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時代をさかのぼる
BackOffice

                                                                 By Barrie Sosinsky 

                                                                翻訳 伊東 修

 

マルチユーザーWindowsの
新世紀への道案内


 時の始まりから惑星の歴史をたどって進めるようなコンピュータの記事は好みではないだろうか.タンパク質が原始の水中から分化し,魚が泳ぐようになり,そして動物が現れ陸上をはうようになる…そう,そして恐竜が出てくるのだが.それから流れ星が降り,ちりが堆積して,今私たちはPC上でWindowsの走る企業にどっかり落ちついているのだ.これが進化というものなのだ!
 コンピュータがばかでかいスペースを取り,しかも動かすのに水力発電ほどの設備を必要としていたDOS以前の時代,博学者達は物知り気にコンピュータが50台もあれば世界中の需要を満たすと言っていた.今日は,Intelの前会長が,キリストの再臨までに私たちは10億台以上ものコンピュータを使うようになるだろう,と言うような時代なのだ.それでもやはり,ガラスで囲まれた部屋の中の一角に集められた数少ない旧型のコンピュータが完全に消えてしまうことはあり得ない.
 まもなくMicrosoft社はWindows NT Server,Terminal Server Edition(以下WTS)をリリースし,非常にシンプルな構成の端末機を使うマルチユーザーのバックオフィスのサーバー環境を提供する.この製品はWinFrameの開発元であるCitrix社との共同作業に由来している.MicrosoftはこのWindows NTマルチユーザーOSをWin32クライアントのサポートとともに開発,販売しようとしている.Citrix側はICAプロトコルを介して,それ以外のクライアントのサポートとロードバランスを付け加え,MetaFrameと呼ばれるアドオン製品として発売する予定である.

 IT\IS Labでは,Data General社の"TermServer in a Box"を使ってそれぞれのベータ2バージョンを試した.このDG社のシステムは,WTSを走らせる4台のデュアルプロセッサアプリケーションサーバーと,Windows NT Server/Enterprise EditionとMSCSを走らせる2台のシングルプロセッサストレージサーバーで構成されている.拡張を見越して,MSCS上のストレージにはCLARiion RAIDサブシステムを使用していた.このシステムはすべて高さ73インチのラックに収まっている.
 装置として見ると,ホスト/端末型ソリューションを真剣に実装しようと考えている者にとって,このようなパッケージの存在は,非常に有意義である.
 キーボードのRemote Desktop Protocol(RDP)の最適化はMicrosoftが進めている最中なので,我々はこの製品の試用を機能的なものに制限した(図1図2).RDPは多チャンネル設定ではInternational Telecommunications UnionのT.120プロトコルに基づいており,また将来のWTSの方向付けに大きな影響を持つNetmeetingにも用いられている.現在のWTSコードが製品化されればすぐにでも,IT\IS Labはその性能と信頼性を試すつもりだ.

<図1> Terminal Server Administration
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 WTSの走るどのサーバーからでも,Terminal Server Administrationユーティリティは,TSEオプションの走るすべてのシステム−ITISドメインのノードBlackとWhite−の識別ができる.ノードの下をドリルダウンすると,接続されているそれぞれのクライアントとそのプロトコルが識別できる.ここではKoalaがRDPで接続されている.

<図2> ユーザー環境の設定
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 WTSの管理の中心はユーザー環境の設定である.IT\IS LabではDG Termserver in a Boxを走らせ,TSEノードBlackとWhiteのそれぞれの環境設定を,ZENと名付けたMSCSクラスタサーバーに属させた.

 

