パソコン延命処置室です.(1)

今,パソコンを買い替えずに高速化を行う方法

ゲタを使ったマシンのアップグレード 

岩村 益典

 

 1999年から2000年・2001年に向けて私たちはゴミを捨てるということが自由でなくなる時代が到来するかもしれません.使い古したパソコンを自由に捨てることができないのです.また,企業の場合に税金の関係などで,マシン全体ではなく一部だけを交換したいという場合もあります.現在の日本の経済状態から判断しても,何らかのかたちで古いパソコンをアップグレードして使いたいという希望が多いのは,日本の不況という事実から見ても当然です.

 ところで,アップグレードについては二つの方向性があります.一つは,DVDドライブを取り付けてDVDのソフトを楽しむことができるようにすることやビデオキャプチャカードを取り付けるといった,機能拡張を目的としたアップグレードです.もう一つは,ここで取り上げようとしている,システムの処理速度を向上させるためのアップグレードです.

 そのためには,
◆何らかのソフトウェアでシステムの処理速度を向上させる方法
◆CPUの換装
◆メインボードの換装
などをいくつかの方法があります.
 もちろん,システムの処理速度はハードディスクのアクセス速度や容量,メモリ容量によっても左右されます.これらいろいろな要素を総合して判断していくことが必要となってきます.

● ゲタとはなにか LightTek JJ-P55Z

 今回は,筆者が台湾で入手し,日本でも販売の開始された,CPUアップグレードキットLightTek JJ-P55ZというCPUアダプタ(いわゆるゲタ)を中心として,話を進めていこうと思っています.

JJ-P55Zを製作している工場長ジョーダン先生

 ゲタは,既存のメインボードに新しいより高速なCPUを取り付けるためのアダプタです.CPUを高速なタイプと交換すれば,システムの処理速度が向上します.もちろん,ゲタを使用せずに,速度の速い新しいCPUを交換できれば一番簡単です.特に単体で売られているメインボードの場合には,使用できるCPUが豊富ですし,たとえサポートしていないCPUであっても,電圧や倍数,クロックを使いたいCPUに合わせることができれば,システムが起動する可能性は高いものといえます.
 システムが起動してしまえば,たとえ起動時に出るCPUの名称の表示が間違っていても,WindowsなどのOS上では正しく利用できる場合が多いといえます.また,BIOSを最新のものにアップデートすることで,対応できるCPUの数も多くなります.

 電圧の問題について説明すると,Pentium(P54C)とMMX Pentium(P55C)やK6などとは,根本的に電圧設定が異なります.つまり,P54Cは,シングルボルテージ仕様といって,単一の電源3.3V(3.52Vタイプもあります)で動作しています.
 しかし,P55CやK6系のCPUは,I/O部分(周辺機器とつながるところ)とコア部分(CPUの内部の回路部分)の電圧を異なって供給するデュアルボルテージ・タイプなのです.たとえば,K6-2の300MHzでは,I/Oは3.3Vですが,コア電圧は2.2Vです.しかも,P54Cは処理速度も遅いですし,MMXにも対応していません(図1).

●IDTの1電源タイプ

 そこで登場したのが,IDT社のWinChipのC6,そしてそのアップグレード版W2シリーズです.これらは,シングルボルテージで動作します.もちろんMMX命令にも対応しています.
現在,200MHz(66MHz x3),225MHz(75MHz x3),240MHz(60MHz x4)があります.整数倍の倍率しか設定できないようになっていることに注意が必要です.
また,新しい,WinChip 2(W2)は,3Dnow!に対応し,100MHzシステムバスのサポートなど,かなり高速で高機能になっています.
 次のような設定ができます.

◆200MHz(66MHz x3,100MHz x2)
◆225MHz(75MHz x3)
◆233MHz(66MHz x3.5,100MHz x2.33)
◆240MHz(60MHz x4)
◆250MHz(83.3MHz x3,100MHz x2.5)
◆266MHz(66MHz x4,100MHz x2.66) 

 また,WinChip 3…と次々に新しいタイプがリリースされるようです.しかし,問題は,シングルボルテージといっても,3.3V版と3.52V版があり,メインボードによっては3.52Vに設定できないため,利用できない場合があります.メーカー製マシンのCPUをC6やW2に交換するのは困難でしょう.また,古いメインボードでは,4倍などの倍率が設定できない場合があります.何とかK6-2の300MHzあたりを使いたいところです.
 そこで登場するのがゲタなのです.ゲタは,電圧の設定と倍率の設定を行います.ゲタ JJ-P55Zシリーズ ゲタにはいろいろありますが,ここでは,JJ-P55Zシリーズについて説明します.価格も5,600円とリーゾナブルです.Web(http://www.arcadia-inc.com/).に筆者が書いた文章を踏まえつつ解説します.

