第1章

手作りサーバへの道

 

 この章でのねらいは、ずばり「低コストでPCサーバマシンを作ってみよう」というところにあります。実際に、TRY!PC誌の連載企画では、20万円という予算で最もミニマムな、しかしSOHO用途の機能を満たすことができるPCサーバの作成に挑戦しました。しかし、連載当時はMMX Pentiumのサンプル出荷が始まったばかりのころ。1年以上前とは言え、現在とPCのパワーも値段も大きく異なりました。そこで、今回は新たにPentium IIを搭載したPCマシンを前提に、新しいサーバ機の構成を考えてみたいと思います。

なぜPCサーバを組み立てるの?

 サーバ機には、処理速度の高さだけでなく、高い信頼性が求められます。例えば、ネットワークサービスは、24時間休むことなく、サービスを提供しつづけなければなりません。もし何らかのトラブルでネットワークサービスが停止すると、そのサービスを受けているクライアントマシン全部に影響がでます。つまり、オフィス環境全体で仕事にならなくなるわけです。

 特に、ハードウエアトラブルは、障害の回復に時間がかかる最悪のトラブルです。このような高い信頼性を求められるサーバ機に、PCでしかも自作組み立てマシンを用いていもいいのでしょうか?その辺りを考慮に入れながら、手作りPCサーバのメリットを考えてみましょう。

PC のコストパフォーマンスは抜群

 一昔前では、サーバ機には、専用のUNIXワークステーションを用いるというのが、常識でした。もちろん、今でも多くの大規模なエンタープライズネットワークの基幹システムとして大活躍しているようです。しかし、SOHO用途に限定してしまうと、専用UNIXワークステーションを導入する理由はほとんどありません。ひとつは、管理の難しさの問題、そしてもう一つはコストパフォーマンスの面からです。

 特に、Intel Pentium PRO、Pentium II 、AMD K6など、次々に高性能 なPC用CPUが登場している現在、計算機の処理速度はワークステーションと同等以上が期待できます。しかも、マシンの価格自体は半額以下なので、PCをサーバ機に使ってみようという姿勢は自然なものでしょう。実際に、多くのインターネットサイトがPCサーバを用いて、Webサービスやメールサービスを提供し、実績をあげています。PCのハード自体に対して、そんなに不安を覚えることはないでしょう。

コラム: PCハードウエアのセキュリティ

通常の PCは、起動ディスクを一枚持っていれば、誰でも好きな OSをブートして、自由にハードディスクをいじることができます。 PCが、性能や安定性の面でワークステーションと肩を並べらることができても、このような PC本体のもろさは如何ともしがたいものがあります。 PCをサーバ機として安心して使うためには、サーバ室を用意して、部屋の出入りの段階から管理するなど、特別な配慮も必要です。

 

市販のPCはサーバ機に不向き

 今日、国内・外資系のPCメーカー、家電メーカがそれぞれ自社ブランドのパソコンを発表して、激しい販売競争を展開しています。そのおかげで、高性能なPCがずいぶん安く手に入るようになりました。このような、通常パソコンと呼ばれているPCを、そのままサーバ機に転用するのはどうでしょうか?

 パソコンは、ビデオやサウンドなどマルチメディア機能、すぐ使える便利なアプリケーションなど、個人ユースを前提とした使いやすいさに力点を置いています。その分、ハードディスクやメモリ搭載量は抑え気味です。逆に、サーバ機に求められるのは、ゆとりを持った大量ハードディスクやメモリ資源です。市販パソコンとサーバ用途マシンでは、同じPCアーキテクチャとは言え、全く異なったコンピュータ資源を求められます。

 PCサーバには、MS Wordや一太郎がプレインストールされている必要はありません。それどころか、Windows95(Windows98)すら、必要ありません。もちろん、メーカ製の市販パソコンにWindows NTをインストールすることもできます。さらに、それをサーバ機として使うことがもできます。しかし、少々無理させているな、という印象がするでしょう。それは、サーバ用途には、サーバ向けのハードウエア構成というものがあるからです。

組み立てて信頼性は大丈夫なの?

 この本では、PCサーバを部品から購入して、自分で組み立ていきます。 PCの組み立てと聞くと、安あがりな印象を持たれる方も多いでしょう。しかし実際、落ち着いて比較してみると、組み立て PCよりも、量産効果の効いたメーカ製の方が安いものです。だから、 PCの組み立てはコスト的メリットよりも、単なる趣味的な側面が強いものです。

 ところが、サーバ用途のPC となると事情が異なってきます。 PCサーバ市場では、あんまり量産効果が効かないからです。 PCサーバ機として販売されているハイエンド機は、やはり量産されている普通の市販 PCに比べかなり割高です。運が悪いと、 UNIXワークステーションと大差ないほどの出費になるでしょう。どうしてこのような現象になるのだろうと考えてみると、 PCサーバ市場は、「高価=高信頼」という風潮が残っているのかも知れません。これでは、 PCのコストパフォーマンスの高さも活かせません。

