第76回

Engineering Life in Silicon Valley

エンジニア達の健康管理・なぜエンジニア達は太る?(第一部)


 最近の当コラムで行った対談は,シリコンバレーのジムで出会った方々にゲストとして登場していただいた.健康に気を使っている方々ばかりで,もちろん運動も大好きという感じだった.しかし,その一方でアメリカ人の半分ぐらいが太りすぎで,さらにその40%が肥満というニュースもある.アメリカ人はとにかく食事の量が多く,びっくりする.

 では,一体エンジニア達はどうやって健康管理をしているのか? または,していないのか? 今回はこの点について考えてみたい.


太る原因は大量・大盛り・ビッグサイズにあり


 シリコンバレーのエンジニアは人種もそれぞれでさまざまなタイプがいるが,一般的にいえば,やはり日本と比べると巨漢もしくは太った人が多いようだ.太る理由が食事にあるのは大方理解いただけると思う.旅行や出張でアメリカに来られた読者の方々は頷くと思うが,アメリカでは食事の量が日本と比べてはるかに多い.食べ物や食事については,このコラムの1998年10月号でも紹介したので,そちらもぜひ参照してほしい.

 ごく普通のアメリカ人の食事生活は,どう見ても量が多いのと,太りそうな食べ物……たとえば甘い物や揚げ物が多い.朝からちゃんと食べるのが良いとは日本でもいわれるが,アメリカの「ちゃんと食べる」は半端ではない.卵3個,ハッシュドポテト,ソーセージかベーコン数本,それにトースト2枚,オレンジジュース……これが典型的なアメリカンブレックファーストである.トーストの代わりにホットケーキ3枚またはベーグル,ワッフルを添えるのも立派なアメリカンブレックファーストだ.もちろんホットケーキやワッフルには,大量のバターとシロップが必須となる.量的にいうと日本の2人前は軽くあり,もしかしたら3人前ぐらいはあるかもしれない.

 なぜここまで糖分や炭水化物が多く,過激なまでにカロリーを摂取する食事なのか? 筆者なりに考えてみたが,その昔,アメリカ人のほとんどは地方に住み,農業・酪農で生計を立てていたわけである.この名残りでカロリーが非常に高い食事を取るのだと思う.アメリカでいう「軽い朝食」といえば,コンチネンタルブレックファーストと呼ばれる物だ.パン類,オレンジジュース,コーヒーの3点セットが典型的である.しかし,これにもアメリカなりの特徴がある.パン類といってもほとんどがドーナツやケーキに近いものが多いので,とても甘く,もちろんカロリーも高い.それにサイズも大きいから,毎日食べていると太るのは間違いないだろう.

 甘い物を食べるのも大きな特徴で,朝昼晩とどこかに必ず甘い物を食べるし,夜寝る前にアイスクリームを食べる習慣があるアメリカ人家庭も多い.また,アイスクリーム屋に行って普通のアイスクリームを頼む際,日本の3倍ぐらいの量がこちらの1人前だと理解しておいたほうがよい.しかも普通のアイスでは寂しいのか,チョコレートのソースやホイップクリームを沢山かけたアイスクリームサンデーを大人が平気で食べることも多い.家庭で自家製のアップルパイを作っても,一緒にアイスクリームと出すパイアラモードにするのが粋なおもてなしなわけだ.日米で存在するドーナツ店などを比較しても,アメリカのドーナツのほうがはるかに甘く感じるというし,実際,日本のものはそれほど甘くないようだ.


食べ放題が人気?


 一方,ランチはというと,たとえばファストフードの場合,日本でも馴染みのあるセットメニューがあるが,飲み物一つ取ってみてもアメリカのMサイズが日本のLサイズぐらいだろうか? セットメニューでよくあるのが「スーパーサイズ」というもので,セットメニューを注文すると,店員から「お客様,1.50ドルプラスすればスーパーサイズにできますが,どうしますか?」などと聞かれる.スーパーサイズにするとドリンクがLよりも一回り大きいサイズになり,フレンチポテトもLよりも一回り大きいサイズになる.ちなみにポテトのスーパーサイズは日本のLの2倍ぐらいの大きさになる.

 そのほかに人気のある手軽なランチというと,ピザやメキシカンのブリトーなどがある.いずれにしろ脂っこいし,カロリー抜群だ.中華や和食も人気なのだが,日本では想像できないようなメニューが人気だ.たとえば,和食だと最近では回転寿司やバイキング方式の寿司屋がシリコンバレーでも増えた.人気ネタは海老天やうなぎを太巻きのようにして,それをさらにテンプラの衣をつけて揚げた巻き物だ.すし飯を小さめのおにぎりサイズにしてその中に具を入れて,テンプラにして揚げたようなものだ.1オーダで4個ぐらいになる.試しに食べてみたが,たしかに非常に腹持ちが良く,一気にお腹が一杯になりそうなメニューだった.

 食べ放題のお店に人気があるが,和食以外だとインド料理や韓国焼肉の食べ放題が存在する.中華でも安いファストフード系がシリコンバレーでは多くあるので,エンジニア達もお昼や夜に利用することが多い.一度揚げた豚肉や鶏肉を辛いソースに絡めたものが非常に人気で,それを山盛りのチャーハン,もしくは五目焼きそばと一緒に食べるわけだ.もちろん飲み物はコーラや清涼飲料などが多い.日本のファミレスであるようなドリンクバー,炭酸飲料水の飲み放題がやはりよろしいとされる.

