第6回 名刺から始めるGIS(Geographical Information System) 西暦2000年までついに500日を切ってしまった.現在の状況はといえば,景気の方がなかなか上に向かない.仕事で使うPCも必要なところにはほとんど入ってしまったし,個人需要は所得が増えていないので期待ができそうもない.インターネットですら,増加の傾きが衰えてきている. そこで今回は,ちょっと時間がかかるかもしれないが,将来への明るい話題を提供しよう. 地球上をメッシュで埋め尽くす インターネットが立ち上がり始めたころ,将来はすべての電気製品はインターネットに接続されるようになるという話があった.これは相当誇張された話なのだが,長期的な予測としてはおそらく正しいと思う. したがって,32ビットアドレス体系であるIPv4では遠からずアドレス資源が枯渇するので,そうなる前に次世代アドレス体系を設計しようということで考えられたのがIPv6である.このIPv6では,地球上を数cmのメッシュで埋め尽くすことができるだけのアドレスを記述できるように,アドレスのビット数が大幅に拡張されることになった. インターネット屋さんは,将来すべての情報機器は,IPアドレスという世界規模でユニークな識別子をもつようになるという信念をもっているのである. ところで,地球上を数cm単位で区切るのならば,初めから座標(緯度,経度)を使えばよいではないかと考えられる.そして,その方向で利用できると考えられているのがGIS(Geographical Information System)なのである. 日本語では地図情報システムと呼ばれるこの分野の人たちは,将来すべての情報には座標データ,つまり緯度と経度が付属するという確信の上に,新しいシステムを作り出している.地図情報システムという日本語訳のおかげで,知らない人から見るとディジタルな“地図”システムぐらいにしか思われていないのだが,これは相当奥が深いものなのである. 地図だけではないGIS 情報が爆発した結果,検索そのものが高度技術になってしまったインターネットのサーチエンジンも,キーとして座標が使えるようになると相当変わってくる.地名は一見ユニークに見えるが,同じ地名は山ほどある.東広島,西広島は広島県だが,北広島はなんと北海道にある.座標が使えるなら,それをキーにして検索すれば,極めて精度の高いフィルタリングができることは間違いない. ニュースサービスだって,「東京発,時事」のように座標情報に近いものがあるのだから,これを具体的な座標で置き換えればよいのである.座標値では,それが具体的にどこだかは人間のほうが理解できないという心配もあるが,そこはDNSサーバの理屈で,座標値と地名の相互変換データベースが端末内部かインターネット上にあればよい. そして,そのようなサービスを始めるためにWWWが何をすればよいかといえば,HTMLに座標を記述するタグを追加する程度のことなのである.現行のHTMLブラウザは未知のタグをとりあえず無視するから,下位互換性だって保証されている.HTMLをSGMLベースで作ったT.B.Leeは,相当先を読んでいた人である. GISとGPSの結合から始まる新サービス GISに関連してGPS(Global Positioning System)も忘れてはいけない.ちょっと前までは誤差100mだったGPSも,DGPS(Differential GPS)サービスのおかげで日本全国で誤差10m以下になってきたし,RTK(Real-Time Kinematics)方式のGPSが使えるようになると,誤差がcmオーダーになる可能性すらある. GPSインフラの確立とGIS情報の大量流通が始まると,予想もしていなかったような新しいサービスが始まる可能性がある. たとえば,GPS内蔵モバイル端末などという製品が一番わかりやすい例であろう.GPSが位置情報をリアルタイムで更新し,移動体通信で必要なときにサーバから情報を取り出すのだが,検索のキーとして現在位置が使えることになる.それはカーナビだといえばそれまでだが,情報をWWWと共用できるようにするとずいぶん使い勝手が違ってくる. Push型の情報表示端末でも,端末が自分の座標情報をもてば設置場所によって表示内容が変わる掲示板などというものもできてしまうのである.こういったことは,情報に座標という何バイトかの情報を付けるだけで可能になることなのである. GISはデータベースとSGMLの世界 GIS=地図という連想が強いため,GISといえば地図の高速表示とか3次元景観表示ばかりに目がいく傾向がある.ところが実際にやってみると,データベースやSGMLにその本質がありそうである.地図がなければ始まらないと思い込みがちのGISだが,RTKが可能にするcmオーダーの精度の地図はどう考えても手に入らない.地図から少し離れてみることで新参者でもGIS分野に入り込めるのではないかと考えている. まずは取っ掛かりからと,とりあえず名刺に GIS 43.02.286N 141.20.91E と研究室の座標を印刷することから初めてみることにした.これでいっぱしのGIS屋になった気分がするのだから安い投資である. 山本 強・北海道大学 |
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