古いものすべてが新しく生まれ変わる
 いまだにメインフレームとミニコンピュータが幅を利かせ,また実際にそれらが適している場所は多い.
 ホスト/端末型ソリューションは,組織がアクセスやユーザーの権利を制限する必要がある時や,ユーザーに標準サービスやアプリケーションを提供する時,また少ないスタッフとより低コストでサポートされたりしている時に有意義である.だが,WTSが目指すのは,テキストベースの3270端末とメインフレームではなく,UNIX上のX-Window時代である.
 その理由はWindowsでのグラフィック環境にある.古い端末の環境は文字が重視され,ホストと端末の間のトラフィックが少ないのが特徴であった.WTSの環境では,すべてのグラフィック画面出力と,それに関連するマウスやキーボードの入出力は,デスクトップのクライアントとWindows NTのサーバーの間を行き来しなければならない.その結果,高度なグラフィックを持つアプリケーションや動きの多いアプリケーションでは,大量の情報がクライアントとサーバーの間を行き交うことになる.
 RDPを用いるには,クライアントはディスプレイ,キーボード,そしてマウスにおいてそれぞれ別々のドライバを読み込まなければならない.マウスとキーボードのドライバは「マルチプルインスタンススタックマネージャ」を通してスタックの中でやりとりする.これらのドライバによってリモートのRDPクライアントの活動がどちらも可能になり,またインターラクティブになるのだ.
 WTSでは,すべてのプロセスはサーバー側で行われる.そのアプリケーションに関してはクライアントにはローカルなプロセスは全くない.サーバーはアプリケーションのGUIのプレゼンテーションだけをクライアントに伝える.これにより,機能の制限されたWindows CEデバイスから十分な機能を持つコンピュータまで,幅広い範囲のクライアントがWTSのサーバーに接続できるようになるのだ.このテクノロジが設計通りに機能すれば,ネットワーク上でも自分自身のコンピュータを使っているのと非常に近い感じで作業することができる.
 このWTS(NT ServerのTerminal Server版という位置付けである)のインストールは,NT Serverの標準版のインストールと大して違いはない.ただ,WTSは通常PDCやBDCとしてではなく,スタンドアロンサーバーとしてインストールすべきであると知っておくことは重要だ.こうしてサーバー本来のパフォーマンスと信頼性を損なうことを避けているのだ.
 インストールの手順と同様に,インストーラも同じに見える.super-thinクライアントであるWindows Terminal [訳注:WTSおよびMetaFrameのクライアントを指す.以下WinTerm]にソフトウェアをインストールした時には,どのクライアントのソフトウェアもサーバー側にインストールされているのだ.WinTermクライアントは,ネットワークに接続されるとDHCPアドレスを得るために情報を流し,そして自分のソフトウェアを見つけだす.あるいは,TCP/IPアドレスを手動で入力することも可能である.加えて,WTSもまたWindows CE 2.0 クライアントをサポートしている.そのため今後数ヵ月のうちに,ワイヤレスのWindowsタブレットを含む,手に乗る大きさのモバイルユニットが登場するであろうことが予測できる.
 当然のことだが,WTSの管理とは,ユーザープロファイルの機能に関するものがほとんどである.各ユーザーのアカウントは,定義されたプログラムのアイテム,画面の色,ネットワーク接続,マウスのセッティング,ユーザー環境,そしてホームディレクトリなどについて,ローカルなプロファイルも,ローミングも,強制的なプロファイルもサポートする.
 このようなすべてのクライアント情報を踏まえて,WTSのマルチユーザーコアに存在するドメインユーザーマネージャは改良されている.ユーザーによるファイルやディレクトリのバックアップ,ログインの時間,そしてそのほかの活動の権利を認めるかなどの,ユーザーの権利には注意を払わなければならない.これらの情報のほとんどはグループアカウントを利用して標準化するのが良いだろう.
仮想化
 この,WTSの革新的なポイントは,多数のユーザーに対し,共通のシステムの中の同じアプリケーションへのアクセスを提供するということだ.この環境にあるユーザーはCPU,メモリ,ディスクなどのハードウェアや,レジストリのセッティング,設定ファイル,DLL(Dynamic Link Library)などのソフトウェアリソースを共有できなければならない.
 もし2人のユーザーが同じアプリケーションを使ったら,そのアプリケーションの2つのコピーが同一システム上でスタートし,それぞれの異なるユーザー環境下で操作されることとなる.しかし,ユーザーはそれぞれ異なったWindows OSを使用しているというわけではない.核となるコンポーネントのうちのいくつかはクローンとして生成されるが,サービスとデバイスドライバを含む多くのコンポーネントはユーザー間で共有されている.さらに,これらすべてはOSによって勝手に操作されているようなものなのである.
 TERMSRV.EXEというプログラムはコントロールプロセスで,マネジメントの開始と,ユーザーセッションのターミネート,そしてイベントの通知を行っている.この作業はすべて独立したプロトコルで,Microsoft のRDPとCitrix のICAのいずれとも整合を可能としている.
