第1特集 個人でできるRAIDの導入 (前編)

第1章
ハードディスクの現状と限界

野葉光一
http://www.system9.co.jp/masa/

● はじめに
 まずHDDの性能に触れる前にパソコン内部の各機能部品の理論的性能を見てみましょう.
 表1に示すように,各機能部品の性能を見てみると最も高速であるCPUから順に性能が低くなっていき,CPUとHDDでは実に133倍もの性能差が現れるのです.CPUとHDDで性能を比べるのもナンセンスだと思われますが,パソコン内のCPUとHDDではかくも差があるということだけは認識していただけると思います.ですが,実は現在のパソコンの性能いかんはHDDに左右されているといってもよく,どれだけCPUが高速なものでもHDDが低速だと実際の使用でストレスを感じることとなるでしょう.
 パソコンの使用ではどのようなOSを使用していても,OSの起動,アプリケーションのロードはHDDから行い,各データの処理もHDDを基盤に行われます.またマルチメディア関連の巨大なデータはHDDでないと扱うことはできません.このように,HDDは決して性能を無視できない機能部品なのです.
 今回はこのHDDに照準を当てて,現在のHDDの性能の状態や,どのような方法でHDD性能を向上させることができるかなどを紹介します.

<表1>パソコン内部に使用されている各部品の性能(単位 MB/秒)
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現在のHDD性能の確認

 HDDと一口にいっても,接続インターフェースの違いやメーカーの違いなどから多くの製品があります.中でも,もっとも使用される機会の多いIDEタイプのHDDは記録容量や接続インターフェースの変化が激しく,その変化のたびに性能も向上しています.そこで,ここでは現状のHDDの性能などを見てみたいと思います.
 まず,現在入手できる各種HDDの性能を調査してみました.表2はその結果です.

<表2>HDD転送速度参考一覧表(転送速度の単位 KB/秒,回転数はrpm)Ss1t2.jpg (116394 バイト)


 この表はUltraDMA/33対応HDDで一部HDDを除きPIOモードとDMAモードでのそれぞれの転送速度を計測し,Ultra2 SCSI対応HDDを2機種計測した結果です.この計測ではパソコンが使用される時にHDDがどれくらいの転送を行っているかという実転送レートを示しています.HDDの転送はシーケンシャルアクセスですので,ランダムアクセス時には転送性能が変わってきます.またパソコンの仕様によってデータは変化します.今回のデータはHDD性能の一指標としてご覧ください.
 結果を見るとIDE用HDDではメーカーごとに性能がばらついていますが,DMA転送時に10MB/秒〜15MB/秒,SCSI用HDDで13MB/秒ほどとなっています.今回のデータではIDE用HDDの性能向上が一目でき,今まで高速HDDとされていたUltra2 SCSI用の7200回転対応HDDを上回っているものもあります.新しい転送方式を採用したとはいえIDE用HDDの性能向上には感心します.もはやHDDの回転数やインターフェースの違いによる性能優位性はほとんどなくなってきているといえるでしょう.

HDD性能の限界

 表2からHDD単体の性能は確かに旧HDDより向上しており,またその記録容量も従来より飛躍的に増大していることがわかります.これほど急速に10GBを超える記録容量のHDDをパソコンに搭載してくるとは誰が予想できたでしょう.
 Windows 95が発表された当時のHDD容量は1GB程度が一般的でしたので,当時から比較すると現在のHDDは途方もない容量のように思えます.しかし今後を予想するとますます容量が増大する傾向が続いているので,数年後には容量が100GB以上のHDDを一般ユーザーが使用しているということもあり得るかもしれません(図1).
 HDDの記録容量は増大しているので,容量の問題は少なくなっているかもしれませんが,次にはHDDの転送速度の問題が浮上してきます.扱うデータのサイズが大きくなればなるほど,これまでよりもっと高速に処理できる能力が必要になるわけです.HDDの性能は接続インターフェースの高速化や記録ヘッド/記録ディスクの改良により確かに高速化されているものの,CPUやメモリなどに比べてモーターなどを使用した機構部品なので元々限界能力が低く単体性能を大きく向上させるのが難しいパーツです.
 高性能とされているUltra2 SCSI用HDDでさえも,接続インターフェース転送速度の80MB/秒に対し実転送速度が13MB/秒ほどと両者間に著しく格差がありますので,単体での接続で使う場合には,接続インターフェースの速度向上の割にはデバイス側の性能がまったく追従できていないのが伺えます(もちろんSCSIが複数のハードディスクを同時に使うような用途に利用されるので,高速なインターフェースが必須なわけですが).そろそろ普及型のIDEの接続インターフェースもUltra ATA/66となり66MB/秒の転送速度に拡大されますが,こちらもデバイス側の性能が向上しているのか疑問視されますので,あわてて導入しなければいけないものではないと推察されます.

● 動画を扱うためには高速なHDDが必要
 HDDの高速化が必要な理由としては,現在ではまだ一般的ではありませんが,たとえば動画を扱うような場合では低速なHDDだと動画記録時にフレームのコマ落ちが発生することがあります.また動画編集時には数100MBものデータを扱うことも少なくないので,こうした巨大なデータを一瞬に処理できる能力が是非とも必要になります.実際一度でも動画のキャプチャやハードディスクレコーディングを行ったことがある方でしたら,理解していただけると思いますが,AVIやWAVなどのマルチメディアデータはワープロなどの文書とは比較にならないほどのデータサイズとなり,編集などの処理に非常に時間がかかるのです.
 また,その処理時間の大半はHDDのアクセスに費やされるので,HDDの性能は非常に重要になります.CPUやメモリなどはかなり高速化されたのですが,HDDは記録容量に対して転送性能があまり向上していません.マルチメディアデータをパソコンで処理できるようになるには,もっと高速なHDDが必要なのですが,HDDの性能は急激に向上するのが難しい状態なので,まだまだ時間がかかるでしょう(図2).

Ss1g2.jpg (34218 バイト)

以下略.


copyright 1999 野葉 光一