2005年3月25日〜9月25日にわたり,開催されている「愛知万博(正式名称は「2005年日本国際博覧会」,愛称は「愛・地球博」)」を取材してきました.パビリオンや展示がかなり多く,とても取材しきれてはいないのですが,個人的な思いをまとめたいと思います.
●愛・地球博のどこがすごいのか?
1.実証実験の場としての意義
日ごろ,最新技術情報を入手し,報道している立場から見ると,「万博で初めて発表される新技術」というのはあまりありません.むしろ,少し前に開発された技術の実証実験の場であったり,一般来場者がその技術を体験できる場が用意されたり,といった点で意味がある,と言えると思います.
2.インターネットの活用
また,万博の主催者や出展者が,インターネットをよく活用しているのも特徴だと思います.万博の公式Webサイトに不満がないわけではないのですが(メニューを伝っていっても見つけにくいものがある.まぁ検索欄があるので,最低ラインはクリアしていると言える),携帯電話と連携した来場者誘導システム「サポートナビ」は,それなりに便利です.そのほか,各パビリオンなどでもらった資料や紹介ページからURLをたどっていくと,こんなところまでつながっているのか! と思うような各種の情報が閲覧できます(詳しくは,下記の「おもしろ関連URL」の項を参照).
3.スムーズな観覧のためのしくみ (いっそうの努力を期待しますが…)
ディズニーリゾートなどのアミューズメント・パークにならったと思われる,当日予約システム(予約端末にミューチップ内蔵入場券をかざせば,当日のパビリオン観覧が予約でき,指定された時刻に,並ばずに入場できる.ディズニーリゾートの「ファスト・パス」に相当するシステム?)なども意欲的な試みだと思います.
ただ,人気のパビリオンでは,当日予約も早々にいっぱいになってしまうようなので,十分に機能しているとは言えないかもしれません.インターネットから受け付けている事前予約は入場数のうちごく一部だとか(あるパビリオンで聞いたら「1割」とのことだった).整理券を配布しているパビリオンもありますが,整理券をもらうのも長蛇の列になってしまい,わたしのような「行列嫌い」の人間は,列を見ただけでうんざりしてしまいます.
インターネットの事前予約は「予約したけれど行かない」,「いつ行ってもいいように複数日程で予約しておこう」などと考える来場者も少なくないでしょう.予約を受け付ける側からすると頭の痛い問題かもしれません.でも,完全事前予約制のイベントについて「官製はがきで申し込んでください」と言われると,この時代にいったい何なの? と思ってしまいます.確かに,はがきで申し込んだ人がキャンセルする確率は低いのでしょうが….わざわざ不便なしくみにして,確実性を取っているようです.
ただ,来場者が一部のパビリオンに集中することによって起こる問題については,一概に「万博の主催者のせいだ」とは言えないかもしれません.特定のパビリオン(マンモス,トヨタグループ館,サツキとメイの家など)に人気が集中するのは,各メディアがそれらのパビリオンばかりを「見どころ」として紹介しているせいかもしれませんし,「みんなが騒いでいるアレを一目見てこよう」という大衆心理は,いかんともしがたいものかもしれません.
せめて各パビリオンが,なるべく行列せずにすむように誘導や展示のしかたをくふうしてくれれば… と思います.「行列が人を呼ぶ」と考えたパビリオンももしかするとあるかもしれませんが,行列嫌いのわたしとしては,そういうことはやめていただけるようにお願いいたします.
●弁当やペットボトル,マニュアル対応について
愛知万博は,「食中毒対策」,「安全対策(テロ対策)」などの名目で,弁当やペットボトルの持ち込みを禁止しています.その後,小泉首相の指示により弁当持ち込み制限は緩和されました.「衛生面が理由の禁止」だったはずなのに,首相が指示すればすぐ変更になる,というのはおかしな感じがします.でも今回の変更は来場者(わたしを含め)に有利な変更だったので,ここであまりとやかく言うのはやめましょう(笑).
ペットボトルは「安全対策」が理由で禁止されていますが,水筒ならOK,というのはいかがでしょうか.わざわざ水筒を用意して危険物を詰めるテロリストはいない――ということでしょうか.このあたりを納得いくように説明してもらっていないので,来場者の不満が消えないのだと思います.
いっそ,「環境保護のために,使い捨てになるペットボトルは持ち込み禁止,内部で販売もしません」とうたったらよかったのではないかと思います.名古屋の夏は干上がりそうなので,持参した水筒を飲み尽くしてしまった人がどうやって水分を供給するかは問題ですが….いっそ,無料の給水器や給茶器をサービスとして備える,というのはどうでしょう? もちろん使い捨てカップはなく,カップを持参するか,すぐ横で販売しているモリゾー&キッコロ柄のカップ(みやげにもなる)を購入して利用するようにするのです.
