第30回
〜対談編〜
EDAエンジニアになる勉強をしていたYahoo!の設立者,David Filo氏
今回のゲストのプロフィール
Phu Hoang(フー・ホアング)
Yahoo!社Vice President(副社長).1965年ベトナム,サイゴン生まれ.少年時代,家族と渡米(1975).メリーランド大学で数学と電子工学を専攻,のちにカルフォルニア大学バークレイ校(UC Berkeley)にて,電子・情報工学の修士/博士号を取得.EDAスタートアップを経て,技術責任者としてYahoo!社の立ち上げ時代に入社.現在は電子商取引(E-Commerce)の技術部門を統括する副社長.
EDAソフトから インターネットポータルへ
フーは現在,インターネットとかE-Commerceをやっているのですが,もともとはかなり硬い分野の勉強をしていましたよね?
学士を取ったメリーランド大学は理論(theory)の分野が強い学校で,工学部でも制御理論の講義などが多くありました.紙を使った演習や数学の勉強ばかりしていたイメージがあります.
EDAの分野にはどうして入ったのですか?
大学院生としてUC Berkeleyに入った当初は,それまでと同じ制御系の理論を勉強しました.結局,修士は1年ほどで取れたのですが,この後ずっと難しい方程式ばかりながめるのに少しずつうんざりしてきたり,優秀な学生が多い大学なので競争も激しくて,修士を取るまでの経験はかなりつらいものになりました.そこで,別な分野を考えてみたくなりました.
そして,DSPや低消費電力回路で有名なヤン・ラバイ(Jan Rabaey)教授の研究室に入ったわけですか?
当時はラバイ先生が自分の研究室を立ち上げようとしていて,私にとって非常に良い状況でした.DSPの世界では自分の数学に関するバックグラウンドが使えると思っていたのですが,当時の私はコンピュータやソフトウェアについての知識があまりなかったので,研究員になりながら,コンピュータの分野の授業を受けたりしてなんとか研究室でがんばれるようになりました.なにせ理論ばかりやっていたので,とまどうことが多かったです.でもそれを許してくれ,チャンスを与えてくれたラバイ先生には,いまでも本当に感謝しています.ラバイ先生の研究室に4年ほどお世話になり,博士号を取りました.
卒業論文のテーマは,ハイレベル論理合成でしたよね?
そうです.DSPなどで使われるデータパス中心の論理合成ツールを書きました.最適化アルゴリズムも研究しました.
技術的内容がすごく濃いし,専門的な分野ですね.現在はインターネットを代表する会社に勤めているわけですが,分野的に見て,いままで勉強してきたこととか研究したことはどういうふうに役立っていますか?
Yahoo!は,位置づけとしてはコンシューマをターゲットとしたメディア会社になっていますが,やはりエンジニアが影でそれぞれのサービスをしっかり支えています.私がUC Berkeleyに在学していた頃はC++が流行りはじめていて,私もC/C++のコーディングをかなりやりました.Yahoo!でエンジニアとして仕事をするには,基本的に質の高いプログラミングができる必要があります.HTMLなどのときは適当な書き方になることもありますが,そこでも以前自分がやってきたフォーマルなプログラミングスタイルが役立っていると思います.
エンジニアには肩書きを与えない
最近,VP(Vice President)になられたとか? おめでとうございます!
いえいえ! Yahoo!はタイトル(肩書き)を与えないことをポリシーとしています.だから,エンジニアだとだいたい皆Technical Yahoo注1が共通のタイトルです.しかし私の場合,仕事上どうしても他社の技術者と一緒になることが多く,私の位置付けをしっかり示さないといけない状況が発生しました.外部の方に,どういう仕事をやっているかをしっかり伝える必要があって,しぶしぶこの新しいタイトルを引き受けました.
他社のエンジニアと仕事はどのように進めるのですか?
インターネット系の会社の場合,さまざまな提携スタイルがあります.そこでの技術的評価,ようするに他社の技術とYahoo!がどのように協力しあえるかを検討していきます.また,Yahoo!はインターネット業界でのリーダー的存在で,多くのスタートアップからさまざまな提案があるわけですが,ひととおり技術的評価をしておかないと今後どうなるかわからないので,新しい技術も積極的に理解しておく必要があります.
