そして,数年後の冬

(と)は姫路の駅をぶらぶらしておりました.おそらく『青春18キップ』で極貧旅行中だったのでしょう.姫路ではいつも乗り換えがうまくいかず,辺りを散策しておりました.
そこに,ひとりのおばあちゃんがやって来ました.そして,白い封筒を差し出し,

「ちょっと、おねえさん、これに宛名かいてほしいんやけど.
あたしは、手が震えて上手にかけんから」

と(と)に頼みました.「そんなん,おやすいごようです」と(と)も快くOKし,書いてあげました.そしたら,おばあちゃんはすごく喜んでくれはって・・・

おば「おねえさん、ありがとぅ。ところで、もうお昼ご飯食べた?」

(と)「いや、まだですけど」

おば「じゃ、あたしがおごってあげるわぁ」

(と)「え〜ぇ、そんなん困る。そんなつもりでしたんじゃないのに」

おば「ええやん」

(と)「いいえ、いけません」

おば「じゃぁ、コーヒー飲むくらいならええやろ」

(と)「・・・・・・じゃぁ、コーヒーくらいなら・・・・」

コーヒーと昼ごはんをおごってもらうのに,どれくらいの差があるのかはご理解いただけないでしょうが,(と)のなかには,なんらかの確固たる基準があったのでしょう.
そうして,ふたりは喫茶店に入っていきました.

おば「うちの孫はかわいいんよ・・・ペラペラペラペラ

(と)「はぁ、それはそれは・・・・」

おば「でも、ウチの嫁がねぇ、あんまり孫に会わせてくれへん・・・ペラペラ

(と)「はぁ、そうなんですか・・・」

おば「いや、わるい嫁やないんやけど・・・ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ

(と)「はぁ、なるほど・・・」

コーヒー飲んでるし,エビフライカレーも食べちゃったし(結局食べとるやんか),おばあちゃんの身の上話を聞くのは今や(と)の義務ともなっておりました.さて,おばあちゃんの話も終わり,ご飯も平らげたところで,そろそろお暇しようかと考えていた(と)に,おばあちゃんは言いました.

おば「あんた、ついでに郵便局までこれ(さっきの封筒)出すの付き合って」

(と)「はぁ、いいですよ(ご飯たべてもうたし)」

おば「じゃぁ、行こかぁ」

郵便局に行きながらも,おばあちゃんは孫がいかにかわいく,嫁がいかになってないかを話してくださいました.無事,郵便局に着き,手紙を出し,(と)も電車の時間になったとその旨おばあちゃんに伝えました.

おば「ほんま、ありがとぅ。これ、とっといて」

おばあちゃんはそう言って,(と)の手の中になにやら入れてきました.見ると

5000円札が1枚!!!!!

(と)「こ、こ、こんなん、もらえません!!」

おば「いや、ほんま、気持ちだけやから」

(と)「じゃ、気持ちだけもらっとくから、うち、これ、いらん!!」

おば「まぁ、そんなこと言わんと」

(と)「いらんもんは、いらんって」

おば「まぁ、まぁ、そう言わんと」

と,そんな会話が延々と続き,結局5000円札は(と)の手の中に残ったのでした.


「金は天下のまわりもの」とはよく言ったもんですなぁ(「金は天下のまわりもの1」を読んでなきゃ,オチがわからん).

こんなことがあって以来
「うちが誰かに使った金は,きっと誰かがうちに使ってくれてる」
っていう漠然とした,でもすっごく強い自信(?)ができてしまって,ほーんま,金が残んなくなりましたねぇ.



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