WTSの可能性を広げるアドオンシステム MetaFrame(メタフレーム)の機能と特徴 |
松永 晃 | |
WTSにアドオンすることで,マルチユーザー環境を活用するためのさまざまな機能を付加するMetaFrameは,WTSにより広がったBackOffice利用の可能性を探る上で,是非知っておきたいシステムです. この章では,その機能の概要と特徴を紹介します. |
WTSにMetaFrameをアドオンすることで実現される機能は,表1に見るように,3つに大別できます. |
<表1> MetaFrameが実現する機能 (抜粋) |
【異機種コンピューティング環境に対応】 ◆クライアントデバイス:CPUが(-286,-386,-486,Pentium)のPC,WBT,NC,ワイヤレス装置,ICAベースの情報機器,Macintoshシステム,UNIXベース,Xベース ◆ネットワーク接続:通常の電話回線,WANリンク(T1,T3,56KB,X.25),広帯域接続(ISDN,フレームリレー,ATM),ワイヤレスおよびCDPD接続,インターネット,イントラネット ◆ネットワークプロトコル:TCP/IP,IPX,SPX,NetBIOS,非同期の直接接続などの,一般的なLAN,WANプロトコルすべて 【エンタープライズ規模の管理】 ◆ALE(Apprication Launching & Embedding):WindowsアプリケーションをWebブラウザから起動したり,HTMLへ埋め込むことが可能(IEのActiveXコントロール,NetScape Navigatorのプラグイン,Java対応デバイス用のJavaアプレットでアクセス可能) ◆ロードバランシング:複数のMetaFrameサーバーをグループ化し(サーバーファーム),ユーザー(クライアント)からのアクセスを最適なサーバーに動的にルーティングして負荷分散を行い,アプリケーションのパフォーマンスとサーバーリソースの利用率の最適化を実現 ◆システム管理:単一ポイントからロードバランシングされたサーバーのパラメータの管理・設定が可能 ◆アプリケーション管理:単一ポイントから複数サーバーへのアプリケーション配布が可能,サーバー側から公開アプリケーションの設定が可能 ◆ユーザー管理:管理者からユーザーのセッションへのリモートアクセス,マウスやキーボードの制御が可能(Session Shadowing) 【デスクトップのシームレスな統合】 ◆ローカル/リモートの透過性:ローカルのシステムリソース(ディスクドライブ,プリンタ,ポート,オーディオ,Windowsのクリップボード)にアクセス可能.ローカルとリモートのアプリケーション間でのカット/コピー/ペーストが可能 |
以下,それぞれの機能の詳細を,開発元である米シトリックス・システムズ社の日本法人,シトリックス・システムズ・ジャパン(株)の塩原氏,小玉氏によるデモを通じて紹介します(システム構成は図1参照). |
<図1> デモのシステム構成 |
異機種コンピューティング環境の利用 |
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既存のネットワーク資産を生かせる広い適応性 Macintoshのデスクトップに開いた窓の中にNTのデスクトップが表示されている画面ほど,MetaFrameの特徴を良く表しているイメージはないでしょう(図2).そのNTのデスクトップにあるマイコンピュータのアイコンをダブルクリックすれば,何の抵抗もなくフォルダが開き,さらにその中のシステムアイコンを起動すれば,何とMacintoshからWTSやMetaFrameの各種設定ができてしまいます(管理者の権限で接続している場合). |
<図2> Macintoshから接続 |
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これはもちろんMacintoshに限った話ではなく,DOSマシンでもUNIXマシンでも,Windowsマシンでも同様です.MetaFrameのCD-ROMには,各種OS用のクライアントソフトウェアが含まれていますし,現在開発されている多くのWBTにはMetaFrameのクライアント機能が内蔵される予定です.また,POS端末やモバイル端末などにもクライアント機能を持たせることが可能だと言います. デモでは,CPUはi486-33MHzというかなり前の世代のDOSノートパソコン(図3)にNTのデスクトップが表示され,Word97が起動でき,日本語入力も可能なのですから驚きです.しかも,イーサネットで接続しているデモの環境では,そのレスポンスはまるで現在のWindowsマシンでのWord利用のようにキビキビとしていました. |
<図3> DOSから接続 |
