SWEST6 参加記

 2004年7月22日〜23日に開催された「第6回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ(SWEST6)」に参加した記録を,ごく個人的な観点からまとめてみました.

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 1日目は午後から始まるSWEST6.会場は,静岡県浜松市にあるホテル「遠鉄ホテル エンパイヤ」である.舘山寺温泉”という温泉街の中でもあり,遊園地「パルパル」にも隣接している.でも,東京からだとけっこう移動時間がかかるので,せっかく行くのにほとんど遊ぶ余裕がないのは残念.せめて温泉にはゆっくり浸かろう――などと考えながら,会場へ.
 「SWESTは研究発表の場ではなく,討論やブレーン・ストーミングの場.だから,参加した皆さんには積極的に議論に加わってほしい」(ステアリング委員長の高田広章氏).なるほど.目新しいテーマの発表を聞きに行く場所ではなく,「自分たちがどう考えるのか」を議論しあう,技術者たちの夏合宿――というところか.

●ポジション・ペーパ集

 参加者の自己紹介と意見表明を兼ねたポジション・ペーパ集が,予稿集といっしょに配られた.実は,わたしはSWESTに参加するのは,SWEST2に続いて2回目.前回は,組み込み業界なんてさっぱりわからないし,表明すべき意見もないし,と思って提出しなかったのだが,やっぱり何にでも積極的に参加したほうが楽しいでしょう! と思って,今回は提出した(ほとんど自己紹介に終始していたけれど…).
 ほかの人のも読んでみたが,技術の詳細について論じている人,業界のありかたについて大きく考えている人,つらつらと本音を語っている人などいろいろあって,とてもおもしろい.意見が立派かどうかが問題なのではなく,自分の意見を表明すること自体がたいせつだな,とあらためて思った.何より,SWESTに向き合う姿勢が変わってくる(と言って,自分のせんないポジション・ペーパを正当化したりして…).

●基調講演(SWEST招待講演):宇宙機の搭載ソフトウェア

 基調講演は,JAXA(前身はNASDA)の奥田一実氏による,ロケットの搭載ソフトウェアとその検証の話だった.航空宇宙においても,組み込みソフトウェアの問題として日ごろ取り扱っていることと同じことが問題となっていることをあらためて実感.

●基調講演(DAシンポジウム招待講演):動的再構成プロセッサDRP向け統合開発環境

 続いては,リコンフィギャラブル・プロセッサについてのNEC 粟島 亨の講演.ちょうどDesign Wave Magazineの8月号の第1特集にもこの話が載っていたな…(粟島氏は筆者のひとり)と思っていたら,「8月号に執筆して,掲載になるまで知らなかったのだが,タイトルに“ただのキワモノか?”とつけられていて,何を,と思った」とのこと.ご,ごめんなさい…(わたしじゃないけど).でも,講演の最後を「キワモノではなくホンモノをめざしてがんばります」と締めくくっていたので,もしかしてただのネタふりだった?

●1日目午後:ポスタ・セッション

 「取材」と「CQ出版の書籍販売」という2足のわらじを履いて参加.前半は,店開きやおつりの準備に追われて,てんてこまい.後半のわずかな時間で,会場を見て回った.
 こういうところでいいのは,何より,率直な疑問を担当者にぶつけて,直接回答をもらえることである.担当者も質問に答えるために立っているわけで,いろいろ質問してもいやな顔ひとつせずに答えてくれる.「初歩的な質問で申し訳ないんですが…」と言いながらあちこち聞いて回った.ふふ.こういうのっておもしろい.でもよく考えたらいつもやっていることと同じかも….
 4年前のSWESTでは,「こんなこと聞いたら,何も知らないな,と思われるかもしれない」という遠慮をしていたけれど,恥も外聞も遠慮がなくなった今のほうが,取材は断然おもしろい.

●1日目夕食:懇親会

 大広間で,SWESTとDAシンポジウムの合同懇親会.あまりに広い大広間と居並ぶ人,居並ぶお膳に圧倒される.隣の人と話すくらいで,あとは黙々と食事とビールを消費する.隣の人が,組み込みソフトウェア業界にいろいろ知り合いがほしい,というので,おもしろそうな団体(S)を紹介したりする.

●1日目夜 分科会:キャリアパスをイメージしてスキルアップを図ろう!

 どこかで聞いたタイトルだ…(Design Wave Magazine2004年5月号 第1特集第1章)と思ったら,この記事を読んで触発され,企画したセッションだそうだ(お買い上げありがとうございます).コーディネータの穴田啓樹氏のポジション・ペーパ(セッションへのお誘いが書いてあった)もおもしろそうだったので,五つあるセッションからこれを選択して参加した.
 部屋は4〜5人ずつのテーブルに分けられ,グループ・ワーク形式で進められる.このセッションに参加した理由は? どういうことにわくわくする? などについて,グループ内で1人ずつ発表していく.こういうのって3年目研修なんかでやったよな…などと思いながら,グループ・ワークする.

 おもしろかったのは,何にわくわくするか? というのに対して,「こういうのってわかってもらえないと思うんですけど,オーケストラの合奏で,自分で練習していたパートをそれぞれ持ち寄って,初めてみんなで合わせるときがわくわくする」という発言があったとき,いっせいに「わかる!」と数人が声を挙げた(わたしもその1人).意外と音楽関係者っているんだな…という,新鮮な発見.
 ほかにも,外からは着実にキャリアを積んでいるように見える人が自信のないところを見せたり,自分の今後の行く末に不安を持っているのには,新鮮な驚きを感じた.こういうことを話せる場はたいせつだけれど,なかなか社内に人生コンサルタント(カウンセラ)を備えているところはないのではないか.客観的に見ると,だいじょうぶだよ,あなたにはこういう強みがあるじゃない,と言ってあげたい人が,悩んでいる.つい,何とか力を貸してあげられないかと考えてしまう.自分の価値を確認できる場がすべての人にあればいいのに…と思う.

