DesignWave笑劇場
No.4

パイ・マック
作・岸本陸一

広報担当者:
本日は弊社の新製品発表会にお集まりいただき,まことにありがとうございます.本日発表させていただきますコンピュータは,縦25ミリ,横18ミリ,奥行き13ミリの極小サイズでございます.ご覧ください.これでございます.その名も“パイ・マック”.この親指の先ほどの小さな筐体に最高速のマイクロプロセッサ,1GバイトRAM,1インチ液晶ディスプレイ,10年間連続運転可能なバッテリを内蔵しております.また,色は半透明の緑,半透明の青,半透明のオレンジの三色を用意いたしました.

記者:
マウスとかキーボードといった入力デバイスがないようですが?

広報担当者:
このコンピュータは無線LANを標準装備しておりますので,既存の入力デバイスをすべて利用することができます.さらに,このコンピュータを最大136個組み合わせて使用していただけます.

記者:
なるほど.超並列プロセッサとしても,利用可能だと?

広報担当者:
もちろん並列処理も可能ですが,最大の特徴はこのコンピュータが自分の位置や方向を正確に認識しているということです.さらには,隣接して置かれた他のコンピュータと密結合することにより,特殊な処理を行えます.

記者:
いまひとつ,なにに使うのかよく分からないのですが?

広報担当者:
それではデモをご覧いただきましょう.本日のデモは麻雀です.136個の“パイ・マック”を麻雀パイのように使っております.高速な自動点数計算,思いっきりパイを叩きつけても壊れない堅牢性など,その小ささと無線通信機能を生かした画期的なアプリケーションにご使用いただけることがおわかりいただけると思います.では,わたしも失礼してデモに参加させていただきます.ジャラジャラ,ジャラジャラ.ジャラジャラ,ジャラジャラ.ジャラジャラ.

記者:
ちょっと待ってください.なにかヘンなのが紛れ込んでいますよ.“パイ・マック”は全部半透明でしたよね,たしか.その銀色に塗られたのはなんですか?

広報担当者:
ロン.その“一萬(イーワン)”でロンです.萬ズの清一,親のハネ万.その“一萬”だけは見逃すわけにいきません.


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