DesignWave笑劇場
No.10

自動操縦
作・岸本陸一

F1レポータ:
昨日,10月7日の2000年F1グランプリ第16戦,鈴鹿公式予選におきまして,まったくの無名ながら見事8位に入り,がぜん注目を集めております本間発動機のピットにお邪魔しております.現在43周を終え,残り10周となったところですが,まったく予想外の健闘で現在2位を走行しております.3位のマクラーレンのクルサードを最終シケインで振り切り,トップを走るフェラーリのシューマッハに激しく迫っております.本間発動機のマシン開発の秘密に迫ってみたいと思います.いったい,なにが起こっているのか説明していただけますか?

本間発動機の開発者:
わかりました.じつはうちのマシンは全自動操縦です.一応,ドライバが乗っていますが,なにもしていません.操縦はすべてコンピュータです.人間が操縦するのに比べて,はるかに正確にアクセル,ハンドル,シフト,ブレーキを操作できます.いくらシューマッハといえど人間です.必ずミスをします.決してミスをしない本間発動機の自動操縦が負けるわけはないのです.

F1レポータ:
昨日の予選の8位でも世界中が驚きました.今日の決勝ではさら速くなり,昨日の予選のファーステスト・ラップを上回っています.

開発者:
昨日の予選ではタイヤの温度が上がりすぎ,タイヤがパンクしてしまいました.昨日のソフトウェアでは,自動操縦が柔らかさに欠け,タイヤに負荷がかかりすぎたのです.昨日から徹夜で自動操縦ソフトウェアを改良しました.同時に制御ハードウェアのビット数も2倍に増やし,より柔らかな制御としました.これでタイヤの負荷を軽減したのです.

F1レポータ:
おっと,ついにシューマッハに並びました.本間発動機,ついにトップ…….オヤ,アレ,どうした,どうした.本間発動機号,急にスローダウンです.なにがあったのでしょうか.みるみるシューマッハに離されていきます.予選と同じタイヤのパンクでしょうか.残り9周でスローダウンです.

開発者:
まずい.パンクだ.しまった.パンクしてしまった.

F1レポータ:
いや,タイヤには異常ないように見えます.明らかにタイヤは正常です.パンクではありません.原因不明のスローダウンです.

開発者:
いや,やっぱりパンクです.タイヤは大丈夫だが,今度はハードディスクがパンクした.


(c)2001 CQ出版