フジワラヒロタツの現場検証(57)

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人材ジャンク
 不況の嵐は,吹き荒れているというより,稠密に我々の周りを埋めています.まるで,吾妻ひでおのマンガに出てくる夜の闇のように.

 そんななかで企業は,売れる分野,儲かる分野をねらって人材をどんどん異動し,そうでない分野は削減しています.円高にも耐え,まだ残っていた国内の地方工場もどんどん閉鎖され,生産拠点はほとんど中国になるのが当然のようです.かつての産業空洞化への懸念の声も,今から思えばまだ経済に余裕があったから語られていたのでしょうか.最近ではとんと聞きません.不採算事業から会社ごと撤退する事例も,もちろん数多くあります.

 さて,そんななかで,異動もしくは転職を余儀なくされる技術者もかつてない人数に達しているのではないでしょうか.

 どうも筆者には,政治家や企業の経営者や官僚は,専門家の転職ということを軽く考えているのではないか,あるいは,まるで理解していないのではないかという印象があります.

 プログラマは,マイコンプログラマも汎用計算機も同じ.ハード屋は高周波も強電も同じ.

 そりゃたしかに同じ分野ではありますが,学校出たての若者ならいざしらず,さまざまな経験を積んできた専門家が,いきなり畑違いの分野においそれと移るわけにはいきません.

 別な分野で結果を出せるまでには,学校出たての新人よりはましかもしれませんが,やはりそれなりに時間がかかるのです.

 けれども,今現在が苦しくて会社は配転をするわけですから,すぐ結果が出てこないと評価は最低です.今現在の時点での賃金と能力を考えたらそれはそうでしょう.

 かくして,技術者は自信を失い,会社も失望し,とてもどぎつい言葉かもしれませんが,人材はジャンク化します.

  利益を生み出さない人材は,企業の中では「材」ではなく,ジャンクと呼ばれかねません.

 しかし,筆者はあえてポジティブな意味でこのジャンクという言葉を使ってはどうかとも思います.ジャンクくらい使い手によっておもしろい使い方ができ,価値が出てくるものはありません.今,社会に必要なのはそういったおもしろい用途にジャンクを使いこなせる,いわばアキバ系の手腕をもったプロの経営者なのだと思うのです.

 または,そういったジャンク化した人材へアクロバチックな,でも本質を再利用できる新たな雇用を提案できる人材バンクができないものでしょうか.そうなれば,ジャンクはジャンクでなくなるのです.

 もっとも,ジャンク品ということは,自分の値段をものすごく下げなければならないということでもありますね.

 うーむ,それはきつい.秋葉原の○米商事の地下や,計○器ランドの隣あたりに並ぶのはねぇ.

藤原弘達 (株)JFP デバイスドライバエンジニア,漫画家

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