 でも,こういう照れくさいセッションに参加できる人は,一部の人なんだろうな,とも思う.例えば,ユース・ホステルに泊まって,夜のミーティングで語れる人.自分を外に開ける人.こういうのって,やってみるとおもしろいし,そんなにはずかしいことでもないのに,やったことのない人には敷居が高いらしい.SWESTの参加者の人全員からこういう話を聞けたらおもしろいのに,と思う.とても一晩じゃ時間が足りないだろうけど.

●1日目深夜:Hamana-1最終調整現場

 分科会が終了したのが22時半ごろ.それから,模型ロケット「Hamana-1」の打ち上げプロジェクト 最終調整現場に向かう.開発済みの機材を持ち込んだはずだから,もしかしてもう解散しているかな? と思いきや,清水研究室の面々は真剣な表情で取り込み中.どうやら,開発環境であるパソコンが壊れてしまったらしい.環境復旧に手を尽くす人々の向こうには,2体の模型ロケットを前にニコニコ笑顔で解説する二上貴夫氏.明暗入り混じる最終調整部屋(別名,徹夜部屋)だったが,後から推測するに,雰囲気を深刻にしないように二上氏が水際で食い止めていたのではないだろうか――.だって,開発環境が復旧しないと,ロケット打ち上げ実験はできないわけだから.

●1日目深夜:部屋にて

 さて,温泉のお風呂に入ろうかと思ったら,1Fのスパ「ダイダラボッチの湯」と13Fの展望風呂(露天)は0時までだったことが判明.え? 今は0時すぎ? かろうじて,13Fの大浴場が1時までだったことに気づき,いそいでお風呂へ.
 広い湯船にゆったりつかって,部屋へ.明朝のロケット打ち上げ取材に備えて早く寝よう…と思っていたら,SWEST参加女性陣から「部屋に集まって話しません?」という申し出が.睡眠はいつでもとれるけど,こういう機会はめったにない.どうぞどうぞ,と部屋に椅子の輪が.

 子育て中の人が約半分いたこともあり,昔の(育児休業制度がなかったころからの)子育て共働きの苦労話から,今の話までいろいろ出て,盛り上がった.それに,みんなしごとや研究にしっかり取り組んでいる人ばかりで,おもしろかった.解散して寝たのは2時半ごろ.

●2日目早朝:Hamana-1打ち上げ

 7時半の打ち上げに遅れまじ,と5時半に起床.だって,まだ露天風呂とスパに入っていない! 目覚ましの鳴る5分くらいに目が覚めて,ひとり温泉めぐり.
 森林に囲まれたふうの2Fのスパもよかったけれど,13Fの露天風呂もなかなかよかった.体がじんわりホカホカ温まったところで,部屋へ.戻る途中でHamana-1のプロジェクト・メンバのひとりにばったりと出会う.「6時にロビーに集合,ということになってます」と聞き,慌ててしたくをし,ロビーへ向かう.だれもいない.6時はとうに過ぎている.
 そこで,ひとり海岸へ向かうが,海岸にはまだだれも来ていなかった.しかたなく周辺をウロウロしていたら,しばらくしてプロジェクト・メンバの一団がやってきた.

 何やかやあったが,Hamana-1打ち上げは成功! 拍手とプロジェクト・メンバのこぼれんばかりの笑顔ですっかり幸せな気分になって,朝食会場へ.

●2日目午前:チュートリアル / プロジェクト・アップデート

 スキル標準のチュートリアルを聴講.渡辺 登氏の,自身を例にしての履歴書とスキル標準例示が具体的でおもしろかった.組み込みソフトウェアのスキル標準は,ITスキル標準とのすり合わせを含め,さまざまな問題を含んだ存在だと思う.一概に拒否反応を示すのではなく,それがどういう意味を持ち,どう運用されるのかを注意深く見守って行きたい.

 「プロジェクト・アップデート」は,組み込みシステムに関する各プロジェクトがそれぞれの現状を報告するセッションだ.技術課題の議論があるわけではないが,メディアにとってはネタの宝庫だ.フムフム,と熱心にメモを取る.
 その後,関係者のかたにあれこれ質問して,話で盛り上がっているうちに店番のことで呼ばれる.あわててポスター・セッションの部屋へ行き,またあれこれとやっているうちに,午後のセッションが始まってしまう.

 …え? わたしのお昼ごはんは? ――うっかり食べ損ねてしまった.わたしとしたことが,不覚だった.

●2日目午後:チュートリアル / 分科会

 サーベイヤ計画のチュートリアルは,取材担当としてどうしても聞き逃せない.今朝の成功のおかげで,皆すっきりとした顔でプレゼンテーションしていた.いろいろメモを取り,質問していると,荷造りはまだ? という運送業者からの催促が.あわててCQ出版の販売物を梱包し,お詫びとともに送り出す.
 それから分科会を少し覗いて,帰りのバスに飛び乗る.会社では校了が待っている.SWESTよ,浜名湖よ,さようなら….また来年会いましょう.