DesignWave笑劇場
No.8

バイオ技術
作・岸本陸一

乗組員:
船長,ついに食料が底をつきました.もうダメです.限界です.

船長:
落ち着け.あわてるな.なんとかなる.この船は人類が最初に作った惑星間連絡船じゃ.バイオ・チップ技術を人類が手にして初めて惑星間定期運行が可能になった.これほど複雑なシステムはシリコン・チップでは作れなかった.絶対にバグが出るのでな.まったくバグの出ないバイオ・チップによって,初めて惑星間飛行が実現したのじゃ.おかげで就航以来40年間,人身事故ゼロじゃ.数々の故障も,宇宙海賊の襲撃も,そしてあの第2次宇宙大戦もバイオ・チップのおかげで切り抜けられたのじゃ.

乗組員:
しかし,船長.お言葉ですが,このままでは全員飢え死にです.いますぐなんとかしなくては.

船長:
心配するな.バイオ・チップには自己修復機能が備わっている.待つのだ.今回のダメージは大きいが,数週間以内に必ず自己回復する.信じるのだ.きっと地球に帰れる.

乗組員:
すでに,みんな衰弱しています.こうなったら,最後の手段を使いましょう.

船長:
君,知っていたのかね.そうじゃ,バイオ・チップは非常時に食べられるように設計されておるのじゃ.ウェハの部分は小麦粉と卵だからお子様のおやつにぴったり.配線部分は牛スジだから煮込んでビールのおつまみに.チップの足の部分はカニの甲羅が原料だから唐揚げにしたらうまい.メモリの部分はアルコールが原料だから水に溶かすと,ハイ,ラム酒のできあがり.バグがないばかりか非常食にもなる,なんとすばらしいデバイスだ,バイオ・チップは.きみ,試食してみたまえ.

乗組員:
はい.では,ウェハの部分を少々.ゲッ.ゲロゲロ.なんじゃこりゃ.穴だらけで,ぼろぼろで,まずくて,臭くて,見た目も悪くて,とても食えません.

船長:
しまった.防虫剤を入れるのを忘れていた.虫に食われてしまっている.


(c)2000 CQ出版