第1章 SOHOとネットワーク

 この章では,SOHOでネットワークを活用するのにはどのようなメリットがあるのか,SOHOで活用するネットワークにはどのようなスタイルがあるのかを簡単に紹介します.

1.1 SOHOのネットワークを考える

1.1.1 SOHOとネットワーク

 SOHOとはSmall Office & Home Officeの略です.Small Officeとは従業員25人以下程度の小さな事業所,Home Officeとは自宅で仕事をしている個人事業者(いわゆる自営業)や在宅勤務者を指す言葉で,小企業と自営業者,在宅勤務者をひっくるめてSOHOと言うわけです.SOHOは決して特殊な経営形態ではありません.実に,日本の事業者の過半数がSOHOなのです.中規模企業も含めれば,日本の事業者のおよそ9割を占めます.

 こうしたSOHOでも,最近ではコンピューター化,ネットワーク化の波から逃れられません.むしろ,ネットワークに積極的に参加することで新しいビジネスチャンスをつかむことも多くあります.

 SOHOでコンピューターを活用する場合,3つの活用スタイルがあります.

オフィス内の事務処理 オフィス内の経理,顧客管理,社員管理のためのコンピューター利用
業務遂行の手段として 電子メールやグループウエアによる社員同士の円滑なコミュニケーション,スケジュール管理のため,あるいは,メーカーにおける製品設計,建築会社におけるCADシステム,情報提供会社のデータベース等,業務そのものを遂行するためのコンピューターの利用
情報の連絡手段として 電子メールによる取引先との連絡,インターネットやコンピューター通信を利用した情報の収集や,広告の発信媒体としてコンピューターの利用

 業務内容,形態によってどれだけコンピューターが役立つかは千差万別ですが,ほとんどのオフィスでは上記のいずれかの用途で,あるいはすべての用途でコンピューターは大きく作業効率を向上させることができるでしょう.コンピューターのシステムの導入にはそれなりの経費がかかりますが,それは人件費に比べれば非常に小さな投資です.さらに,複数のコンピューターを導入しているのであれば,ネットワークで接続し,データを共有活用することによってさらに効率が向上しますし,インターネットに接続すれば外部との情報伝達も可能になります.

 人材や資金に余力がないSOHOこそ,もっともコンピューターによる作業の効率化を必要とするオフィスでしょう.

1.1.2 ネットワークの意味

 SOHOであっても,2台以上のコンピューターを使用するのであればネットワークを導入すべきでしょう.複数のコンピューターで情報を共有し,あるいは機材を共有することで,作業を効率良くし,コストを抑えることができます.

 ネットワークを接続することによって,フロッピーディスクにはコピーできないような大きなデータも簡単に転送できます.そもそもドライブを共有する機能がありますから,データを転送する必要さえないかもしれません.またプリンターやモデムなどの周辺機器を複数のコンピューターで共有することもできます.

 ネットワークがインターネットに接続されているときは,電子メールなどを利用して取引先と迅速に情報のやり取りを行ったり,インターネットにホームページを掲載して,低コストで自社の宣伝を行ったり,注文を受け付けたり,あるいはユーザーに対するサポートを行ったりすることができます.

1.1.3 SOHOに最適なネットワークの条件

 大企業の場合,ネットワークの導入には2つのパターンがあります.1つは社内のネットワーク部門によって構築する場合,もう1つはSI業者(1)に委託する場合です.

 社内にネットワークの管理運営を専門に行う部署がある大企業は珍しくありません.というよりも,そうした管理担当者がいなければネットワークの運用は不可能なのです.もちろん,ネットワーク管理運営を行う部署の社員はネットワークのエキスパートです.こうしたネットワーク管理運営部署がない場合には,SI業者にネットワークの構築と運営管理を委託することになります.SI業者に委託すれば手間をかけずに完全なネットワークを構築できますが,それだけに膨大な費用がかかります.