タイトルでエンジニアの位を分けないのは,どうなんでしょう? 普通のシリコンバレーの企業だとエンジニアには,Junior Programmer,Senior Programmer,Chief Architect,VPに相当するエンジニアの最高峰に位置するFellowなど,さまざまなタイトルがありますが,Yahoo!は,こういったものがなく,みなさんすべてTechnical Yahooなんですね?
Yahoo!では,Yahoo!のサイト内の各サービス,われわれはPropertyと呼んでいるのですが,これらは互いにおおむね独立していて,エンジニア5〜6名,マーケティング,マネージャから構成される小さなグループによって考案され,作られ,テストやメンテナンスが行われます.各Propertyをできるだけ単独の企業のようにするわけです.結果的にエンジニアの仕事や責任の量も多くなります.エンジニアをタイトル付けしないことによって,臨機応変にプロジェクトに対応できるようにしています.各Propertyによる広告収益などは一目瞭然なので,それを担当するグループの評価として,直接使えます.
障害物を取っ払うのが マネージャの仕事
今後については? また大学に戻るとか考えることはありますか?
最近,やっと自分のやりたいことが見えてきました.Yahoo!の前には,ASICの設計者とか専門家が使うEDAソフトを書いていました.これはたしかに必要なことだったのですが,Yahoo!のような桁違いに多くの人に使われるプログラムを書いていると,やはり充実感が違いますね.あと,家族に仕事の話をするとわかってもらえるし(笑).
そうですね,DSPやASICの話からはじめないといけないのでは,苦しいですよね.
それに,マネージャという仕事に自分は合っていると感じています.できるだけエンジニアが仕事をしやすいように障害物を取っ払うのが私のマネージャ像です. だからエンジニアを使っているという意識より,エンジニアに何をやってあげられるか? これを常に考えています.もっと生産性を上げるには,どうするか? さまざまなプログラムを共有することは手だての一つですが,これを強制的にやるとなわばり意識が出るので,いかにバランス良くするかが大切です.エンジニアは,ちゃんと評価されると自主的に動いてもっと良い仕事をしてくれるといつも感じています.また,技術的なチャレンジもたくさんありますから,以前研究していた分野に戻ったりしたいとは思いません.
会社が成功する前と後で,生活は変わりましたか?
新車を買ってしまった人が負けなんですね? 楽しそうなコンテストだ.
トニー・チン htchin@attglobal.net WinHawk Consulting
copyright 1997-2000 H. Tony Chin
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移り気な情報工学 第62回 地震をきっかけにリアルタイム・システム再考
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◆フリーソフトウェア徹底活用講座 第24回 Intel386およびAMD x86-64オプション 第23回 これまでの補足とIntel386およびAMD x86-64オプション 第22回 静的単一代入形式による最適化 第21回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証(その9) 第20回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証(その8) 第19回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証(その7) 第18回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証(その6) 第17回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証(その5) 第16回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証(その4) 第15回 GCCにおけるマルチスレッドへの対応 第14回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証(その3) 第13回 続々・GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証 第12回 続・GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証 第11回 GCC2.95から追加変更のあったオプションの補足と検証 第10回 続・C99規格についての説明と検証 第9回 C99規格についての説明と検証 第8回 C言語におけるGCCの拡張機能(3) 第7回 C言語におけるGCCの拡張機能(2) 第6回 GCCのインストールとC言語におけるGCCの拡張機能 第5回 続・C言語をコンパイルする際に指定するオプション 第4回 C言語をコンパイルする際に指定するオプション 第3回 GCCのC言語最適化以外のオプション 第2回 GCCの最適化オプション ――Cとアセンブラの比較 第1回 GCCの最適化オプション
◆フジワラヒロタツの現場検証 第72回 現場検証,最後の挨拶 第71回 マイブーム 第70回 OSぼやき放談 第69回 技術者生存戦略 第68回 読書案内(2) 第67回 周期 第66回 歳を重ねるということ 第65回 雑誌いろいろ 第64回 となりの芝生は 第63回 夏休み 第62回 雑用三昧 第61回 ドリームウェア 第60回 再び人月の神話 第59回 300回目の昔語り 第58回 温泉紀行 第57回 人材ジャンク 第56回 知らない強さ 第55回 プレゼン現場にて
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