万博のスタッフが「マニュアルどおりの対応しかできない(臨機応変に,来場者の便宜をはからってくれない)」という批判を耳にします.わたしが会場で出会ったスタッフにも,そういう印象がありました.けれど,大規模なイベントで,半年間限定の,にわか仕込みのスタッフですから,ある程度はしかたないと思います.ディズニーリゾート並みのサービスを求めるのは酷というものでしょう.
そうそう,万博取材の数日後に行ったディズニーリゾートのスタッフのすごさには頭が下がりました.清掃スタッフでさえ,最寄りのトイレの位置やアトラクションへの行きかたなどを把握しているのですから….
●愛・地球博に行きますか?
入場料は4,600円(18歳以上65歳未満,当日券).アミューズメント・パーク並みです.それで行列に並んだあげく,パビリオンがつまらなかったりすると最悪ですね.ディズニーリゾートのように,ある程度定評があり,口コミをしっかりチェックできる環境があれば,それほどむだ足を踏むことはないかもしれません.
でも,わたしのような「行列嫌い」,「付和雷同嫌い(ひねくれ者とも言う)」の人間がのんびり楽しむには,万博会場は広すぎます.そうすると「1日で4,600円」は高すぎます.希望を言えば,1日で1,000円,1週間で5,000円,くらいの価格帯にしていただいて,滞在型パークとしてのんびり見て回れたほうが嬉しいです.
今回は,取材(しごと)として愛知万博に行くことができ,それなりに有意義な時間を過ごしてきましたが,プライベートではたぶん行かなかったでしょう.東京から名古屋までの往復交通費もばかになりませんし,土日を避けようとすると休暇を取らなければなりません.そこまでして「どうしても見たい」というものがあったわけではありませんから.
情報が氾濫している今,わたしにとって「どうしても行きたい」という場所は,イベント会場ではありえません.例えば,中国に行って万里の長城を見たり,スペインに行って聖家族教会を見たいとは思いますが,東武ワールドスクエアではないのです.でも,これは愛知万博が悪いのではなく,ただわたしの嗜好によるものです.
もしわたしが名古屋在住だったら,もしかすると見に行ったかもしれません.近場の人にはお勧めします.良い話のタネになると思います.
●見どころはどのパビリオン?
朝日新聞に掲載されていた読者モニター3387人のアンケート結果によると,愛知万博に行く(行った)人は37%.そのうち,見たいパビリオンのTop 5は「トヨタグループ館(57%)」,「グローバル・ハウス(マンモス)(56%)」,「長久手日本館(38%)」,「リニモ(29%)」,「サツキとメイの家(28%)」でした.このうちわたしが見た(というか体験した)のは「リニモ」だけです.
リニモは,格別何と言うこともありませんでした.敢えて言えば,東京の臨海部にある「ゆりかもめ」に似ているな…というくらいの感想です.何が似ているかと言うと,「高架で走る」,「駅が屋根と透明な壁で覆われており,線路への転落がない」,「全体的にひっそりと走る印象がある」などです.
始発の藤が丘駅を発車するときに浮上(8mm)するそうなのですが,よく気をつけていても浮上した感覚はつかめませんでした.また,各駅を発車したり加速するたびに「ぐいっ」とひっぱられるような加速感があり,ちょっと違和感を感じました.
じゃ,何がお勧めなの? と聞かれると,「個々人で感想は違うと思いますが…」という前置きを置いたうえで,わたしのお勧めをいくつか紹介したいと思います.
瀬戸日本館は,瀬戸会場のいちばん奥にあります.ここのシアターでは,ことば(大勢によるセリフの朗読)と身振りで構成される,迫力ある舞台が繰り広げられます.宮沢賢治やわらべうた,日本文化などに関心のある人にはぜひお勧めします.
作・演出・音楽・美術を担当したJ.A.シーザー氏は,寺山修司が主催していた劇団「演劇実験室●天井桟敷」で活躍した人です.テレビ・アニメ「少女革命ウテナ」の挿入歌「絶対運命黙示録」を作った人でもあります(余談ですがこの歌,めちゃめちゃインパクトが強くてくせになります!).
瀬戸会場は長久手会場と離れていますが,会場間の無料ゴンドラ(モリゾー・ゴンドラ)で移動すればたったの8分です.これを見るためだけでも,瀬戸会場に行く価値はあると思います.
