フジワラヒロタツの現場検証(69)

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技術者生存戦略
 最近,技術者にとってのシアワセとは,いったい何だろうかとシミジミ考えています.

 二十代の頃は,とにかく「面白い仕事」がしたくてたまりませんでした.「面白い」というのはやはり先端的な,他の誰もやっていないような仕事です.インモス社のトランスピュータというチップなど,なかなかシビレました.さまざまなアーキテクチャとアイデアが,カンブリア紀の大爆発とはいいませんが多数出現していました.このころは,おもにハードウェアが舞台の脚光を浴びていたような気がします.ハードウェア能力はまだまだ低かったのですが,さまざまなアイデアがあちこちの方向に提案されていました(Pascalの中間コードを直接ハードウェアで実行しようとするPascalマイクロエンジンなど).

 今思うと,この頃の雰囲気は,高度経済成長期によく似ています.右肩上がりに成長する業界です.

 しかし,インフラが整備されると,社会が成熟し,サービス産業など第3次産業に主役が移っていくように,コンピュータ業界も,大胆なハードウェアの変革の時期は終わり,ソフトウェアが主役になっていきます.もちろん,まだまだハードウェアも右肩上がりではありましょうけれど,パソコンはATアーキテクチャに固まり,自由奔放なアーキテクチャはなかなか生まれません.

 そんな流れに身をまかせているうちに,筆者の技術も,だいぶ古めかしいものになってしまってきたような気がします.年とともに新しい技術分野は拡大し,一人で追える分野がどんどん狭くなっています.さらに悪いことには,ある分野を追うための「質」だけではなくて「量」もどんどん増加しているような気がするのです.

 記憶力が落ちた代わりに,今まで培ってきた技術を磨き上げ,完成の域に達するというある意味職人的な技術者には生きにくい状況に,加速度的になってきつつあるのではないでしょうか.

 それではどうすれば良いのでしょう? 広く浅く,広範な技術知識を仕入れていても,いざ,ある技術のプロとしてすぐさま立ち上がるのは困難です.そのような生存戦略を立てて生き残っていく人は,プロジェクト管理とコミュニケーション,そしてお金のプロになってマネジメントのできる,管理者の色彩が強い技術者になっていくのでしょう.

 狭く,深く技術をきわめたい向きは,自分の技術分野があとどのくらい食っていけるのか,冷静に評価し続けなければなりますまい.そして,その技術がすたれる前に,次の飯の種に速やかに移っていくことがなにより必要です.しかも,この戦略をとるためには,そのために会社を移っていくことが必要になるでしょう.なぜなら,技術の移り変わりと会社の方向が一致しているとはまったく限らないからです.ですから,このようなスペシャリスト技術者は自ずと,独立したコンサルタントとなっていくことでしょう.

 さて,筆者はどの道を歩むべきか…….と,いうわけでシミジミと技術者のシアワセについてまたまた考えるのでした.




藤原弘達 (株)JFP デバイスドライバエンジニア,漫画家

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