 もちろん、サーバは高信頼性が要求されるのに、メーカーサポートが得られない自作 PCでは不安だという声も、もっともな話です。でも、製品管理の行き届いた専用 UNIXワークステーションだって、壊われるときは壊れます。(工業製品は壊れるものです。)そのとき、自分で直すことができず、ベンダーのサポートに修理を依頼することになります。メーカー製のサーバ機を買えば、全責任をメーカに押し付けることはできるかも知れませんが、ハードウエアトラブルによるサービス停止は、長期に及ぶ可能性もあります。

 PCを組み立てるメリットには、そのハードウエア構成を熟知できるという点もあります。つまり、ハードウエアトラブル時に、調子の悪い部品だけ、即座に新しい部品と取り替えてしまうという荒業も可能になるわけです。また、利用状況に応じて、比較的自由にハードウエア拡張計画を立てることができます。

 SOHO環境のように、小回りを利かせながらサイトを運営していこうと考えるなら、手作り PCサーバも悪くないでしょう。

ハードウエア構成のポイント

 この本では、サーバOS として、Windows NT Server(以下NT サーバ)を利用します。 NTサーバがどのような OSかという話は、第3章に譲って、ここでは NTサーバに適したハードウエア構成を考えていきます。まず、一番気になるところが、 NTサーバは一体どれくらいのマシンスペックが必要なのだろう?、ということでしょう。

 Windows NT Server 4.0 のパッケージには、486 以上、メモリ16MB 以上なんて慎ましやかなことが書いてあります。でも、そのスペックでは起動するのがやっとでしょう。信じてはいけません。 NTサーバを使ってきた経験から言うと、 CPUパワーよりメモリ搭載量が鍵になります。 Pentium MMX 233MH 128MB搭載と Pentium II 233MH 64MHzなら、断然 Pentium MMX の方が軽快に感じるでしょう。メモリが不足すると、システムが不安定な状態になります。

CPUとマザーボード

 コンピュータのスペックで最も気になるのが、やはり CPUでしょう。できるだけ高性能なものをというのが人情でしょう。 もちろん、PCサーバには強力な CPUが必要なのも事実です。

 選考の対象となるのは、Intel のPentium II 、Pentium PRO 、それか AMD K6 でしょうか? ここから先は、はっきり言って好みと予算次第です。

 Pentium IIは、 Intelの最新チップだけあって、現在の最速の PCを構成することができます。現時点では、最も自然な選択とも言えるでしょう。 CPUとマザーボードの接続は、最新の Slot 1 タイプですが、マザーボードのチップセットにも注目しなければなりません。 Pentium IIでは、ベースクロックが 100MHzにアップした 440BXも利用できるからです。最速を狙うなら、当然 440BX系、それ以外なら 440LXか 440FXでも十分でしょう。

 Pentium PROは、 Pentium II が登場する前の最速 CPUでした。 MMXなどマルチメディア用命令セットをサポートしていませんが、これはサーバ機として直接デメリットにはなりません。ただし、 Pentium PRO 用の Socket8は、それに対応した後継チップが登場しないので、 CPUのバージョンアップは期待できそうもありません。その分、価格が下がっているので、 Pentium PRO(200MHz) の Dual 構成はある意味で狙い目とも言えます。

 AMD K6は、 x86互換チップメーカ、 AMDの最強チップです。 MMX Pentium以上、 Pentium II 以下の性能が期待できると言われています。特徴は、 Pentium時代の Socket 7 が利用できる点です。問題点は、 AMD K6の Dual 構成に対応したマザーボードが存在しない点です。 K6を選んだ点で、シングル CPU構成に限定されます。

CPU ボード メモリ
Pentium II (350MHz ) 440BX Slot1 DIMM (PC/100対応)
Pentium II (233MHz ) 440LX/440FX Slot1 SIMM/DIMM
Pentium PRO (200MHz) 440FX Socket8 SIMM/DIMM
Pentium MMX (166MHz) 430TX/430HXなどSocket7 SIMM/DIMM
AMD K6 (166MHz) 430TX/430HXなどSocket7 SIMM/DIMM

 現時点ではNT4.0 が満足に動作すればいいので、あまり将来のことを考えずに、それにあわせてベストコストパフォーマンスを追求するのも悪くないでしょう。 PCサーバのバージョンアップは、 NT5.0の登場にあわせるというわけです。 NT5.0の必要スペックは誰もわからないのですから、

メモリ

 Windows NT Server を利用するのなら、メモリは必ず64MB 以上必要です。連載時は、内心 64MBもあれば、かなり快適だろうと軽く考えていました。しかし、 Windows NT Serverは、そんなに甘くありません。実は 64MBは最低ラインでした。

 


以下省略.出版されている内容とは少し異なります.Copyright 1998 Kuramitsu Kimio


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