DesignWave笑劇場
No.12

IT野球の崩壊
作・岸本陸一

球団社長:
監督.8月の破竹の13連勝はよかったが,しかし9月に入ると悪夢の15連敗だよ.いったいIT野球はどうなってしまったんだね.

監督:
すべてわたしの責任です.管理不行き届きです.試合中に選手に携帯をもたせたのが失敗でした.あれほど人に携帯の番号を教えてはいけないと言ったのに守らなかった選手が多かったのです.「あぁらシーさん,ずいぶんご無沙汰ね.最近どうしちゃったの.ぜんぜんお店に来てくれないじゃない.お店の女の子がシーさん,シーさんてうるさいのよ.今夜は絶対お店に来てね.お・ね・が・い」なんていう電話が試合中にかかってくるもんで,携帯が話中でIT野球にならないんですよ.

球団社長:
ばかもの.それを管理するのが監督の仕事だろうが.きみにはなんらかの責任をとってもらわにゃならんな.携帯は即禁止.PDAに交換.多少重くなってもかまわん.

監督:
そんな.わたしはIT野球を忠実に実践しているのです.ノート・パソコンの指示にしたがって采配しているだけです.選手のプライバシーにまでは立ち入れません.

球団社長:
そんな甘っちょろいことを言ってるからダメなんだよ.そんなことでは勝てんよ,きみ.

監督:
せめて今期いっぱいはIT野球をやらせてください.せっかく他球団に先んじてIT野球を完成させたのですから.もう一度考え直してください.何度も言いますが,わたしはノート・パソコンの指示にしたがっているだけで,なんら落ち度はありません.

球団社長:
きみと話し合いをはじめてからすでに3時間がたつ.これ以上話しても無駄のようだね.指示は3時間前に出してある.そろそろきみのノート・パソコンに表示されるはずだ.

監督:
電子メールを送られたんですか.でも,届くのに3時間もかからないでしょ.

球団社長:
違うよ.ただ,きみのノート・パソコンの電源を抜いておいたんだよ.3時間前に.

監督:
あっ,メッセージが出た.「すぐに充電してください」.


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