかっている 富士通は,ここで取り上げた3シリーズのほかにもpicoJAVAあり,ARMも買ったで,いろいろともっているなかでFR-Vの戦略を決めたのだから,相当いろいろな手を考えているのだろう.それがうまくいくかどうかは,今年,来年くらいのFR-Vの立ち上がりにかかっている.その際,SPARCliteが邪険にされて消える傾向にあればFR-Vはうまくいっているということだし,SPARCliteいまだに健在と聞けば,FR-Vは思ったほどうまくいっていない,という判断も成り立つのではないだろうか.とにかく健闘を祈る. それにしてもSPARCliteはかわいそうだなあ. (本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2000年5月号に掲載されました) >>> コラムに対する感想はこちらへ
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◆筆者プロフィール◆ M.P.I(ペンネーム).若いころ,米国系の半導体会社で8ビット,16ビットのプロセッサ設計に従事.ベンチャ企業に移って,コードはコンパチ,ハードは独自の32ビット互換プロセッサのアーキテクトに.米国,台湾の手先にもなったが,このごろは日本の半導体会社でRISCプロセッサ担当の中間管理職のオヤジ. |
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