猪飼 國夫

昔懐かしい秋葉原の雰囲気
――取り壊し予定の台北の電脳街――


 またまた台湾ネタですが,Webを見ていたら,台北の電脳街の中心となっている「光華商場」が取り壊され,店舗は商場の横にある用地に建つ予定の情報ビルに移る,ということが書かれてありました.

 取り壊しは来年の春以降という話なので,興味がある方は,今年の秋の高鐡(日本企業が中心となって開発した新幹線)の開業に合わせて見に行くとよいでしょう.大陸のように,通知から1か月以内には有無を言わさずに壊す,ということでもないのですが,まだ建て始めていないビルには移れないので,どうするのかが不思議です.

台北の電脳街 光華商場の今昔

 光華商場を中心とする台北の電脳街は,台北科学技術大學がそばにあるせいか,30年以上の長い間台湾の電子・パソコン文化の中心となっていました.

 最近は台北駅付近の交通の便がよい場所に,NOVAやKMallなどの電脳街ができて,新宿駅西口や新橋などのパソコン店と同じような感じになっています.台北駅南側の新光三越の隣にあるNOVAは小さなパソコン・ショップが立ち並び,光華商場と似ています.

 光華商場のWebサイト 注1 は繁体字(旧字体)の中国語で書かれています.日本語での紹介は台湾の事情に詳しいサイト 注2 を見てください.

 光華商場の中では完成品のパソコンはほとんど販売されていません.ブランド品のパソコンが,周りに拡がる商店街で販売されているという状況は,秋葉原と同じです.

 光華商場と同じように小さなお店が集中しているビルも周りに数棟あります.内部の雰囲気はほとんど同じですが,写真1のように少し整っています.


 注1:http://www.arclink.com.tw/index.asp
 注2:http://www.akiba.ne.jp/taiwan/denno/taipei.html

図1 光華商場付近の地図

写真1 ビル地下のパソコン・ショップ

台北の電脳街 光華商場の今昔

 今の光華商場は写真2でわかるように高架道路の下にあります.半地下の1階と階段を上がった中2階からなっています.

 台湾の電脳街には家電商品はほとんどなく,パソコンと電子部品,ソフトウェアが主体です.これは光華商場の周りに拡がっている街も同じです(写真3).

 光華商場の中2階はおもに電子部品やパソコン部品,媒体の店が並んでいます.半地下には映像や音楽のVCD・DVD・CD,媒体,ソフトウェアの店と古本屋があります(写真4).

 中2階自体の規模としては,秋葉原の総武線ガード下より大きいくらいです.ただ今の秋葉原とは違い,Windows95発売前までのガード下の雰囲気を髣髴とさせます.

写真2 光華商場の正面

写真3 周りに拡がる電脳街

写真4 パソコン雑誌

ショップの中の雰囲気はアジア

 これまでこの商場(マーケット)を訪れたのは,いつも平日だったのですが,意外と人出が多く,スリに気を付けながら歩くこともありました.写真5のように女性もたくさん電脳パーツを眺めています.

 店に並んでいる商品はもちろん最新のものです.価格はずばり言って,台湾製か台湾の会社が中国で作らせたもの以外は,秋葉原の店と変わらないか,それより高いくらいです.

 もっとも,パソコンのパーツの多くの部分は台湾企業が関与しているわけなので,ショップ・ブランドのようなものは,総合的には安く作ることができます(写真6).

写真5 光華商場の電脳パーツ店

写真6 光華商場の電子パーツ屋

中国と台湾の電脳用語の違い

 中国や台湾ではパソコン用語は当然ながら漢字で表現します.この用語が,日本人にはさっぱりわからないものから,想像がつくものまであります.外来語の中国語用語は中国では中央の委員会で決めています.これが台湾で使われているものと,意図的かどうかはわかりませんが違う部分があります.

 ショップの前で店員がビラを撒いているという光景は秋葉原と変わりません.写真7のビラはわざと手書きにして人目を惹こうということですが,旧漢字の中には大陸で採用されている簡体字もちらほら見受けられます.

 簡体字は元来手書きのときの省略形から選択したものが多いため,意図的ではないにしても同じ字体を使うことになります.日本の今の漢字も同じ経緯から生まれたものが多いので,臺灣の台の字などは,日台中で共通です.

 表1にショップの宣伝ビラからいくつかの用語を拾ってみました.英語の用語をそのままカタカナで表記する日本と違い,独自に漢字を割り当てている台湾のビラは,狭い紙面に効率よく内容を並べているように見えます.

写真7 パソコン・パーツの宣伝ビラ
表1 ビラから拾った電脳用語
日本台湾中国(参考)
キーボード鍵盤(同じ)
マウス滑鼠鼠標
液晶ディスプレィ液晶顕示器(同じ)
マザーボード主機板主板
LANカード(同じ)
ビデオカード顕示(同じ)
メモリ・ユニット記憶體 
CPU中央處理器(同じ)
フロッピ・ドライブ軟駆
ハードディスク硬盤
CDドライブCD光駆
電源ユニット電源供應器 
ディジタル數位数字
ネットワーク網路網絡
中国では字体は簡体字を使っているが,ここでは日本の字で表した.

光華商場移転の成否は不動産事情による

 台北は電脳企業の集中が進んでいるせいか,不動産価格が高騰しているそうです.借りる場合もかなり高くなり,収入の多くの部分が家賃に飛んでしまう,という不満が拡がっていると聞きました.

 マンションのビラに示されている部屋の広さの単位は,日本の坪と同じです.値段は1元(台湾ドル)が約3.5円です(写真8).

 台湾名物の夜市も,士林では一部を捷運の駅前ビルに移した結果,半分近くは店が開いていない状況です.光華商場も高くなる家賃の下では,今のような営業形態は無理かもしれません.自然発生的なものに手をかけると,往時の活況は薄れていくでしょう.

写真8 不動産屋のビラ

いかい・くにお

博士(工学)

http://www.ne.jp/asahi/yikai/class/





copyright 2005 Kunio Yikai

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Copyright 1997-2005 CQ Publishing Co.,Ltd.


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