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概要
インターネットの普及にともなって、
SOHO(Small Office Home Office)という概念が脚光を浴びています。在宅勤務、テレサイトオフィス。個人でも会社でもない、そんな新しい仕事の形態に期待が集まっているのが背景なのでしょう。この章では、そんな
SOHOの社会的背景や意義は、とりあえず横において、この本ではどのような環境をSOHOと考えていて、どのように実現していこうとしているのか、本書の導入として紹介していきます。SOHO
って何だろう1996
年12月頃、TRY! PC誌で、SOHO向けのサーバの連載を依頼されたとき、実はSOHOが何の略だか分かりませんでした。研究室に戻って先輩に聞くと、そんなのも知らないのという感じで「
Small Office /Home Office の略だよ」と教えて貰いました。ほうほう、コンピュータを駆使したオフィス環境なんでしょうか?コンピュータ・オフィス環境と言えば、歴史的にはゼロックス・パロアルト研究所おける先駆的な実験が頭に浮かびます。
1970年代、コピー機で巨額の利益をあげていた米ゼロックス社は、「来るべき未来のオフィスでは、紙は使われないだろう。だから、コピー機の必要性は無くなる」という危惧を抱いていました。そこで、ペーパーレスオフィスでも、生き残れるようなコンピュータオフィス環境の研究を行いました。その成果、生まれたものが、GUIを駆使したマルチウィンドウシステム、EthernetによるLAN、マウスなどのデバイスです。今日、机の上にWindows95やMacintoshを搭載したパソコン上で文章を作成する光景は、パロアルトの成果があるからです。このように非常に昔からコンピュータを駆使したオフィス環境というものが考えられてきました。実際、
SOHOも難しく考えると、概念的にはいろいろ深い社会的な背景があるようです。でも、この本では、取りあえず簡単な目標を立てて、SOHO環境の実現を目指します。目標:フロッピーディスクはいらない
今日、一般的なオフィス環境では、マルチウインドウシステムを備えた個人用のコンピュータが机の上に並んでいます。さて、質問です。隣のパソコンと文章ファイルを交換するとき、どうしていますか?
上の
4つが答えとして考えられます。もちろん、下に行けば行くほど、スマートで効率のいい情報交換、情報共有だと考えられています。理想なのはネットワーク機能の利用でしょう。しかし、多くの場合、今なお、フロッピーディスクに一旦保存してから、別のパソコンにデータを移すことが盛んに行われているようです。パルアルトの想像した未来のオフィスとは、裏腹に実際に
OA化が進むほど、紙の消費量は増えていく傾向にあるようです。ペーパーレスは、必ずしもオフィスの効率を図る目安とは言えなかったようです。この本では、フロッピーレスを理想の状態と考えています。部屋に転がっているフロッピーの数とSOHO度は、反比例すると考えてみたわけです。(ちなみに、別にフロッピーディスクを嫌っているわけではありません。)本書の内容は、極言してしまえば、フロッピーディスクによる情報交換の代わりにネットワークを使いましょうね、ということになります。
何だ、その程度の話かと思われましたか?フロッピーディスクを使い続ければいいと感じましたか?しかし、近年の
SOHOへの関心の高まりの背景には、インターネットの爆発的な普及があると思います。つまり、インターネットを使うことで、フロッピーディスクとは比べ物にならないほど、効率よくデータを交換できるようになったのです。何100キロも離れたパソコンに数秒でデータを転送することができます。本書では、SOHO環境の構築のために、インターネットテクノロジーを重視していきます。インターネットとイントラネット
ネットワークの話になると、最近はインターネットを絶対に避けて通ることはできないでしょう。しかし、隣の机のコンピュータと小さなファイルを交換するのに、わざわざインターネットが必要なんだろうと不思議な気もします。ところが、スモールオフィス環境を実現するのに、インターネット技術、つまり
