フジワラヒロタツの現場検証(61)

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ドリームウェア
 電気刺激で筋肉を動かし,痩身に効果があるという器具をご存じでしょうか.通信販売で火がつき,相当普及しているようです.EMS機能によって……云々とうたっているのを見て,思わず拡張メモリ方式を思い起こしたのは筆者だけではありますまい.

 我が業界には太り気味の方の割り合いが多いようですから(筆者もその一人です,とほほ),購入された方もまた,多数いらっしゃるのではないかと思います.

 しかし,せっかく購入しても健康器具というものは,なかなか続かないものです.知人がこの電子式筋肉運動器具(?)を購入しましたが,案の定三日坊主.ほかにさまざまな健康器具を購入するも,続きません.筆者も飲むだけでやせると称する健康食品を数回試したことがありますが,すべて挫折しました.どうもこれらの健康産業というのは,実際の効能を売っているのではなく,「夢」を売っている産業なのではないでしょうか.

 引き締まったボディ,堅い腹筋――それらが自分にもできるのではないかという夢をより多く見させ,結局はほこりをかぶることになるであろう商品を売るわけですね.

 この構造は,コンピュータ業界にも当てはまりそうです.かつてコンピュータ万能信仰がまだ幅をきかせていた頃,パソコンを購入した人は,何でもできそうだという「夢」を買った人がほとんどだったと思います.そう,たしかにそれは,自分でBASICのプログラムを作りさえすれば,ハード仕様の中でなんでもできる「夢」のコンピュータでした.多くの人はそのまましまいこんで,ハードメーカーが儲かりました.

 ソフトもそうですね.ものすごいアプリケーションが簡単に作れそうだからと統合開発環境を買ってみたり,すばらしい絵が描けそうな気がしてレタッチソフトを購入したり,アニメが作れそうだからと3Dソフトを購入してしまいますが,それらはすべて「そのようなものが作れる環境」を購入しただけのことで,実際に活用できるのはほんの一握りの人なのです

 使われないプログラム! ――これほど利益率のいいビジネスはありません.使われないから面倒なバグは表面化せず,ユーザーサポートも不要で,メーカーもユーザーもみんな幸福なまま過ごせます.「夢」を売るこのような製品を筆者はドリームウェアと呼んでいます.

 ドリームウェアは,使うことで利用者に夢を与え,簡単そうに見えながら,使いこなすには七面倒くさい操作や労力が必要で,ちょっと試しただけでうんざりしてしまい,棚に並べて置くだけのものでなくてはなりません.そう,本にたとえると百科事典や文学全集のような…….詐欺のようだとお思いになるかもしれませんが,斬新なアイデアで新しい地平を切り拓くようなソフトウェアの9割は,意図せずにこの条件を満たしているように思うのです.もっとも,利益率は高くても,いわゆる人柱の皆さんにしか売れないので儲かりはしないでしょうけれど.

藤原弘達 デバイスドライバエンジニア,漫画家


注:最近その希有な例として,個人で制作されたアニメ「ほしのこえ」に仰天しました.

Copyright 2002 藤原弘達


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