フジワラヒロタツの現場検証(72)

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現場検証,最後の挨拶
 筆者のデイバッグには,ごちゃごちゃと物が入っています.古いPalm互換機.あと1年はもたせようと決意している1年半前の「最新」ノートパソコン.図書館で借りて,濡れないようにお手製カバーをつけた心理学の本.さまざまなPCMCIA規格のカード.携帯用に,整腸剤を入れたお菓子ケース(すぐお腹がくだるので).PCケースを開けていじりまわす際になぜか手から血が出ていることが多いため,重宝するバンドエイド.もしものとき(?)に役立つソーイングキットなど,など.このデイバッグさえもっていれば,突然いつどこに行っても困らないように.

 長く続けさせていただき,さまざまなエンジニアとしての「現場」にこだわってきたこの連載も,そろそろデイバッグをかついで立ち去る時期が来たようです.ここ10年ほど「ベンチャー」という横文字が付けられてきた中小零細企業のエンジニアとして,現場で思ったことや,感じてきたことを書いてきました.

 連載中には,開発が修羅場の時期も多々ありました.「しょうもない」マンガとはいいながら,それなりに時間をとられるもので,筆者としては,どんなに忙しくても開発が最優先,そんなときには,泣きながらオチを考えておりました.

 この間,筆者の仕事の内容も,社会と技術,自分の変化に呼応して移り変わってきました.さまざまな新しい技術に対応することよりも,組織の運営やプロジェクト管理,営業に時間を費やすことが多くなったのは,まったく,年齢のせいでしょうか.

 けれど,そういった分野にも面白いものはいろいろあるもので,たとえば,見積もりのための方法論であるファンクションポイント(FP)法などは,大きなプロジェクトだけではなく,組み込みにも応用できるらしいということを聞きかじったりもしました.これはもっと詳しく調べてみようと思いながら果たせないままで,まったく自分の勉強不足には恥じ入るばかりです.

 技術についても,オブジェクト指向でいうデザインパターンの本も読んでいないのに,より人間臭い,失敗についてのエピソード満載の,『アンチパターン』を面白がったりしていますし,最近,エクストリーム(XP)プログラミングという開発手法を知るにつけ,プログラミングの問題を解決するには,ニンゲン系をいじり回すことがカギになる,との感をますます強くもってきました.

 当連載は結局,仕事が忙しいという愚痴と,技術をフォローアップするのがたいへんだ,という悲鳴に終始してきたような感がありますが,その中に,もしそういったニンゲン系の話をある程度語ることができたとすれば,読者の皆さんに支えられてのことと感謝しています.

 シャーロックホームズに「最後の挨拶」という一編があり,ホームズがワトスンに「東風が来るね」というくだりがあります.受託開発の現場と,かつて「マイコン」を担ってきた世代にも,さまざまな厳しい風が吹いてきているような気がします.

 本当に,思いのほか長く,この文章付きマンガ(マンガ付き文章?)を続けることができたのは,望外の幸せでありましたと,デイバッグを背負い直しつつ,お別れの挨拶といたします.











藤原弘達 (株)JFP エンジニア,漫画家

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