TCP/IPテクノロジーは非常に有効なポイントと成ります。従来、オフィス内のコンピュータを結んだローカルエリアネットワーク
(LAN)の中で使われていたプロトコルは、ベンダー独自に提供するApple TalkやNetware IPX、NetBIOSなどが主流でした。オフィス内にMacintosh しかなければ、Apple Talkだけでも構いません。でも、UNIXやWindows、Macintoshなどさまざまなプラットホームが混在していると、独自ネットワークプロトコルは不便です。データを交換するのにフロッピーディスクほど確実な方法はないでしょう。インターネット利用されている
TCP/IPプロトコルは、ありとあらゆるシステムを接続できることを目的に作られたプロトコルです。だから、例えトースターであってもTCP/IPをしゃべることができれば、コンピュータと対等に通信できます。(注:実際、IP接続可能なトースターを作った人がいるので、よくトースターの例が登場するんですね。)インターネットの普及によって、ほとんどすべてシステムが標準で
TCP/IPに対応するようになった今、文章を作成するのはWindows95、サーバやデータベースにはWindows NTやUNIX、絵を描くのはMacintosh のように、用途に併せてコンピュータを混在させても、対等にデータ交換ができることに成ります。更に、話題のネットワークコンピュータ
(NC、500ドルパソコン)、情報家電、PDA(個人向け携帯端末)もTCP/IPに対応したものになるでしょう。これからのオフィスネットワークやホームネットワークでも、TCP/IPネットワーキングが標準と成っていくでしょう。このように、ローカルエリアネットワーク
(LAN)で積極的にTCP/IPプロトコルを利用することをイントラネットと呼んでいます。イントラネットと言うと、大規模なエンタープライズネットワークにだけ当てはまるような感じもありますが、小さくてもTCP/IPを活用していれば、イントラネットはイントラネットです。フロッピーディスクを追放するには、フロッピーディスクに代わって、すべてのシステムで共通して利用できる
TCP/IPプロトコルが鍵になると理解できたでしょうか?では、どのように、TCP/IPを利用してSOHO環境を構築するのでしょう?もちろん、答えは本書の中にあります。でも、いきなり本論に突入する前に、
SOHOイントラネットを実現するための予備知識を勉強しておきましょう。サーバが必要
あなたの仕事場や家庭にイントラネットを構築するためには、新しいコンピュータシステムが必要です。それは、一般的にネットワークサーバと呼ばれるものです。
中略
この本はどのような読者を対象にしているのか?
SOHO
環境として、比較的規模の小さな、数十人、ひょっとしたら10人に満たない人々が利用するネットワーク環境と想定しています。そのような環境を維持するためのコスト的な負担も軽くなければ意味がないと考えるわけです。つまり、ネットワーク管理の専門家が要らないということです。昔は、サーバ機と言えば、専用の
UNIXワークステーションを用いるというのが、定石でした。企業の基幹システム、大学など教育システム、そして数多くのインターネットサイトがUNIXで運営されています。近年、LinuxやFreeBSDなど優れたPC UNIXがフリーで提供され、小さなブームとなっていますが、本当にお手軽にサーバを構築できるでしょうか?もしWindows95しか使ったことがない読者の方が、いきなりUNIXに挑戦するのはかなり負担になるのではと考えます。そこで、本書では
Windows95に見かけだけは非常に良く似たWindows NTを使って、SOHO環境を構築しようと思います。お手軽、SOHO環境としては、システムエンジニアや専門のコンサルタントを雇うことはないでしょう。ネットワークシステムの専門家でない、ちょっとパソコンに詳しい人が、(運悪く)自分自身でコツコツと構築しなければならない場合に参考になるように、と考えています。そのために、できるだけ楽しみながら、SOHO環境を構築していきたいと思います。それでは、次の章から
SOHO環境の構築に取り組んでいきます。
出版されている内容とは少し異なります.Copyright 1998 Kuramitsu Kimio