 Windows NT オブジェクトマネージャは改良が加えられ,新たにマルチユーザーオブジェクトマネージャと名付けられた.このオブジェクトマネージャはソフトウェアオブジェクトについて統一的な記憶法,ネーミング,セキュリティのセットなどの規則を提供しており,さらにアクセスコントロールインフォメーションとオブジェクトのポインタから成るオブジェクトハンドルを作っている.このマルチユーザーオブジェクトマネージャはスレッドやセマフォ,プロセスやそのほかもろもろのシステムオブジェクトを実現している.このオブジェクトの名前には重複しない識別番号(セッションID)が付け加えられて,そのオブジェクトを生み出しているセッションと関係付けられている.
 この仮想メモリマネージャもまたいろいろと改良された.仮想メモリマネージャの機能はプロセスで使われるメモリ内の物理ページへの仮想アドレスをマッピングすることである.WTSでは,仮想メモリマネージャは分離プロセスも提供する.あるプロセスに属するスレッドはほかのプロセスのメモリにアクセスすることができないということを確実にしている.同時に,この仮想メモリマネージャは各セッションが同じWindows NT カーネルの仮想アドレスを共有することを可能としているが,これは同じ物理アドレス空間ではない.すなわち,そのシステムは仮想化されていないといけない,ということだ.このために,WTSはSecessionSpaceと呼ばれる新たな仮想アドレス空間を作りだした.
 SecessionSpaceでは,各ユーザーのセッションカーネル固有の仮想メモリは,同じセッションIDを共有するすべてのプロセスの同じオブジェクトと物理ページのセットとして位置付けられている.異なったセッションIDを持つプロセスが,システムオブジェクトに対し同じ仮想アドレスを指し示した時は,この仮想メモリマネージャが分離し,マッピングされたオブジェクトとメモリの物理ページを指示するようになっている.
 WTSを効率的にしているのは,管理されたコードの共有である.あるアプリケーションが起動するときには,読み込みとスタートの時間がかかる.次のクライアントがWTS下で同じアプリケーションにアクセスしたとき,マルチユーザーカーネルは,ただ単に既に開いているアプリケーションを示すようにセットアップする.それにより,スタートアップ時間を大幅に短縮し,クライアントのプロセスが可能な限り多くのコードを共有することができるのだ.メモリページの変更が必要なときだけ,WTSは別のコピーを作る.
スタックプロトコル
 WTSの初回リリースでは,RDPはWindows 32ビットのクライアントを用いたシングルセッションのpoint-to-point接続のみをサポートするであろう.これはすなわち,RDPを用いた場合には,WTSに接続することができるのは,WinTermデバイスと,Windows NT,95,98のPCであるということを意味している.さらに,RDPはトランスポートプロトコルとしてTCP/IPしかサポートしない.それでもなお,RDPのアーキテクチャによって,多くの異なったLANプロトコルとネットワークトポロジ上での64,000チャンネルのサポートのマルチポイントデリバリが可能となる.
 これに対し,Citrix社のMetaFrameの重要なポイントは,同社のICA(Independent Computing Architecture)プロトコルである.ICAはサーバー上でのアプリケーションロジックの実行をクライアントのユーザーインターフェース作成と分離した,分散型プレゼンテーションサービスであり,サーバー上で実行される.ネットワークでのICAの流れは入力としてのキーストロークとマウスの動きをキャッチし,クライアントの画面に必要なグラフィック情報を返す.アプリケーションがWTSやMetaFrameアーキテクチャに対して適切に書かれていれば,アップデートが必要な時や更新された画面の一部だけが送られる.
 TCP/IP,IPX/SPX,NetBEUI,そしてPPPを含む一般的なトランスポートプロトコルのすべては,ICAによってサポートされている.伝達は,非同期,ISDN,フレームリレー,そしてATMのネットワークコネクション上で可能である.ICAに関する大切なポイントは,ICAは回線の細いネットワークトラフィックに対して最適化されているということだ.MetaFrameは28.8Kbpsのダイヤルアップモデムのような遅いネットワークコネクションを用いても動作する.このことが本来Citrixのマルチユーザーの製品であるWinFrameが,WANとリモートアクセスの環境において有用なアプリケーションであると見出された理由である.
 WTSとMetaFrameは,それぞれ独自のクライアントソフトウェアを持っており,それらはそれぞれ異なるOSでクライアントのメモリに読み込まれる(図3).例えば,WTSのWin32 クライアントはそれ自体の大きさは130KBで,動作するのに300KBのメモリを使い,また,データを表示するのに約100KBを使う.ログオンした後,RDPはTCPポート3389を介して情報を伝達する.サーバーとクライアントは動作フォントセットと「低」「標準」「高」の3段階の暗号化のサポートを調整する.セッションが始められるようになり,活動が始まり,そしてクライアントの接続が切れた後までもアプリケーションの実行が継続できる(図4)[訳注:一度接続を切っても,あとで再接続した際に情報を保持している].このことによって,WTSはこれから進んでいくエンジニアリングシミュレーションやリアルタイムの経済的モデルにおける,「オンデマンド」にアクセスするという,コンピューティングの理想モデルとなっている.

