フジワラヒロタツの現場検証(56)

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知らない強さ
 技術者にとって,知識はそのまま力となります.ドライバを組む際にOSのしくみを熟知していなければ,いくらプログラミング言語を知っていたところで,どこから手を着けていいのかわかりません.つまり,知っていることが「力」なのです.

 このように,我々にとって知識とは武器であり商売道具ですから,常日頃,さまざまな知識を仕入れようと努力しているわけです.

 しかし,ともすれば,このことは逆に,知識を得なければ動けないという傾向を生んでしまいがちかもしれません.

 筆者は,経験したことのない領域で,十分な知識がないと感じるために臆してしまうことがあります.また,知識を仕入れるために時間をかけすぎてしまい,時機を逸することになった経験もあります.

 スピードが何にも増して要求される時代ですし,ちょうどいろいろなパラダイムが大きく動きつつある時代です.すでにある知識が役に立たない場面も多くなっていそうですから,ある意味では,何も知らずに蛮勇を奮うくらいがちょうどよいのかもしれません.

 とはいっても,何も知らないままに行うだけでは手痛い目に遭うのは,どんなプログラムにも必ずバグがあるということと同程度に明らかです.知識がない場合に,常にも増して重要になるのは,正しく「現場」の状況を把握して,リアルタイムに適応し,方針と行動を修正していく能力でしょう.

 当初の蛮勇での決断を,状況のフィードバックも現場の把握もなしに,ただ硬直的に墨守するのでは,先の大戦での大本営参謀のように,現場の状況がどうなろうとも,自分の観念の中でだけ連戦連勝ということになってしまうでしょう.

 まったく知識がないのでは話にならないと思われるかもしれませんが,それはそれで,まずは行動して,素早く結果を吟味し,戦略を立て直すことができる人であれば,多少のダメージは受けつつも,先に進んでいけそうな気がします.

 ダメージは,当然受けるものと覚悟し,しかし最小のダメージで最大の利益を得ていくことが,先の見えない時代の戦略としてはいちばん良さそうではないでしょうか.

 人と会うときもそうですね.すでに評価の定まった(偉い)人と会うときは,けっこうその世間の評価に引きずられてしまいます.評価を知らないと,物怖じせずに話すことができます.自分なりの評価をするためには,その場で,五感をフルに使って嗅ぎ分けなくてはなりません.これは,言うのは易くても,とてもしんどいことです.とはいっても,それができないならできないで,仕事や職を失ったりするようなしんどさが待っているかもしれません.

 もっとも,そんなことばかり考えて頑張ると,最大定格を越えて電圧をかけたLEDのように,一瞬明るく輝いた後,壊れてしまいますから,ある時はしなやかに――またはへらへらと(笑)すこしずつ前進できれば,これはもう上出来といって自分をほめてやってもよいのではないでしょうか.

藤原弘達 (株)JFP デバイスドライバエンジニア,漫画家

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