第8章

メールサービスの実現

 

 電子メールは、コンピュータとコンピュータというより、人と人を結ぶ重要なコミュニケーション手段です。この章では、SOHO環境の構築の総仕上げとして、インターネットメールサービスに挑戦してみます。メールサーバを立ちあげることで、自由にメールアカウントを作成して、SOHO環境内やインターネット上での連絡に利用できます。

 

今回の内容

メールシステムとは?

 インターネットメールは、最も古いインターネットサービスのひとつです。UNIXでは、古くからメールシステムが標準サービスとしてOSの一部に組み込まれていました。そのため、システムのエラーメッセージは管理者宛てにメールで送られてくるほどです。これに比べると、NTサーバではメールサービスはまだまだ一般的なサービスとは言えません。

NOTE:

IIS4.0からは、Microsoft SMTPサービスが追加されました。しかし、この章ではここではSMTPとPOPサービスがコンパクト統合されたフリーウエアEMWAC IMSを紹介します。

 

インターネットメールの仕組み

 インターネットメールはどのように配送されているのでしょう? まず、一般的なメール配送の仕組みからみてみましょう。

 あなたは、kiki@soho.cqpub.co.jp 宛てに電子メールを書きました。このメールは、送信ボタンが押されると、宛先に関らず無条件で、一旦ローカル(あなたのサイト)のメールサーバに届けられます。メールクライアントからは、直接、宛先のサイトに配送したりしません。

 メールサーバでは、届けられたメールの宛先によって異なった動作をします。自サイト宛てのメールであれば、宛先ユーザ名(ここではkiki)ごとに仕分けしてメールボックスに保存します。外部のインターネットサイト宛てのメールであれば、そのサイトのメールサーバに転送します。まず、DNSのMXレコードを検索して、メールアドレスからIPアドレスに変換します。そして、メールサーバ間でメールの送受信を行います。

 仮に、すぐにsoho.cqpub.co.jpのメールサーバとコネクションが接続されなくても、辛抱強く何回か再配送が試みられます。このおかげで、メール配送の信頼性はかなり向上しています。

SMTPPOP3

 メールサーバ間の送受信、およびメールクライアントからメールサーバへの送信には、SMTPプロトコルが用いられます。SMTPは、インターネットメールの標準プロトコルで、メールサーバソフトウエアなら絶対に対応しているはずです。もっとも、最近では上位互換のESMTPが主流となっていますが。

 インターネットを利用するのがUNIXユーザばかりだった昔は、メールボックスまで届けば十分でした。メールボックスに溜まった新着メールをmuleなどから直接読み出せば良かったからです。でもそれでは、Windows や Mac など直接、UNIXファイルシステムにアクセスできないクライアントの利用者は困りますね。そこで、メールボックスから読み出すための専用のプロトコルも考案されました。その中でもっとも普及しているのが、POP3プロトコルです。

 

コラム:POP3プロトコルの問題

 POP3プロトコルは、実はいろいろ問題があります。

 認証の際、パスワードを平文のまま送るので、ネットワークを覗き見している人は簡単にパスワードを盗むことができます。だから、LAN外のPOPサーバからメールを取り出すのはあまり良くありません。特に5分おきにメールの着信を自動的に調べるなんて設定にしておくのは便利な反面、その度にパスワードが流れるので、それなりのリスクもあります。パスワードを見えないようにするAPOP認証も登場していますが、対応しているメールクライアントが少ないのが現状です。また、POPプロトコル自体をSSLで保護する機能を提供するサーバも登場しているようです。

 POPプロトコルでは、原則としてサーバ上のメールボックスからクライアントにメールを移動します。だから、一人一台分パソコンを用意できず、不特定多数の人が同じパソコンを利用しなければならない環境では、プライバシが保証しにくいという問題もあります。(パソコンの売り上げに貢献している?) 最近では、この点を解消するために、IMAP4という全く別のプロトコルも注目され始めています。

http://www.imap4.org/

 

EMWAC IMSパッケージ

 メールサービスを構築するためには、簡単に言ってしまえば、SMTPサーバとPOPサーバを正しく設定するだけです。UNIXでは、sendmailと呼ばれる有名なSMTPサーバが標準でついています。(ただし、設定は極めて複雑怪奇。)あとは、QPOPなど定番POPサーバを必要に応じて別途インストールするだけです。しかし、NTの場合はどのメールサーバを導入するかをまずはじめに検討しなければなりません。

 確かに、NTにもUNIX標準のsendmailが移植されています。sendmailは、UUCPや静的なメールリレーによるファイヤーウォール越えなど、ありとあらゆるメール配送シーンに対応できます。悪くないのですが、シンプルさが信条のSOHO 環境には、やや大袈裟でしょう。せっかくNTサーバを使っているのに、UNIX風の小難しいツールをわざわざ使うのも気乗りがしません。やはり、手軽にメールサービスを構築したいものです。

 Microsoft社は、Exchange Serverと呼ぶメールシステムを提供しています。これは純粋なインターネットメールシステムよりイントラネット向けグループウエアの色彩が濃い製品です。また、別途製品を購入しなければいけないので、ちょっと引けるところ。これも、全体に手軽さに欠けるでしょう。

 この章では、イギリスのエジンバラ大学にあるEMWAC(European Microsoft Windows NT Academic Center)が提供しているIMS(Internet Mail Services)に注目してみました。現在は、ベータテスト中(最新バージョン 0.86)でもあり、フリーウエアとしてリリースされていますが、多くのNTサイトで試用され評判は上々。EMWACオリジナルのSMTPサーバとPOPサーバがセットになってコンパクトなパッケージとして配布されているところも嬉しい限りです。

 

IMSの入手方法

 EMWAC IMSは、英エジンバラ大のサイトから配布されています。しかし、日本・ヨーロッパ間というのはかなり通信事情が悪く、大きいファイルをダウンロードする場合はイライラすることになります。EMWAC IMSは、日本各地にミラーされているので、その中から最新バージョンのパッケージを探しましょう。(しかし、どれが正式なミラーサイトかわからなかったので、明け方の最もネットワーク利用が少なそうな時間に本家からダウンロードしました。)

 EMWAC IMSのホームページ

 http://www.emwac.ed.ac.uk/html/internet_toolchest/ims/ims.htm

 インストールに必要なファイルは、IMSi386.ZIP(インテルアーキテクチャー用パッケージ)だけです。IMShtml.ZIPはHTML版マニュアル(ただし当然英語)なので、困ったときに参照できるように手元においておくといいかも知れません。

 ZIPというのは、海外では標準的な圧縮アーカイブの形式です。別途に展開プログラムが必要です。コマンドラインで利用できるフリーのUNZIPコマンドもありますが、WinZip(シェアウエア)のような定番ツールをあらかじめ用意しておいた方がいいでしょう。

 

ファイルの展開

 IMSi386.ZIPを適当な位置に展開します。今回は、Program Files フォルダの中にEMWACフォルダを作って、そこに展開しました。(図 emwac1.png)

 次のようなファイルが入っているか確認してください。

smtpds.exe 配送用SMTPエージェント
smtprs.exe 受信用SMTPエージェント
pop3s.exe POP3サーバ
ims.cpl コントロールパネル用アプレット
imscmn.dll IMS共通ダイナミックリンクライブラリ

 

IMSのインストール

 IMSは、自動セットアッププログラムが用意されていません。少し面倒でも手動でファイルをコピーしたり、アクセス権を直したりしなければなりません。

ステップ1バージョンの確認

 


以下省略.出版されている内容とは少し異なります.Copyright 1998 Kuramitsu Kimio


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