特集執筆にあたって

 国内の携帯電話の現状は,契約数が2001年で7000万台を突破し,さらに動画像伝送も可能なIMT-2000方式すなわち第3世代システムの時代に突入しようとしている.TV放送もCS/BSディジタル放送に続き,地上波放送もディジタル化が予定されるなど,ディジタル通信放送システムの普及が近年急速に進んでいる.

 さらに今後も,VDSL(ADSLの高速版),CATVデータ通信,電灯線通信,Bluetooth,高速無線LAN,ワイヤレスインターネットIP接続,第4世代携帯端末と,その普及が加速化されることはまちがいない.

 本特集では,こうしたケーブルやワイヤレスを介したディジタル通信に必要な基礎技術を初心者向けに解説する.具体的には,ディジタル変調,信号等化,アレーアンテナなどを取り上げ,ディジタル通信システムの概要が,少ない時間で理解できるように配慮している.

 本特集の特徴は,まずMATLAB〔サイバネットシステム(株〕を用いた演習を通して理解を進める点にある注1.これにより,

1)視覚的にディジタル通信システムを理解できる

2)パラメータを変えることにより種々のシミュレーションが行え,システムの物理的な把握が容易になる

3)ソースコードを理解することにより,実際のHDLやC言語によるシステム設計が容易になる

といった利点が得られる.

 さらに,記述問題ばかりでなくMATLABを用いた章末問題も用意したので,ぜひともチャレンジしていただきたい.

 なお本特集は,誌面の関係で誤り訂正符号や同期回路,多重化方式に関しては割愛する.また,各種変調方式のビット誤り率の導出など,とくに専門的な内容についても割愛した.テキスト化する際などの機会を見て,割愛した内容について改めて触れたいと考えている.


注1:MATLABにはディジタル通信システムの設計検証用のcommunication toolboxが提供されているが,本特集で作成する演習用のMATLABソースは,いくつかの例外を除いて,あえてtoolboxを利用していない.その理由は,toolboxで提供されているアイコンや関数を利用すると,回路がブラックボックス化されてしまい,回路自体の理解ができないためである.本特集の目的は,そうした各回路の理解にあるので,あえてM-fileによるプログラミングを行っている.もちろん,本特集の内容を理解した後には,communication toolboxで提供されているアイコンや関数を利用して通信システムの設計検証を行う方法をとるべきであり,またそれが設計検証の時間短縮にもつながることはいうまでもない.

1. 特集執筆にあたって

-ディジタル信号の帯域制限-

2. データ伝送とディジタル通信システム
システムの概要,バイナリデータとシンボル

3. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
パルス波形の周波数スペクトル,符号間干渉

4. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI
ナイキスト基準とロールオフフィルタ,ナイキスト/ロールオフフィルタの振幅特性

5. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
コサインロールオフフィルタ,コサインロールオフフィルタのインパルス応答

6. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
オーバサンプリング・ロールオフフィルタ,ルートロールオフフィルタ


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Copyright 2001 尾知 博