<図3>MetaFrameのウィザード
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 WTSに付いてくるMetaFrameのウィザードを使えば,システム管理上,クライアントの相互のやりとりを単純化することができる.

<図4>仮想デスクトップウインドウ
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 WTSが走るサーバーにログオンすると,仮想デスクトップウインドウが現れる.スタートボタンの項目が全く異なる."Shutdown"が"Logoff"に置き換わっているが,これを選ぶとサーバー上のプロセスを終了する."Disconnect"を選ぶと,サーバー上のプロセスを起動したままにしておける.

 

pICAssoの効果
● 非Windowsも含むクライアントのサポート
 もともとpICAssoというコードネームであったMetaFrameは,WTSの導入を考えている多くのサイトにとって興味深いはずである.それらのサイトにとって,MetaFrameは劇的にWTSがサポートできるクライアントの種類を拡大する.MetaFrameによって,DOS,MacOS,OS/2Warp,そしてSolaris,HP-UX,SGI IRIX,AIX,Digital UNIXという5種類のUNIXが動くシステムのどれもがクライアントとなり得る.加えて,MetaFrameは多くのJAVAベースのネットワークコンピュータ(NC)をもサポートしている.
● 複数サーバーへのバランシング
 MetaFrameはWTSとWinFrameのような異種のサーバーが混在していても自動的にバランスをとってほかのWTSシステムに要求を負担させることができる.もしサーバーのどれかがダウンしていたり混み過ぎていたり,または接続が切れたときには,MetaFrameはその接続をほかの有効なサーバーに移す.MetaFrameは,ページファイルの使われ方,スワップの状態,プロセッサの使われ方,メモリの負担量,動いているセッションの数などのパラメータによって,負荷のバランスを取ることができる.
● Webブラウザ上でWindowsアプリケーションを動かす
 MetaFrameにおける興味深い機能は,WebへのApplication Launching and Embedding (ALE)だ(図5).ALEはユーザーがWebのページからWindowsのアプリケーションを動かすことができるメカニズムを提供する.ALEウィザードはこの手法に従って自動的にアプリケーションの動作に必要なコードを生み出すのだ.こうなると,ユーザーはInternet ExplorerやNetscape NavigatorのプラグインでのActiveXのコントロールによって,これらのアプリケーションを動かせるようになる.

<図5>Webページからの操作も可能
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 Citrix MetaFrameのWTSアドオンは,HTMLベースのWebページからMetaFrameの載ったTerminal Server上のアプリケーションを起動するためのウィザードを提供している.
 
