第1部 企業システム事例研究
研究事例1 R/3の全社システムを使うブリヂストン

 カットオーバー直前と重なったSQL Server 7.0出荷と,短時間での本番環境構築(SQL Server 6.5から7.0への移行)という部分に焦点を当て,MCS(Microsoft Consulting Services)から,R/3プロジェクトにSQL Serverのコンサルタントとして参加 した筆者の目で解説してもらいます.
 なお,解説の後半では「コンサルタントの立場から,このプロジェクトで留意したこと」と題し,ITシステムにSQL Server 7.0を導入する場合の留意点についても言及します.

第1章 SAP R/3とSQL Server 7.0で稼動する全社
システムマイクロソフト(株) コンサルティング本部 久保田好彦

 (株)ブリヂストンでは1994年当時,更なる飛躍を目指し,業務効率化と経費削減が推し進められていました.その中で情報システムに対する費用も大幅に削減すよう求められていました.情報システム部門としては,経費の半減という通常の手段では到底達成できないと思われるような目標を達成することが命題となりました.
 1994年当初,BSハイウェイと呼ばれるネ
ットワークインフラの構築から行われ,給与計算システムを経て,今回の会計購買システムを稼動させることとなりました. その一連のダウンサイジングの流れの中で,会計購買システムのプロジェクトがスタートしたのは1996年です.当初はR/3も含めさまざまなERPパッケージを検討しましたが,実績,信頼性などの理由により,R/3の導入に踏み切りました.

1-1 システム導入まで...なぜSQL Server 7.0なのか

 この会計購買システムをWindows NTとSQL Server 7.0を使用したR/3のシステムで行うことの最大のメリットとしてはコストパフォーマンスが上げられます.もちろん別のプラットフォームを使用した同じ機能のR/3も考えられますが,ブリヂストンの要求は基幹業務システムとして必要な信頼性を確保した上でコストパフォーマンスを徹底的に追及することでした.そのためには,PCアーキテクチャ上のWindows NTとSQL Server 7.0に行きつかざるを得なかったのです.
 このシステムは当初からSQL Server 7.0を使用する予定でした.そのためにプロジェクトスタート当時はSQL Server 6.5を使用し,製品が出荷された段階でSQL Server 7.0に移行するという計画でした.実際のSQL Server 7.0の出荷は1998年12月となったため,SAPの協力のもと,開発にはSQL Server EAPビルドを使用しました.
 EAPとはEarly Adaptation Programの略であり,製品のベータ段階からユーザーとマイクロソフトが強調し,早期導入と展開を行うプロジェクトのことです.今回のプロジェクトではSAPとマイクロソフトがEAP契約を結び,さらにブリヂストンとSAPがFCS(First Customer Shipment) 契約に基づきSAPからEAPビルドを提供しています(図1).
 また,日本語版Windows NT 4.0 Service Pack 4の出荷が1998年12月中旬となったため,本番環境の最終作成は同12月19日から20日の週末を利用して行いました.ここでデータベースサーバー2台をはじめとし,アプリケーションサーバー6台に対してOS,RDBMS,R/3,そのほかシステム管理ツールのインストールを行い,稼動テストを行った後,1999年1月に本番を迎えることとなりました.

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<図1> SQL Server 7.0のEarly Adaptation Program

1-1-1 MCS(Microsoft Consulting Services)のかかわり

 筆者がブリヂストンのR/3プロジェクトに参加したのは,ブリヂストンでデータベース関連のコンサルタントを希望されたからでした.当時,開発はすでに始まっていました.当然使用していたデータベースはSQL Server 6.5です.
 R/3をより効果的に使用するために求められるのは行単位のロックでした.SQL Server 6.5が持っていないこの行単位のロックが時として問題となることもあったのです.R/3のアップデートプロセスを多く出来ないためデータベースのサイズが巨大になった場合,パフォーマンスが落ちる場合があるなどです.
 これらの問題点の回避と,バックアップ,DBCCなどの運用をどのように進めていくか,また信頼性を高めるためにシステム

構成をどのようにするかといった点がコンサルテーションの主なテーマでした.
 R/3プロジェクトは大きくアプリケーションチームとベーシスチームで構成されていました.それぞれの役割はアプリケーションチームがR/3のパラメータ設定,アドオンプログラムの作成といったいわゆるアプリケーションの作成を行うチームです.ベーシスチームはシステム全体のインフラストラクチャを検討するチームで,ネットワークを始めとしデータベースサーバー,アプリケーションサーバーなどのサーバーの構成を検討するチームでした.
 筆者はこのベーシスチームのメンバーとともにSQL Serverを使用する上での効果的なハードウェアの構成,パラメータの設定,バックアップ方法などを検討しました.

1-1-2 SQL Server 7.0を使用したR/3稼働環境

 R/3をインプリメンテーションする場合,開発環境,テスト環境,本番環境の3つのシステム環境を別々に構築することが勧められます. それぞれの環境でのアプリケーションの同期は開発環境からテスト環境へのアプリケーションの移送,テスト環境から本番環境への移送によって行われます(図2).

.....(以下,本文に続く)

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<図2> 3つのシステム構成
R/3導入では開発,テスト,本番の3システム環境を構築することが推奨される.