※ただ,この館の誘導のしかたは気に入りませんでした.イメージ映像のような「プロローグ」を見せるためにも会場を閉め切り,「あと7分ほどで開始します」,「まもなく開始します」といちいちうるさかったです.おまけに,並ばされて疲れているのに「混雑しますので立ってご覧ください」と強要されるし….プロローグは出入り自由にして,メイン・シアターだけ一斉に誘導すればいいのに! と強く思いました.少しでも楽に観られるようにして,来場者のよけいなストレスを無くすように努力してほしいものです.
最高時速581km/hを記録した超電導リニアモータカーを体感できる3Dシアターがあります.きれいな立体映像と映画音楽のような音響の迫力で,わくわくする映像を楽しめます.収容人数が多いので,それほど待たずに入れるのも魅力です.
No.3 日立グループ館(長久手会場・企業パビリオンゾーンB)
このパビリオンは混んでいましたが,一つくらいは行列して入ってもいいかも?(事前予約できればそれに越したことはありません).入場券(ミューチップ内蔵)とうまく連携させたシステムも,万博らしい「新しい技術」を感じさせます(非接触ICカード技術そのものは,もうSuicaだの何だので実運用されていますが).
このパビリオンの目玉は,ジオラマと仮想現実を組み合わせたMR(Mixed Reality)技術です.乗り物に乗って,備え付けられた双眼鏡(アドベンチャー・スコープ)で前方を覗くと,ジオラマに仮想現実の映像を重ね合わせた景色を眺めることになります.手のひらに装着したハンド・センサが仮想現実の世界に干渉できる(フクロウを手に止まらせたり,サルにバナナを投げたりできる)のも楽しいです.
No.4 中部千年共生村(長久手会場・日本ゾーン)
ちょうど空いている時間帯に入れたので,ゆったり見学できて満足度も高かったです.一つ目の巨人をイメージしたロボット「サイクロプス」や,水のドームの中に入れる「ミズノバ」,千年の時を刻める「千年時計」などがあります.そのほか,サッカーが得意な2足歩行ロボット「ながら-3」なども展示されています.ローカル色豊かなところが,このパビリオンの魅力だと思います.
番外編―ゆったり楽しみたい人に:里のツアー(瀬戸会場・里山遊歩ゾーン),森のツアー(長久手会場・森林体感ゾーン)
万博会場内には,たくさんの緑(里山や森そのもの)が残してあります.これらの中を,案内人(インタープリタ)といっしょに歩くツアーが実施されています.ただし,里のツアーで75分コース,森のツアーで50分コースなど,わりと時間がかかるので,そのつもりで余裕を持っていないとなかなか参加しにくいですね(わたしは参加を諦めました).
まぁ,かつては生活圏のすぐそばにあったような里山や森ですから,わざわざ入場料を払って入った万博会場で散策するのに違和感を感じる人もいるとは思いますが….
番外編―自由研究に:外国館スタンプ・ラリー(グローバル・コモン1〜6)
長久手会場にある諸外国のパビリオン(地域別にグローバル・コモンになっている)では,出口付近にスタンプを用意しています.例えば,あらかじめ白地図になっている世界地図を作って持って行き,オリジナル・スタンプ・ラリーをやってみるのも楽しいと思います.小中学生の自由研究にいかがでしょうか.
外国館は120もあるので,1日では回りきれないでしょうが,興味のある地域や国を絞って,文化に触れてくるのも一興かと思います.
●おもしろ関連URL
各パビリオンのURLには,愛知万博の公式Webサイトの各パビリオン紹介のページから飛ぶことができます.ここには,それ以外で「こんなWebサイトがあったのか!」と思ったものを紹介します.
万博会場に施されている環境への配慮や,万博会場内のアメダス(万博アメダス)から取得したデータの参照などが可能です.Flashを多用していますが,イヤミがなく好感の持てるページです.
万博会場内のあちこちに利用されている産業技術研究所の開発成果をまとめて紹介しているWebサイトです.
市民記者がレポートする,個人個人から見た「愛知万博」を知ることができます.
「万国博覧会とは?」など,素朴な疑問にていねいに答えてくれるページです.万博に主としてかかわっている政府組織は経済産業省だと聞いていましたが,外務省もいろいろとかかわっているのですね.
手前ミソで恐縮ですが,(志)が2005年4月のお茶受けとして執筆したレポートです.このページには書いていないこともいろいろと書いていますので(昨日書き上げたばっかりなので,重複して書く気が起こらなかったのです…),ぜひご覧ください.
取材に行く前に参考にしたWebサイトです.ほかにも,こちらのサイトなど,口コミ掲示板はいろいろあるようです.