 「健康的」と思われがちのサラダもお昼の人気メニューだ.ここでもやはり食べ放題のレストランが流行る.サラダだけでなく,数種類のスープやパスタ,そして店内で焼かれている数種類のパンがすべて食べ放題だ.しかし,いかにも太りそうなこってりとしたドレッシングを沢山かけたり,パンにたっぷりとバターをつけて食べているエンジニア達が多く,少し矛盾しているような気もする.普通のちゃんとしたレストランでも量が多いのには変わりはない.全般的にいえるのが「量が多いのは良いこと」として捉えられていることだろうか?


ジャンクな食べ物は立派な食事である(?!)


 清涼飲料といえば,アメリカでの消費量が世界一らしい.とにかくアメリカでは何かにつけて「飲み物はどうしますか?」と聞かれる.もてなすほうとしては,アイスティでも何でも飲んでもらわないと申し訳ないようだ.

 それ以外でも,炭酸飲料があらゆる所で飲まれているし,子供もかなり小さいころから飲み慣れている.これは,炭酸飲料も立派な食事の一部と考えられているからだと思う.普通のコーラでも大体ご飯一杯分ぐらいのカロリーに相当するので,かなりのカロリー摂取量となる.これを朝から飲むエンジニアは多いし,お昼でまたもう1本……そして午後の会議中にまたもう1本……となると太るに違いない.

 最近,中学や高校で炭酸飲料の自動販売機を置くのは子供達の健康に良くないという理由でジュースとボトルウォーターに代えられているが,このジュースも意外とカロリーが高いので,結果的には太る原因になり,矛盾が指摘されている.

 現在では炭酸飲料などは,ジャンクフードということで学校から撤去されたわけであるが,ポテトチップスなどの日本でいうスナック菓子やチョコレートなどは立派な食べ物の一部として日常で捉えられているのがアメリカの食生活だ.たとえば子供のお弁当にハムサンドに小さい袋に入ったポテトチップスを付けることが多い.これにデザートのチョコレートとフルーツを付ければごく一般的なアメリカの子供のランチになる.そのようなことから,街中でサンドイッチ屋に行ってもサンドイッチを食べながらポテトチップスを食べる習慣は大人になっても続くことになる.単なるオヤツではないわけだ.会社に行くとチョコレートやポテトチップスなどが並ぶ自動販売機が設置されているか,スタートアップだとまとめ買いされていたりする.忙しくなるとスナック菓子やチョコレートでしのぐエンジニアが多いので,かなり重宝されている.この数年では日本のカップ麺なども非常に一般的になってきた.もちろんアメリカナイズされた味付けのタイプであるが,会社で数種類,常備していることが多い.

 共働きや忙しいエンジニアが多いので,夜も家でじっくり夕食を作る人達は少ない.ここでまたファストフードやレストランのテイクアウトのお世話になる.ちゃんとしたレストランでもテイクアウトに対応しているところがかなりあるので,グルメな食事も事前に電話予約をすれば帰宅時にテイクアウトできる.きちんとバランスの取れた食事をしている人は別として,お昼とあまり変わらない高カロリーな食事をしている人達も多い.おまけにデザートを食べる習慣があるので,ついつい甘い物に手が出てドンドン太る原因を作っていく.

 ちなみに夜の付き合いで飲んだりすることは日本ほどない.飲むのが好きなエンジニア達は,シリコンバレーに数か所ある地ビール屋兼レストランに同僚や仲間達と行くことが多い.ここでも美味しいビールとビールに合いそうな食事があるが,やはり揚げ物などが中心になるだろうか? ビール屋さんではおつまみが半額か無料になる「ハッピーアワー」がコストパフォーマンスが良いことから人気である.


矛盾している健康食品?


 心臓病や循環器系の病気などが注目されていることから,アメリカでも食べ物に気をつけるよう盛んにいわれている.そこで健康に良い食べ物が注目される.日本でもあるような「低脂肪」や「低カロリー」食品だ.カロリーオフの炭酸飲料もたくさん飲まれている.びっくりするのが,豆乳や豆腐でできているアイスクリームだが,なんでも低脂肪なので身体に良い……として売られている.このほかにもどこかピントが外れているものも多い.たとえば,果物や野菜を多く摂りましょう……ということで果物をミキサーにかけたフレッシュジュース屋がシリコンバレーでは流行っている.しかし,冷たくドロッとしたフラッペ状にするため,なんと,かなりの量のシャーベットや甘いヨーグルトが入っている.また,できたジュースもファストフードのLサイズでしか売られていない.せっかくの果物もシャーベットにすることで健康的な意味があまりないように感じるのだが,「ダイエットのためにお昼はこれだけ」というエンジニアも多い.まあ,ファストフードの揚げ物や脂っこい物を食べていないから気休めになるかもしれないが…….

次回の予告


 大量に食べたり,甘い物を好むシリコンバレーエンジニア達がどうやって健康を維持するかの努力,そして考え方などについて話を続けたい.



トニー・チン
htchin@attglobal.net
WinHawk
Consulting

 


copyright 1997-2004 H. Tony Chin

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Engineering Life in Silicon Valley
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