はじめに ● RISCはCISCに対するアンチテーゼ! RISCはCISCに対するアンチテーゼとして開発された.その発想は,CISCではむだな命令が多く,それが動作周波数を上げる妨げになっているというものだ.洗練された簡単な命令セットにすれば,パイプライン処理を効率的に動作させることができ,動作周波数の向上とあいまって最高の性能を達成できる.この観点で,1980年代から,大学や企業でさかんにRISCの研究が行われるようになった. CISCはある時期まで,思いつきでアーキテクチャを拡張していった感があるが,RISCは最初から定量的に性能評価をしながら論理的にアーキテクチャを決定していった. ● CISC……いや,x86の一人勝ち? RISCは,本来は動作周波数を上げるための技術であるが,現時点ではx86系MPUのほうが動作周波数が高い.結局は,プロセス技術の開発に莫大な投資をできる企業だけが生き残ることができるのだ.投資回収という観点から見れば,需要が知れているサーバやEWS向けのRISCの利益が少ないのは明らかで,莫大な数が出荷されているPC用のMPUには太刀打ちできない.金持ちはより金持ちに,貧乏はより貧乏に,もしくは理論派が現場からの叩き上げに負けたようなものであろうか. しかし,x86がRISCの技術を採り入れながら性能(とくにIPC)の向上を図ってきたのは事実であり,その上でプロセス技術によるさらなる高速化がなされたと考えることができる.その意味で,x86の進化にあって,RISCは高速化のためのアイデアを提供してきたともいえる.Intelと並ぶ優秀なプロセス技術を有するIBMは,自社のRISCであるPowerPCで一人気を吐いているが,ほかのRISCはサーバ/EWS/PCなどの高性能が要求される分野からは早晩消滅していくかもしれない. ● RISCの進むべき道は RISCの進むべき道は,性能よりも超低消費電力が要求される組み込み制御の分野であろう.CISCは性能を追求するあまり,消費電力には無頓着になっている.最近でこそIntelなども電力削減のスローガンを掲げているが,ARMやSHやMIPSなど,早い時期から低電力を売りにしてきたRISCには追いつけない.GHzを超える動作周波数を維持しようとする限り,永久に追いつくことは不可能であろう.そこにRISCの生きる道があると思われる. RISCには,x86のようにPCを中心とした共通の応用分野があるわけではなく,各コンピュータメーカーが自社のサーバやEWSを高速化できればいいという発想で開発が続けられたので,そのアーキテクチャは各社バラバラである.したがって,その解説はオムニバス形式にならざるを得ない. ARMやSHやMIPSは,組み込み制御分野を自分の色に塗り変えようと必死の努力をしているが,x86のように世界統一できる日が来るのだろうか.
|