 ALEによって,サイトがWTSとMetaFrameをWebサーバーの背後のアプリケーションサーバーとして利用することも可能となっている.Webサーバーはそのページ上にアプリケーションの起動オブジェクトをセットしてページをアップロードすればよい.そうすれば,MetaFrameはアプリケーションを動かし,TCP/IPネットワーク接続での結果を伝えるのだ.
● ローカルデバイスのサポート
 ディスクやプリンタ,シリアルデバイスにアクセスすることが必要なクライアントは,それらをMetaFrameを使って配置することができ,それによってネットワークのドライブはユーザーのハードドライブにローカルに接続することとなる.プリンタがそのように配置されれば,サーバーにローカルに接続しているプリンタでもクライアントはアクセスできる.COMポートも同様に配置できるので,クライアント側のデバイスについているCOMポートはサーバーにローカルに接続されているかのような働きができる.
マルチwin-winへのシナリオ  
 明らかに,マルチユーザーWindowsソリューションは現在とてもホットな技術である.MicrosoftはCitrixにNTのOSコードをライセンスしたが,ほかのすべてのベンダーに対し,既に出ているWindows APIを使って独自のマルチユーザーthin-clientソリューションを開発することを止めさせることはできない.実際,WTSと競合するソリューションを既に発売しているか,まもなく発売しようとしている会社がいくつかある.
 最も直接的な競合はTekCentric社によるものかもしれない.TekCentricのWinCentricシステムは標準のWindows NT Server 4.0上で動き,Windows NT,Windows 95,Windows 3.x,MS-DOS,非JavaベースのNCに接続している.クライアントはInternet ExplorerやNetscape Navigatorを介してWinCentricにアクセスすることも可能だし,さらに興味深いことに,TekCentricはWindowsマシンでUNIXアプリケーションを動かせるようになるためにこのWinCentricのUNIX版も計画しているというのだ.
 WinCentricの特徴は,サーバーのCPUは200MHzで,RAMは64MBと,クライアントごとに8〜12MBを必要とすることだ.WinCentricはリモートプレゼンテーションプロトコル(RPP)と呼ばれる独自のネットワークプロトコルを使っている.TekCentricによると,RPPはX.11プロトコルに似ているが,使うバンド幅はより少ないそうである.このプロトコルはTCP/IP,NetBEUI,IPCをトランスポートとしてサポートしている.
 そのほかのベンダーとしてはNew Moon Software社が,LiftOffと呼ばれるNT 4マルチユーザーソリューションを開発している.LiftOffはWindows 95の動作する,より強力なクライアントを必要とする.しかしLiftOffにはWTSやWinCentricよりも信頼できる効果がある.なぜなら必要となるネットワークトラフィックの量が少ないからだ.LiftOffのスケーラブル性を強調するために,NewMoonはWTS上で動く企業向けアプリケーションサーバーも開発中である.このプロジェクトのコードネームはOrange Crushといい,明らかにライバルであるフロリダのCitrixを意識したものである.
運用におけるトータルコストの試算  
 WinTermのようなWindows端末マシンを使う主な理由の1つは,この端末マシンの設置や運用のコストが,運用期間を通して考えると,比較的少ないことである.Gartner Group,Intelliquest,IDC,ZONA Researchなどを含むいくつかの調査機関は,予想される稼働期間にWindows端末を使用した場合の総費用を調べ,それをネットワーク化されたPCの場合と比較した.
 表面上,この比較は簡単そうに見える.ユーザーはハードウェアやソフトウェアのコストを調べ,同じユーザーインターフェースとOSのカーネルを共有するネットワーク化された2つのコンピュータのセットを比較すればよい.そしてこの時,コンピュータ1台当たりのトレーニングとサポートにかかるコストはほぼ同じと見なされる.
 この観点に基づいて,1996年にZONA Researchが行った比較では,5年間の運用を考えた場合,WinFrame 1.6サーバーに15台のWyseのWinTermという端末をつなげたネットワークは, Windows NT Serverに15台のGatewayのPentiumワークステーションをつなげたものより57%も安かった.この5年間の,WinFrameソリューションへのトータルコストは94,368ドルであり,一方PCベースのNTソリューションへのコストは217,663ドルとなるので,123,295ドルもの価格差がある.今日使われているモデルは違うとしても,計算されたすべての費用や節約可能なパーセンテージはほとんど同じであろう.
 また,このWindows端末のTCO調査の推定額に基づき,さらに次のような分析がされている.その分析の観点とは,ネットワーク管理におけるコスト節減だ.Windows端末によって5年間で生じるコストの差額は15台のネットワーク管理で73,426ドルだった.着目すべき点は,シングルネットワーク管理ではネットワーク化されたPCは40台までしか管理できないこと,またそれに比べ,Wyse WinTermでは162台までサポートされていることだ.中レベルのネットワーク管理者に対する費用は1996年で,年間52,000ドルになると推定された.これらの調査結果は各業種における大規模な聞き取り調査に基づいている.
 ZONA Research社のこの調査と推定は,ほかにもいくつか興味深い疑問を提起した.ほかの鍵となる発見は,WinFrameソリューションはネットワーク化されたPCとNT Serverを手に入れるよりも43%も安く手に入れることができることである.Windows Terminalの魅力の1つは,現在では伝説となっているようなマシン上でも動かすことができることだ.例えば,286シリーズ,386シリーズ,486シリーズ,Macintosh,X端末などだ.ということは,あなたが自分がいる組織の中でWindows Terminalを導入するのにほとんど費用はかからないだろう.
 実際,多くの組織において,そこにあるデスクトップマシンをさらに2〜3年,あるいはそれ以上長持ちさせるための方法としてWindows端末ソリューションに注目しているのだ(図6).いまや会社のドア止めにしかなっていない1989年にDOSを動かしていたあのポンコツマシンも,十分に完璧なWindows端末となり得るのだから.