 こうした大企業のネットワーク導入方法は,いずれもSOHOでは実現が困難でしょう.1人〜25人程度のオフィスでネットワーク専任管理者をおいたり,あるいはSI業者に委託することは資金の面からも困難です.SI業者にシステムの導入を委託する場合には,実際のネットワークシステムの実費であるハードウエア,ソフトウエアの金額を除いた,コンサルタント料やシステム構築委託料だけで少なくとも数百万円からの予算を考えなければならないでしょう.

 社内にネットワーク管理専門の部署を設置する,SI業者に委託する…いずれもSOHOの資金力では困難です.つまり,SOHOに最適なネットワークの条件は低価格で自力で構築できることと言えます.

 一方,Windows 98だけでネットワークを構築することもできますし,最近ではネットワークサーバーに使用できるLinuxやFree BSDなどのフリーソフトウエアのPC UNIX(2)が非常に安価に出回っています.こうしたOSを利用すれば非常に安価にネットワークシステムを構築できます.しかし,安価ならいいかというとそういうわけにはいきません.Windows 98だけのネットワークではネットワーク全体を統一的に管理することはできませんし,セキュリティー機能の弱さから情報の紛失や漏洩の危険が非常に高くなります.フリーのPC UNIXを使用する場合には,UNIXに詳しいエンジニアが必要ですし,インターネット/イントラネットのために使うWeb Server程度なら問題はありませんが,データベースを扱うSQL Serverなどのビジネスに欠かせない信頼性の高いサーバー機能を構築するには役不足です.

 つまり,SOHOとはいってもビジネスでやる以上安いからといって信頼性に問題があるシステムは導入できないということです.たとえば,たった2人で運営している会計事務所であっても,顧客から預った帳簿データなどが紛失したり漏洩したりすることがあってはなりません.

 さて,まとめると,SOHOに最適なネットワークシステムの条件は以下のようになります.

◎ 安価であること
◎ SI業者に委託しなくてもシステムを構築できること
◎ 業務に耐えられる信頼性と機能を持っていること
◎ 高価なエンジニアリングワークステーションや大型コンピューターではなく,PC(パーソナルコンピューター)でシステムが稼働すること

 こうした条件を兼ね備えたシステムとして,筆者はマイクロソフト社のサーバー製品,中でもMicrosoft BackOffice Small Business Server 4.0.通称BackOffice SBSを提案します.現在,コンピューターのOSの主流は明らかにマイクロソフトのWindows 95,Windows 98,Windows NTです.BackOffice SBSであればWindows関連製品との相性の心配も必要なく,Windows 95やWindows 98,Windows NTといったクライアントOSやWindows対応アプリケーションの性能を十二分に活用することができます.そして,豊富で安価な周辺機器やソフトウエアを活用できます.

 また,BackOffice自身もWindows NT ServerとWindows NT Server用サーバーアプリケーションで構成されていますので,新しく別なOSの勉強をする必要がありません.慣れ親しんだWindowsの環境でサーバーを管理運営できます.コスト的にもUnixWareやSolaris x86版といった商用UNIXサーバーで環境を構築するよりも安価になります.

1.2 Microsoft BackOfficeの概要

1.2.1 BackOffice製品群とBackOfficeの違い

 マイクロソフトではコンピューター用のネットワークシステムとしてBackOfficeというブランドを確立しています.マイクロソフトではネットワークサーバーOSとして,以前からWindows NT Serverを出荷していました.そして,Windows NT Serverで動作する各種サーバー用アプリケーションを出荷しています.たとえば,

◆メールサーバーとなるExchange Server
◆データベースサーバーとなるSQL Server
◆WebサーバーとなるIIS

などがあります.さらに,SNA Serverなどのより大規模なネットワーク向けのサーバー製品があります.これらのサーバー製品は元来それぞれ単体で発売されていたものですが,こうしたサーバー製品を1本のパッケージにまとめた商品として後にMicrosoft BackOfficeパッケージが発売されました.この「BackOffice」に対して,単体発売されている各サーバー製品はBackOffice群またはBackOffice製品群と呼ばれます.Microsoft BackOffice 2.5の最新版であるMicrosoft BackOffice 2.5には以下の製品が含まれます.