 

 最新ZIFソケット搭載タイプJJ-P55Zは,ソケット5・ソケット7に取り付けて,MMX対応デュアルボルテージ使用CPU(例:K6-2)を使用できるようにするアダプタです.JJ-P55上にあるソケットがノート用ZIFタイプなので,CPUは簡単には抜け落ちません.また,JJ-P55シリーズ専用クーラーJJ-P55ZFANは,ソケットに取り付けるタイプなので,確実にCPUを取り付けることができるものです.
 3月末にはリビジョンアップし,この取付金具にレバーが付きました.取り付け/取り外しが簡単です.JJ-P55Zには,K6-2 300MHzを使用し,富士通デスクパワーで366MHzオーバークロックの例があります.いずれにせよ,オーバークロック動作はあまり推薦しませんが,通常のファンでは冷却力が不足するようなので,注意してください.
 JJ-P55シリーズは,デュアルボルテージCPUのコア電圧設定(2.2V・2.8V・2.9V・3.2V)を供給し,クロック倍数を倍〜5.5倍まで設定する機能を持っています.それ以外のことは行いません.したがって,システムバスクロックは,マシンのほうで設定します.K6の300MHzを使いたい場合には,システムバス66MHzにマシンのメインボードを設定し,JJ-P55シリーズで4.5倍に設定することになります.もし,システムバス60MHzの場合には,5倍に設定してチャレンジしてください.
 また,I/O電源も,マシン側で設定します.K6はI/Oは3.3Vです.しかし,Pentiumには,3.3Vタイプと3.45Vタイプなどがあります.使っているマシン(メインボード)が,3.52Vになっている場合には,マシン側の設定を3.3Vに変更しなければならない場合があります.もちろん,3.3V仕様のCPUが3.52V設定で動作する可能性があります.これは,電源装置にも依存します(実際に何Vでているかが問題).
 次に,JJ-P55は,BIOSに手を加えません.もし,BIOSがCPU種類をチェックしている場合に,問題が発生する可能性があります.Intel社のメインボード(メーカー製の製品にたくさん使われている)には,同社のCPUかどうかをチェックしている場合があります.この場合には,同社以外のCPUを取り付けるとBIOSは途中で止まってしまいます.ということは,K6よりMMXテクノロジPentium CPUのほうがより成功率が高いということになります.この種のBIOSを搭載したマシンでは,WinChipのCPUも使えません.

 しかし,BIOSを書き換えると動作する可能性があります.マシンの最新BIOSをWebから入手し,アップデートしてみてください.また,インテルチップセットを搭載したメインボードでは,MR BIOSを使うこともできます.詳細は,http://www.mrbios.com/を参照してください.

 すでにデュアルボルテージに対応しているメインボードの中には,CPUを自動検出してI/O電圧を設定する機能を搭載したものがあります.JJ-P55シリーズは,コア電圧を設定するものです.もし,メインボードがこのような仕様だと,CPUの検出に失敗し,例えば,I/OをK6-2の3.3Vに設定することができず,それが原因でJJ-P55を使えない,ということがありうるかもしれません.

● JJ-P55Zの動作するマシンと使い方

 ここに参考として,ゲタの動作すると思われるマシンを示しておきます.

富士通:FMV-575D4,5100D4,575D5,5100D5,5120D5,5133D5,5166D5,5100D6,5133D6,5166D6,5133D7,5166D7,S165
IBM:PC-330,Aptiva S55
三 菱:Apricot MS540
PackardBell:Force120ASUSTeK:TP4N
SOYO:5BT…BIOSのアップデートなどが必要 
 なお,1996〜1997年ころ発売のコンパック製プロリニア(5133),デスクプロ(2000)では,動作しませんでした.どちらもMMX Pentium 233MHzも動きませんでした.

 JJ-P55Zの取り付け方は簡単です.JJ-P55Zのジャンパを設定し,CPUを取り付け,メインボードのソケットに挿し込みます.そして,クーラーを取り付け,クーラーの電源,JJ-P55Zに供給する電源の配線をすると終わりです.
 システムを起動して,メモリチェックが始まればしめたものです.もし,CPUのタイプが正常に表示されていなくても,K6系ならほとんどの場合,Windows上では正しく動作しています.

● まとめ

 ゲタを使用するアップグレードは本当に簡単で,成功すれば,格安で高機能マシンを入手することができます.しかし,問題は「動作するか」どうかという点にあります.もし,学校や会社なので同じマシンを何台もアップグレードしようというなら,サンプルで1個購入し,動いたら後の全部をアップグレードする,という方法がよいでしょう.
 しかし,個人の場合にはなかなか難しい問題です.けれども,結果のみを追い求めるのではなく,経過も楽しむというなら,なかなか面白い製品ですし,BIOSのアップデートなどを行うことで,可能性はどんどん広がってきます.

<図1>


copyright 1999年 岩村 益典