フジワラヒロタツの現場検証(60)

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再び人月の神話
 みずほ銀行のシステムトラブル騒ぎには驚かれましたか? 

 筆者は「ああ,やっぱり」という感想を抱きました.別に筆者がみずほ銀行のシステムに関わっていたわけではありません.携わってらっしゃるエンジニアのみなさんには申し訳ないのですが,以下のような経緯に,思わず納得したのです.

 案の定,トップのコメントは当初他人事のようでした.スケジュールのお尻だけが決まっていて,ずるずる開始が遅れたのが原因という報道もありました.おそらく現場では,間に合わないモノを間に合わせようとして相当無理をしたのでしょう.そのツケは,品質にそのまま跳ね返ります.うまくいくようにと担当者は祈ったことでしょうが,やはりマーフィーの法則からは逃れられなかったということですね.

 以前,携帯の回収騒ぎのときにも思ったのですが,現場で無理なスケジュールに抵抗することは本当に難しいという実感があります.では,なぜ難しいのでしょうか?

 それは,「スケジュールがなぜ無理であるかを説明することがとても難しい」からなのではないでしょうか.ソフトウェアは,「やってみないとわからない」ことが非常に多く,それらは,ある問題とある問題が解決しないとこの問題に取りかかれない,というように複雑に関連していることが多いため,スケジュールの線は経験と勘で引かれます.ある部分が当初予定の半分になったり,2倍,3倍になることは珍しくありません.しかも開発者当人も,いよいよ間に合わないことを悟るまでは,多少遅れてもなんとかなるかもしれないという期待をもっている場合が多かったりします.

 本人がなぜスケジュール遵守が無理になったのかわからないのに,どうやって他人に合理的な説明ができるというのでしょうか.

 このような状況下で求められるのは,もはやエンジニアリングではありません.はったりや,妥協,恫喝(たはは)や取り引きなど,さまざまな人間との駆け引き――そう,ある局面では「マネジメント」と呼ばれ,ある局面では「政治」と呼ばれる力の行使です.

 開発効率上あまり意味はないけれど,誠意だけ?は示せる「人員追加投入」をしたり,むりやり「仕様削減」を客先に納得させたり,開発チームをさらに働かせるべく「スケジュールの仕切直し」を示したりするわけですね.こうなってしまうと,危機に強い性格の人や,それなりの経験を積んだ人でないとプロジェクトを立て直すのは難しくなります.

 さて,それでは,もっとエンジニア的アプローチでこういった問題を未然に防いだり,起こってしまった問題へ対処することはできないものでしょうか?

 不勉強な筆者が調べてみると,どうもいろいろな方法が提案されているようです.それらについてはまた,項を改めて.

藤原弘達 (株)JFP デバイスドライバエンジニア,漫画家


注:フレデリック・P・ブルックス,Jr.,『人月の神話』,ピアソン・エデュケーション

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