第4回 ムーアの法則から探る近未来のコンピュータ

 インテル社の創立メンバーの一人である Gordon Mooreが,1965年頃に自分が行う講演のためのレジュメを作っているときに発見したといわれているのが,LSIの集積度に関するムーアの法則である.

 それによれば,一個のLSIに集積されるトランジスタの数は18ヵ月で倍増し続けるという.そこで,ものは試しというわけで,インテル社のCPUの歴史からこの法則を検証してみようと思い立った.

ムーアの法則を検証してみたら

 まともに使用することができるようになったといえる最初のCPUは,8080である.それが開発されたのは1974年で,その集積度というと公称29,000トランジスタであった.そして,それから15年後の1989年に486DXが発表されたが,この486DXの公称トランジスタ数は120万個であった.

 したがって,この間のトランジスタ数の増加は約41倍になったと計算することができる.おおざっぱに見て,2.5年で2倍というペースで集積度が上がっていったことになる.それじゃあ,外れじゃないかと思ってしまうが,それはムーア氏に対してちょっと失礼な話なのである.

 元祖ムーアの法則は1965年という半導体製造技術が未成熟な時代での予測だったこともあるし,もともとはメモリチップに関する予測でもあったのである.したがって,CPUの場合にはその係数が若干違ってくるのも仕方がないといえる.

 さて,486DX以降の傾向はどうなっているのだろうか考えてみよう.現時点の最先端プロセッサであるPentium IIは,それから約6年後の1997年に発表されている.このCPUの公称トランジスタ数は750万個で,486DXと比べて6.3倍に増加している.これもおおよそ2.5年で2倍のペースになる.

 すなわち,インテル社のCPUに関するムーアの法則は,30ヵ月でトランジスタ数が倍増するということになった.このペースで行けば,2000年に発表されると噂されている次世代プロセッサMercedは,Pentium IIの2倍の1,500万トランジスタ程度の規模になるのではないかと予想ができる.

 こういう予想の根拠にするのが,ムーアの法則の代表的な使い方なのである.

性能に換算するとムーアの法則が・・・・

 さて,LSIの情報処理能力は集積されたトランジスタの数だけではなく,動作周波数にも比例している.ムーアの法則はデザインルールの縮小による集積度の向上の結果だと考えられるのだが,デザインルールが縮小されると動作周波数も上がってくる.

 そこで,動作周波数でも比較を試みてみると,1974年の8080が2MHzで1998年のPentium IIの最高速クロックが400MHz,つまり24年で200倍に上がったことになる.これから逆算すると,動作周波数は3年強で2倍のペースとなっている.

 おおざっぱな話,CPUの処理能力をトランジスタ数 × クロック周波数とすると,1974年の8080と1989年のPentium IIは集積度で250倍,クロック周波数で200倍,つまり5万倍の性能差があると考えることもできるのである.

 それから逆算すると約1.5年,つまり18ヵ月で処理性能は倍増したことになる.すなわち,性能向上という指標をとってみると,元祖ムーアの法則で出てきた18ヵ月というマジックナンバーが現れた.

 ムーアの法則あなどりがたし.

 インテル社のCPUが成功した秘密は,この18ヵ月で性能を倍増させるというペースを,25年近くも続けてきたという信頼感と安心感なのかもしれない.

 さて,このペースがまだしばらく続くと考えるなら,2000年以降に手に入るMercedはPentium II 400MHzの3〜4倍程度の処理能力をもつと期待することができ,12年後の2010年には現在の256倍の処理能力が手に入ることになる.なんとも頼もしい話である.

ムーアの法則にも抜本的な修正が必要か

 20世紀末に起こった情報機器の爆発的な高性能化は,LSIの性能指数がムーアの法則的成長を続けたことによって引き起こされたといえる.問題は,この成長がどこまで続くのかということである.

 ムーアの法則が成り立つのは,半導体の微細加工技術が年々向上するという仮定があるからなのだが,それには物理的限界がある.したがって,ムーアの法則にもそろそろ抜本的な修正が求められているのである.

 集積度,周波数ともに現在の4倍で飽和するとすれば,2004年頃には単一CPUでは限界性能に近いCPUが量産体制に入ることになる.それは,現在の最高性能のスーパーコンピュータと同程度,つまりGFLOPS級のものになっているはずである.

 デスクトップクレイはもうすぐそこに来ている.

山本 強・北海道大学



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