ここ数年多くの大学が取り組み始めたのが,新しい起業家育成コースだ.新しいビジネスを創造させることに期待があるため,何とかして起業を促進させたいと考えているのだろう.
また,最近のライブドアの堀江貴文社長がフジテレビ株の件でメディアに取り上げられ,ベンチャ企業がより一層身近に感じられるようになったこともある.起業家育成コースの説明会を高校生や父兄向けに行ったところ,多くの父兄からも興味をもたれたという話を大学側から聞いた.ちょっと前までは,やはり「大手企業に就職して欲しい」と考える親が大半だったが,少しずつ今の高校生や親の考えが変わってきているように思われる.
筆者がこれまでやってきた講義では,おもに理科系の大学のゼミや研究室で少数の学生達を相手に,シリコン・バレーがどういう場所であるかを解説していた.講義の内容は,本誌2000年7月号別冊付録,「めざせ!シリコン・バレーエンジニア」の第一部で紹介した内容に近い.シリコン・バレーの地理的な特徴や歴史がおもな内容となる.3年生以上,大学院生がほとんどなので比較的知識も豊富で話が進めやすい.シリコン・バレーを代表する企業の名前や製品名を知っているので,そういう意味で話がスムーズにいったという印象だ.また,講義の最後に行うQ&Aもおもしろい展開となるケースが多かった.
今年に入ってから,基本的に文系の大学の一般教養のクラスでシリコン・バレーの話をしてほしい,という依頼があった.2005年の5月だ.相手は1年生がほとんどで,5月で大学1年生ということは,数か月前までは高校生だった人達だ.
実際の授業には200名ぐらい集まって,各学生からの授業感想カードももらった.まだまだ大学生になったばかりで,かなり素直な感じの感想が多かった.たとえば,GoogleやYahoo!を良く使うが,シリコン・バレー発の会社だったとは知らなかったとか….また,意外だったのが多くの学生達が「シリコン・バレーのような,ベンチャ起業をやってみたい」とか「学生のころから会社を作りたい」という感想だった.やはりこれは,ライブドアの堀江氏の影響が強いのかもしれない.
この話には続きがあって,現在2006年度に向けて起業家育成コースの内容を検討している.今のところ,ビジネス・プランを作成することをメインにやって行こうと考えている.マーケティング,製品戦略,市場戦略,市場調査方法,経理,財務,人事・人選など,専門知識が必要になるが,これらを一つ一つ真面目にやるとMBA並みのコースになるので,さわり程度の入門編のようなものになるかもしれない.
また,大学生に起業家育成コースを実施しても,どれぐらいがものになるかという問題もある.シリコン・バレーでは,実際に何も社会経験なしで設立されたベンチャ起業も存在するが,エンジニアリングが絡む起業は大手企業や研究所からのスピン・オフのケースが多いからだ.しかし,基本的にビジネス・プランを作成するプロセスは何も起業だけでなく,ほかのビジネス・シーンでも使えるスキルを必要とするので,何らかの形で必ず実用的な知識になる確信はもっている.大手企業だとオペレーティング・プランとか違う名前で呼ばれているだけのケースも多い.したがって企業の規模に関わらず使えるスキルになるだろう.
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