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表1にあるような,さまざまな種類のパソコンをクライアントにでき,また,ネットワークの種類もプロトコルも,広い範囲をカバーしています.このような適応性の広さにより,一般的な企業のパソコン環境であれば,MetaFrameの導入で既存のパソコンをマルチユーザー環境のクライアントとして利用することができるでしょう. ! 1998年8月現在では,MacintoshとUNIXのクライアントソフトは英語版のみですが,接続前の表示などが英語であるだけで,サーバーのファイルリストの表示およびアプリケーションの実行には問題ありません. ! NECのWindows 95などに関しては,キーボード配列の違いを制御するパッチがWebなどから配布される予定とのことです. ● 狭い通信帯域でも効率的なICAプロトコル ここで,MetaFrameが使用しているICAプロトコルについて簡単に触れておきます. ICAは,正しくはCitrix ICA(Independent Computing Architecture)といい,シトリックスの開発した分散型プレゼンテーションサービスプロトコルです. アプリケーションの実行をすべてサーバー側で行うシンクライアント/サーバーシステムであるWTSの上で,アプリケーションのユーザーインターフェースの情報だけを切り出し,ネットワークを介してサーバーとクライアントの間でやりとりする役割を果たしています. 送信される情報は,キーストローク,マウスのクリック,画面の更新部分に関するもののみであり,そのため非常にコンパクトなデータとなっています.このICAストリームが最低限必要とする帯域は20Kbps以下ということです.マイクロソフトのRDPはTCP/IPしかサポートしていませんが,ICAは前述の通り,さまざまなプロトコルをサポートしています(図4). |
<図4> ICAはさまざまなプロトコルをサポート |
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デモでは,イーサネット(10Mbps)以外に,19.2Kbpsでシリアルポートに接続する無手順のセッションを行いました.Excelを使用したのですが,クライアントのキーボードで入力した数字がセルに表示されるレスポンスは,さすがにタイムラグが感じられました.しかし塩原氏によると,モデムでのダイヤルアップ接続の場合は,ハードウェアによる圧縮が効き,14.4kbpsでも実際の通信速度は今回のシリアル接続より高速になるため,体感的にも問題は生じないということでした.実際に,そのあたりりのパフォーマンスをチェックした上で,モバイルでの利用を前提としたMetaFrameの導入を進めているユーザーもいるということです. |
効率的マルチユーザー環境の 管理ツール |
● 公開アプリケーション サーバー上の特定アプリケーションのみを使用するようなユーザーのために,「公開アプリケーション」として設定しておくことができます(図5).WTSで設定する場合には,エントリを作成し,クライアント側に設定を行うのに対し,MetaFrameではサーバー側で設定を行うことができます. |
<図5> Excel97,Word97が公開アプリケーションとして設定されている |
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さらに,公開アプリケーションの実行環境を「サーバーファーム」として構成された複数のサーバー上に設定して,ロードバランシングを行うことができます(図6). |
<図6> アプリケーションに複数のサーバーを割り当てて,ロードバランシングを実現 |
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この設定により,ユーザーはサーバーを意識することなく,ダブルクリックするだけで立ち上げて使用できます. ● ロードバランシング MetaFrameの特徴として,マルチユーザー環境をより快適に利用し,コントロールする仕組みが充実していることが挙げられますが,特に着目すべきは,この「ロードバランシング」機能です.これは,同一のNTドメイン内に複数のMetaFrameサーバーがある場合,公開アプリケーションの実行環境を複数のサーバー上に設定し,クライアントの要求があった時点でサーバー間でそれぞれの負荷状況に対する情報を交換し,最も負荷の少ないサーバーに割り当てる機能です(図6). より具体的には,アプリケーションに対して設定された複数のMetaFrameサーバー(これを「サーバーファーム」と呼ぶ)の中の1台が「マスターブラウザ」となり,ほかのサーバーからの負荷状況の報告を受け,クライアントの接続要求を適切なサーバーに割り当てる仕組みになっています. ● ALE(Application Launching & Embedding) ALEは,クライアントのWebブラウザにより,Webページに記載されているサーバーのアプリケーションを起動したり,また,そのページに埋め込んで利用できる機能です. Webページでアプリケーションへのリンクをクリックするだけで,自動的にMetaFrameサーバーに接続し,そのアプリケーションを立ち上げます. 起動(Launching)ではWebブラウザとは別にアプリケーションのウインドウが開きますが,埋め込み(Embedding)では,そのWebページ内にアプリケーションのウインドウが埋め込まれた形で起動します(図7).その仕組みの種明かしをすると,HTMLから図8のような*.ICAファイル(テキストファイル)が呼び出され,ICAファイル内の情報からアプリケーションが起動するというものです.このようにWordやExcelなどのアプリケーションがそのままWebブラウザから実行できるというのは,イントラネットでのさまざまなアプリケーションの構築に役立つ機能と言えるでしょう. |