<図6> ベンチマークの結果
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 IT\IS LabのCPUベンチマークを,166MHzのP5ベースCPUのラップトップマシン上のTerminal Serverのウインドウで実行すると,200MHzのP6ベースCPU並みのパフォーマンスが出ているという結果が返された.

 Gartner GroupのTCO調査はこの分野では有意義なベンチマークとされている.この会社はPCのコストは導入・維持に毎年15%余分にかかると推定しているが,それは主に,ユーザーが自分のデスクトップPCの限界を押し広げるためにはより多くのメモリ,ディスク容量,そのほかの拡張が必要だからだ.この提示された問題点は,Windows端末モデルというリソースをもってしても,ただサーバーの側に移動するだけで消えるわけではないので,なかなか受け入れがたいものではある.Gartner社の影響があるOEMとVARクライアントを含む多くの産業は,デスクトップマシンを配置するのに会社では5,000〜15,000ドルの費用がかかるというGartner社の結論を無視している.
 Gartner社は最近このモデルを再構築した.この新しいプロジェクトはTCO Analystと呼ばれ,企業内での異なるコンピュータ配置のミックスとしてよりよいモデルと思われるものである.この新モデルではビジネスリスクと呼ばれるファクターを加え,コンピュータがダウンする時間のコスト算定をしている.Gartner社の最近の中間報告では,このモデルに基づいたプログラムを扱っている.Gartner社のモデルはSunのNCモデルやMicrosoftのZero Administration for Windows Initiative(ZAW),そしてIntelのWired for Management standardsをベースとして得られており,結果は興味深く見守られることとなるだろう.
 現実には,ホスト/端末型ソリューションを実行するときに節約可能な労力やコストは,統計的な分析などとは無関係である.タスクベースの働き手を生産ライン環境に配備したり,POS端末や予約端末などの基幹業務アプリケーションを使用させれば,節約できる費用は計算できるし,かかるコストは,特に管理費において安く抑えられるはずである.もちろん,現在Windowsの環境に変えたいと思っている,いわゆる「グリーン画面」端末ユーザーもこの類に入る.
 Microsoft Officeなどのように特定のアプリケーションといった狭い範囲にアクセスする必要がある,優秀な働き手(ナレッジワーカー)にとってもWindows端末は意味をなすはずだ.ネットワークユーザーはサーバーで作業をしている限り端末のハングアップによる時間の無駄を避けることができるのだ.
 それでもやはり,自分の属している組織がコンテンツを作ったり,変化するものを追い続けたり,新たなビジネスの機会を狙ったりするのにコンピュータを使うという状況においては,働き手を狭く,限定されたコンピュータ環境に置くことは,ビジネスの機会を逸したり,彼らの反感を買ったりするに違いない.TCOモデルではこれらの失ったビジネスチャンスを取り戻すことは全くできない.つまりこのような場合には,TCOモデルは役立たずなのだ.

 

Point

● WTSの環境では,すべてのグラフィック画面出力と,それに関連するマウスやキーボードの入出力は,デスクトップのクライアントとWindows NTのサーバーの間を行き来しなければならない.
● サーバー本来のパフォーマンスと信頼性を損なうことを避けるために,WTSは通常PDCやBDCとしてではなく,スタンドアロンサーバーとしてインストールされるべきである.
● MetaFrameはWTSがサポートできるクライアントの種類を劇的に拡大する.DOS,MacOS,OS/2 Warp,そして5種類の異なるUNIXが動くシステムのどれもがクライアントとなり得る.

 

出典 BackOffice Magazine June 1998, pp.23-29.
(c)1998 BACKOFFICE MAGAZINE by PennWell Publishing Company.