第2章 TCP/IPとインターネットの基礎知識

 BackOffice SBSでインターネット,イントラネットのネットワークを構築するには,前提となっている通信手順TCP/IPに対する理解や,Windows NT Serverを中核としたネットワークであるMicrosoft Networkの理解が必要です.

 この章では,BackOffice SBSを稼動させるのに必要なTCP/IPやMicrosoft Networkに関する基礎知識を解説します.SBSのインストール時にはあまり必要な知識ではありませんが,その後の運用時やトラブル時には必要になる事柄です.

2.1 ネットワークの概要

2.1.1 LANのクライアントとサーバー

 もっとも身近なネットワークは,オフィス内の複数のコンピューターをケーブルで接続するLAN(9)でしょう.LANによって複数のコンピューターを接続するとコンピューター間でデータ通信が可能になります.使用するソフトウエアや設定によって,ファイルの送受信,電子メールの送受信,あるいはプリンターやハードディスクなどの共有が可能になります.

 このときクライアントとサーバーという概念が登場します.クライアント(Client)とは顧客とか依頼者という意味です.一方サーバー(Server)とは提供者という意味です.つまり,ネットワークを通じてサービスを提供するコンピューターがサーバー,サーバーにサービスを要求するコンピューターがクライアントと呼ばれます.

 たとえば,コンピューターAにプリンターと大容量ハードディスクが接続されているとします.そしてネットワークを介してコンピューターBがコンピューターAに接続されたプリンターやハードディスクを利用するとします.この場合,コンピューターAがサーバー,コンピューターBがクライアントです.

 こうした観点から,LANには大別して2つの形態があります.

Peer to Peer  すべてのコンピューターが対等の関係で接続されます.初期設定は簡単ですが,個々のマシンごとにユーザーや共有する周辺機器のアクセス管理をしなければならないので,台数が増えると管理が煩雑でトラブルも多くなります.
Client/Server  専用サーバーがユーザー管理やさまざまなサービスの提供を担います.高価なサーバー用OSが必要となりますが,ネットワークを集中管理できますので,大きなネットワークにも対応できます.

 もっとも初歩的なLANがPeer to Peer環境です.peerとは対等という意味です.Peer to Peer環境ではすべてのコンピューターがお互いにサーバーでありクライアントである状況になります.これは一見便利なように見えますが,お互いにサーバーでありクライアントである状況は設定を煩雑しに,トラフィック(10)を増大させ,ネットワーク全体の処理速度と信頼性を低下させます.Peer to Peer環境を利用する場合でも,もっとも高速で大容量のコンピューターを擬似的なサーバーとして使用するのが一般的です.

 また,Peer to Peer環境ではネットワーク全体を統一的に管理するコンピューターがありませんので,誰がどのコンピューターにアクセスできるかというアクセス権の管理はそれぞれのコンピューターごとに行わなければなりませんし,それぞれのコンピューターのユーザーがシステム設定を変更したりする場合があるので,会社などで利用するには,おせじにも安定したネットワーク環境とは言えません.

 Client/Server環境では,サーバーに使用するコンピューターとクライアントに使用するコンピューターを明確に区別して役割分担を行います.サーバーに使用するコンピューターには大容量,高速,高信頼性のコンピューターを使用し,サーバーによってネットワーク全体のユーザー管理を統一的に行います.そのため,信頼性が高く高速なネットワーク環境を構築できます.欠点は,サーバー用のコンピューターとサーバー用のOSを用意しなければならないことで,いずれも,クライアント用のコンピューターやOSに比べると非常に高額です.しかし,業務で使用するのであればClient/Server環境は必須といえるでしょう.

 もちろん,BackOffice SBSは,このClient/Server環境のサーバー用OSです.本書ではもっぱらBackOffice SBSによるClient/Serverネットワークを取り上げます.

2.1.2 Microsoft Networkとドメイン

 マイクロソフト製品によるLANを特にMicrosoft Networkとよびます(11).

 Microsoft Networkは古くMS-DOSの時代にIBM社などとの共同開発で誕生しました.現在,Microsoft NetworkではWindows 98やWindows NT WorkstationによるPeer to Peerネットワークと,Windows NT ServerをサーバーとしたClient/Server環境を構築できます(12).それぞれ,使用できる機能は以下の通りです.

製品名 Peer to Peer Client/Server環境のClient Client/Server環境のServer
Windows 95
Windows 98
×
Windows NT Workstation ×
Windows NT Server
BackOffice
BackOffice SBS

 Microsoft Network環境で重要なのはワークグループとドメインです.

 物理的に接続されたネットワークの中で,小グループを作成するのがワークグループとドメインです.ワークグループはPeer to Peer環境で,ドメインはClient/Server環境で使用されます.

 たとえば,ABCDEFGという7台のコンピューターがネットワークで接続されているとします.物理的にこの7台は全く区別なく接続されています.このとき,ABCDの4台に「first」というワークグループを,EFGの3台に「second」というワークグループを設定したとします.すると,物理的には区別なく接続されているにもかかわらず,ABCD同士,EFG同士はネットワークでデータの送受信ができるのに対し,ABCDとEFG間ではデータの送受信を行えません.ネットワーク内に2つのグループが存在することになります(13).

 こうして,部署ごとに,あるいはプロジェクトごとにコンピューターをグループ化して柔軟に運用することが可能になります.ワークグループの場合はそれぞれのコンピューターごとに勝手にワークグループ名を設定しますが,ワークグループとしてのユーザー管理を行いません.

 Client/Server環境でワークグループと同様の機能を持つのがドメイン(14)です.ただし,ユーザー管理を行わないワークグループとは異なり,Client/Server環境のドメインでは,ドメインコントローラと呼ばれるサーバーがドメイン内のユーザー管理を統一的に行います.もちろん,ドメインサーバー機能を持つのはWindows NT Serverと,Windows NT Serverを含むBackOfficeやBackOffice SBSです.

 ワークグループが参加することを表明すれば誰でも参加できるオープンなグループなのに対して,ドメインは管理者に申請して登録手続きを行わなければ参加できない管理のしっかりとしたグループといえます.


<以下省略.文章,図版は出版されているものといくぶん異なります.
Copyright 1998 Okazaki Toshihiko>


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