<図7> ブラウザに埋め込まれたExcel |
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<図8> ALEの仕組み (*.ICAファイルの内容) |
[WFClient] Version=2 TcpBrowserAddress=202.227.152.15 TcpBrowserAddress2=202.227.152.17 IpxBrowserAddress=0:00805F359CAE IpxBrowserAddress2=0:00805F353C60 NetBiosBrowserAddress=SERVER3 NetBiosBrowserAddress2=SERVER4 [ApplicationServers] [Excell97] |
●セッションシャドーイング(Session Shadowing) 「セッションシャドーイング」とは,あるユーザーのセッションを,そのまま管理者の画面に表示する機能であり,これによって両者が同一の画面を操作することができます(図9).例えばアプリケーションの操作をユーザーに教えるといった利用に向いているでしょう.なお,この機能を利用するには,管理者はWTSのコンソールでなく,MetaFrameのセッションに入っている必要があります(つまり,クライアントマシンからWTSへ管理者権限でログオンするという手順が必要). |
<図9> セッションシャドーイング |
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● クライアントの作成と自動更新 MetaFrameのクライアントソフトは,導入時にはフロッピーディスクかCD-ROMを使ってインストールします.このフロッピーディスクは,サーバーをセットアップし,管理者が公開アプリケーションなどを設定した後で作成しますが,サーバーの情報および公開アプリケーションの情報をすべて含んだ内容とすることができますので,クライアントソフトをインストールするだけですぐにサーバーを利用することができます. これだけであればWTSでも実現していますが,MetaFrameではさらに,インストール後に生じるクライアントソフトのアップデートに関しては,ネットワークを通じて自動的に更新できます.そのため,管理者はクライアントソフトのバージョンの混在を心配する必要がありません. |
デスクトップのシームレスな統合 |
● ローカルリソースの活用 これまでの説明でも触れていますが,MetaFrameのセッションでは,サーバーのリソースだけでなく,クライアントのローカルなリソースも利用できます.例えば,サーバーのWordで作成した文章を,クライアントのハードディスクに保存することなどが当たり前にできます. 通常ですと,WTSにログオンした状態では,サーバーのハードディスクがCドライブであり,クライアントのローカルのCドライブはVドライブなどにマッピングして使用します(図10).ドライブ文字に関しては,任意の再マッピングが可能ですので,例えばクライアントのハードディスクをCドライブ,サーバーのハードディスクをMドライブなどに割り当てて,ユーザーがローカルのアプリケーションを利用する場合でも,MetaFrameのセッションを行う場合でも,ファイルの所在などについて混乱しないようにすることもできます. |
<図10> クライアントのローカルドライブもマッピング |
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また,ディスクドライブ以外に,ローカルのCOMポートやプリンタもMetaFrameのセッションからアクセスできます.想定されるCOMポートの利用としては,例えば,POS端末でのバーコードリーダーや,ユーザー認証のためのカードリーダーのシステムなどだそうです.これらのローカルな入出力デバイスを利用することで,オフィスでのパソコン利用にとどまらない,さまざまな用途のマルチユーザー環境に有効なソリューションとなるでしょう. なお,ローカルのアプリケーションとサーバーのアプリケーション間で,Windowsのクリップボードを利用したカット&ペーストも可能になっています. |
終わりに |
以上,MetaFrameの機能と特徴を駆け足で見てきました.総じて言えば,WTSの機能を拡張して使い勝手を良くするアドオンシステムとして,さまざまな可能性を感じさせる製品だと言えるでしょう. もちろん,MetaFrameを業務に役立てるには,WTSに対応したマルチユーザー版のアプリケーションが必要です.ユーザーが独自のWTS対応システムを開発する場合(そういったケースは多いとは思うが)は別ですが,一般には各ベンダーのWTS対応を待つ必要があります.すでにマイクロソフトのOffice製品は,マルチユーザー対応を表明していますし,また,BackOfficeロゴ制度にもWTS対応が要件として組み込まれることが予定されています.今後,市販のパッケージにも,マルチユーザー版が続々と登場することを期待したいものです. |