さて,景気が悪化した際にシリコンバレーの企業はどのような対応をするのか.会社側が行うことは,基本的には日米の格差はあまりないと思う.しかし,アメリカの企業の行動は日本の企業に比べて対応が早いことは確かだ.EE Times誌の2000年の夏頃に行ったアンケートによると,70%弱の企業が技術者・エンジニアの不足を訴えていた.しかし今年の9月には,これが逆転して70%弱の人たちが過剰と答えたらしい.9月のテロ事件がリストラを加速しているとはいえ,1年足らずで逆転しているのには少なからず驚いた.
リストラに入る前には,経費を削減して出費を抑えるという段階があるが,これについてもシリコンバレーらしいところがある.まずは,社内のさまざまな「贅沢」の削減である.有能な人材を惹きつけるため,景気の良いときにいろいろなサービスや設備を設けていたものを削減する.逆にいうと,それまでは少しびっくりするような内容で話題性をねらっていたことがあったのだ.
たとえば,筆者が勤めたある会社では,夜遅くまで仕事をするエンジニアのために,会社が夕食・夜食を提供していた.かなり有名なシェフによるケータリングサービスが行われていたのだ.これを面接の際に,人事の担当者が延々と説明してくれたことを覚えている.毎晩8時頃から,シェフとアシスタントの3名が料理を作っていた.この会社はここにこだわりたかったようだが,年間6万ドル近くもかかっていたらしい.とにかく,景気の良いときに年俸以外で何とか注目を集めるためにこのようなことを行っていたのだが,景気が悪くなるとこのような部分は,真っ先にカットされた.これらの突出したシリコンバレーらしい出費をはじめとして,さまざまな経費がカットされていく.エンジニア達,とくに主要な開発に携わっているスタッフはなかなかカットできないが,中間管理職などは危ない.
一般的に,短期的な即戦力を重視するシリコンバレーの企業では,まだ経験の浅い新卒のエンジニアなどがレイオフの対象になる場合が多い.知人のマネージャは,会社側の都合で数名のエンジニアをレイオフしたそうだ.彼女は若いエンジニアを選んだそうだが,その理由として次のような点を挙げた.若いエンジニア達にはコーディングや,すでにあるコードをメインテナンスする作業を任せることができるが,かなり指示を与えなければならない.しかし次期の製品には,コーディングはもちろんのこと,アーキテクトや基本設計のできるエンジニアが必要と見ていた.彼女曰く,「ライブラリのことをよく知っていたり,スクリプトの使い方やツールなどはよく知っていたが,基本的なソフトウェアエンジニアリングのスキルが浅いので,やむを得なかった……」と語っていた.
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