製品名

機能・用途

Microsoft Windows NT Server  

ネットワークサーバーOSです.Microsoft Internet Information Server,Microsoft Index Server,Microsoft FrontPage 97を含みます.

Microsoft Exchange Server メールサーバー.単なるメールサーバーではなくグループウエアサーバーとして,アプリケーションのデータ交換などもサポートします.
Microsoft SQL Server SQL方式のデータベースサーバー.データベースをサーバーで集中管理することにより,信頼性が向上し,データの共有が容易になります.
Microsoft Proxy Server インターネットと社内ネットワークを接続するゲートウエイシステムです.なお,単体発売のMicrosoft Proxy ServerはVersion 2.0ですが,BackOfficeに含まれるVersionは1.0です.
Microsoft System Management Server ネットワークの集中管理システムです.複数のサーバーや多数のクライアントを集中管理できます.
Microsoft SNA Server メインフレーム(大型汎用コンピューター)とコンピューター・ネットワークを接続します.

 また,BackOffice製品群で個別にサーバーソフトを購入する場合と,BackOfficeを購入した場合では以下のような違いがあります.

  個別に購入した場合 BackOfficeを購入した場合
価格 BackOfficeに比べて高価です. 同等の製品群を個別に購入した場合と比較しておおよそ半額になります.
セットアップ 個別に購入した製品は,個別のコンピューターにセットアップすることができます.サーバーアプリケーションごとにサーバーコンピューターを用意することにより,複数サーバー環境でサーバーコンピューターへの負荷が少ない,高速で安全なサーバー分散環境を構築することができます. BackOfficeはそれ全体が1本の製品としてライセンス契約が行われますので,1つのBackOfficeはひとつのコンピューターにしかセットアップできません.BackOfficeにExchange ServerとProxy Serverがあるからといって,Exchange ServerとProxy Serverを別なコンピューターにセットアップすることはできません.
管理ユーティリティー BackOffice製品群それぞれの製品ごとに管理ユーティリティーがあり,それら多くの管理ユーティリティーを駆使して設定を行います. BackOfficeとしての統合管理メニューがあり,システム全体を統一的に管理することができます.

 従って,ファイルサーバーやプリントサーバーの機能さえあればいいのでNT Serverだけ必要という場合,BackOffice製品群のそれぞれのサーバーアプリケーションを異なるコンピューターに分散する必要がある大規模ネットワークを構築する場合には,BackOffice製品群を個別に必要な数だけ購入したほうが適しています.一方,1台のコンピューターにすべてのサーバー機能をセットアップして使用する部門サーバーや小規模ネットワーク用サーバー,あるいは1台のコンピューターに3つ以上のBackOffice製品群のサーバー製品をセットアップする場合は,安価でセットアップや管理が容易なBackOfficeの方が適しています.

 なお,現在Windows NT ServerなどのBackOffice製品群のパッケージを個別に使用している場合は,特別価格でBackOfficeにアップグレードすることができます.詳細はマイクロソフトのホームページ http://www.microsoft.com/japan/ (3)の製品情報を参照してください.

1.2.2 BackOfficeとBackOffice SBSの違い

 BackOfficeはそれ以前の製品から比べると管理が容易で安価な画期的な製品でした.しかし,それでもなおSOHOのような小規模オフィスには価格が高すぎ,また管理が難しいものでした.そこで登場したのがBackOffice SBSです.BackOffice SBSはBackOfficeのさらに半額近い低価格で提供されます.BackOffice製品群の各製品を個別にそろえる場合と比較すると,なんと約1/4の価格になります.


<以下省略.文章,図版は出版されているものといくぶん異なります.
Copyright 1998 Okazaki Toshihiko>


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