合肥市以外のすでに発展した研究学園都市型の中国のIT産業基地としては,前回にも触れた北京市の中関村や大連市があります.
大連市は清国を立てた女真族(満州族)の根拠地であった瀋陽を省都とする遼寧省の南端に位置する遼東半島の突端にあり,有名な軍港旅順を抱える人口約560万人の産業都市です.農村人口が少なく,日本企業の対中進出の拠点ともなっていて,日本人も多く駐在しています.大連には駐在者の子弟のために日本人学校があり,瀋陽の日本領事館は北朝鮮の脱北者が駆け込んだことで一躍有名になりました。
この大連市のIT産業の状況はNHKでも7月に放映されました.それによると,大連市はIT関連産業で外国と中国大陸部との接点になろうとしています.一方,国内向け出荷という点では,陸路では省都の瀋陽市の近くまで渤海湾を大きく迂回して行かねばならないので,目と鼻の先の韓国や日本のほうを向いた産業が栄えています.
日本からの駐在者のためだけではなく,一般向けに日本語のテレビ放送や学校での日本語教育も行われています.中高生の約1/3が日本語教育を受けているそうです.戦前,日本が植民地で無理やり日本語教育を実施したのとは様変わりです.ちなみに,大連市のWebサイトは外国語は英語だけでなく図3のように日本語やハングルでも閲覧できます.
さらに,中国全土では現在情報系の学卒者が毎年18万人いると言われており,日本の2万人程度と比べるとべらぼうというしかない人数で,さらに増えつつあるようです.それらの学生にどのように教育をしているかが報告されていました.
大連市には東北大学東軟信息技術学院という情報技術専門の大学があり,全校で六千人の学生が全員パソコン持参で授業を受けているとのことです.この大学は瀋陽市にある情報科学・技術では中国有数といわれる東北大学の関連企業の東軟集団が,自社の要員を効率的に育てるために作ったものだそうです.
東軟集団は,みずからが主導して作った大連市のソフトウェア・パークに基盤を置く,中国最大の独立系IT企業で,多くの日本企業からソフトウェア開発の受注をすることで売り上げを伸ばしてきました.大連市にはこれら中国の会社のほかに日本から進出した企業も多く,東芝,日電,ソニーなどがソフトウェア・パークに拠点を作っています.日本の大手会社が政府からの受注をここへ丸投げしていた問題も発生しています.
ソフトウェア・パークに進出した60社を越える外国企業の内2/3は日本からの進出で,多くは東軟集団との合弁企業です.それらの企業は事務処理や日本語処理のソフトウェアのような下請け作業を主に行ってきました.
最近は簡単な作業だけではなく,このような優秀な人材の供給能力を背景に,現在日本では良質な人材確保が難しい組み込みソフトウェアの分野に進出しつつあるようです.日本のあるカーナビやカー・オーディオの会社では,ソフトウェアの設計業務の90%をすでに大連市で行っているそうです.
さらに,週刊誌の記事によれば,日本で仕事にありつけなかった日本人も,大連市の日系企業で現地採用者として時給20元(月200時間働くと約5万円)程度で,日本語処理や打ち込みを主体とした仕事に就いているという話です.
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