3. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)

● パルス波形の周波数スペクトル

 ディジタル通信システムにおいては,周波数の有効利用のため,伝送信号の帯域制限を行う必要がある.その理由を以下の例題で考えてみよう.

例題1.1 矩形パルス波形のフーリエ変換

 図3に示す矩形パルス波形xt)の周波数スペクトルX)をフーリエ変換により求めなさい.

〔図3〕矩形パルス波形のフーリエ変換

[解]

(1.1)

 振幅スペクトル|X)|を図3に示す.

 このように,矩形パルス信号は広帯域(理論的に無限周波数まで)な周波数スペクトルを有しているので,複数のユーザーが同じ伝送路を使用して通信を行う場合,チャネル間で干渉を起こす.

 したがって,矩形パルス信号の伝送を行うディジタル通信システムにおいては,周波数の有効利用のため伝送信号の帯域制限を行う必要があるのである.

● 符号間干渉

 いま,シンボル間隔T(sec)のバイナリデータを低域通過フィルタ(LPF)により帯域制限を行うことを考える.この場合,図4に示すように,出力波形がT(sec)ごとに値‘0’あるいは‘1’を維持するならば符号(シンボル)間干渉が生じないので,情報を失うことなく帯域制限が行える.この状態を零ISIと呼ぶ.

〔図4〕零符号間干渉
(零ISI)


 いま,2値のNRZ符号 注2 を零ISIとなるLPFに入力する.その出力波形をある時間間隔で重ねて描くと,図5のようなアイパターンと呼ばれる波形が得られる.図(a)は2T(sec)間隔で重ねて描いた例である.このように,零ISI状態におけるアイパターンは,NRZ符号の場合,T(sec)間隔ごとに1または−1の値を取る.したがって,“アイが開いている”場合,すなわち零ISI状態では,帯域制限を行ってもT(sec)ごとにシンボル値を再生できる.

 一方,図(b)のように“アイが十分に開かない”場合,すなわちISIが生じている場合は,シンボル値の判定を誤る場合があるので,ビットエラーが生じる.

〔図5〕アイパターン

クイズ1.2 アイパターン

 4値シンボルを零ISIとなる低域通過フィルタに入力したとする.アイパターンの概略を描け.

(解答は章末)

1. 特集執筆にあたって

-ディジタル信号の帯域制限-

2. データ伝送とディジタル通信システム
システムの概要,バイナリデータとシンボル

3. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
パルス波形の周波数スペクトル,符号間干渉

4. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI
ナイキスト基準とロールオフフィルタ,ナイキスト/ロールオフフィルタの振幅特性

5. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
コサインロールオフフィルタ,コサインロールオフフィルタのインパルス応答

6. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
オーバサンプリング・ロールオフフィルタ,ルートロールオフフィルタ


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