第9回 恐るべし,インターネット携帯電話

 久々に,背筋をぞくぞくさせられる経験をした.といっても,世間ではとうの昔に知られたものなので,何をいまさらという話なのかもしれないのだが,ともかく実際に使ってみて驚いた.

 それは,広末涼子のCMで有名なあのインターネット対応携帯電話,iモードのことである.私は,実際に1機種しか使ってみていないので,他社のインターネット対応携帯電話がどうなっているのかは知らないが,このiモードのインターネット度が恐るべきものなのである.

 正直に告白すると,私は実際にこれを手にするまでは,若年層を対象にした情報おもちゃの延長線上にある商品だと思っていた.電子メールが携帯電話で読めるとしても,仕事のアドレスと携帯電話のアドレスとを区別しなければならないし,情報サービスも電話会社からあてがわれた既製のものを使うだけだろうと勝手に思い込んでいたのである.

 しょせん,PCの世界におけるインターネット系のサービスと,携帯電話系の情報サービスは別世界のものだと思っていたのだが,実際に使ってみてのけぞった.

これは電話かブラウザか

 早速,iモード携帯電話を手に入れて,まずそれに自分のPCから電子メールを出してみた.当然のように数秒で配信される.メールの到着でベルが鳴るのも,私のPCにメールが入ったときのベルの音と感覚は同じである.これはフルタイム接続のインターネット感覚である.

 さて,そのメールを見てみる.確かに画面は小さく,100文字くらいしか表示できないのだが,メールは文字だから内容はきちんと伝わる.最後まで見ると,メールの末尾にはシグネチャが付いていて,そこには自分のホームページのURLが見えた.

 なぜかその部分が,白黒反転されているのである.何だろうと思って,その状態で選択ボタンを押したところ,なんと自分のホームページを読みに行くではないですか.もちろん,小さな液晶画面だから画像は表示されないが,文字の部分はそれなりに表示されていて,十分に情報は理解できる.そして,その先のリンクもたどれるのである.

 iモードは携帯電話用サービスではなく,普通のインターネット,それも操作感はフルタイムサービスなのである.使い始めて一週間後,私はこれが電話であることを忘れていた.

iモードはWWWのスタイルを変えるか

 もうひとつ重要なことがある.私のホームページは,iモード携帯電話のためには何もしていないということである.iモード携帯電話のブラウザ機能はかなりの制限があるため,公にインターネット用ブラウザとは言わないだろうが,私はこれをブラウザと認める.

 もともと,インターネット上に完璧なブラウザなんて存在しない.コンテンツを作る側も,ある程度ブラウザの仕様を意識して情報を編集しているのだから,iモードを意識してくれればよいだけのことだと思う.

 最近,WWW上のコンテンツがマルチメディア指向になってきている.その背景には,CPUの高性能化とインターネットインフラの強化がある.しかし,インターネット環境がどのくらい家庭に入っているのだろうか? PCの家庭における普及率は,25%程度といわれている.その半分がインターネットに接続しているとしても,インターネットの世帯普及率は10%台である.

 それに対して,携帯電話の普及率は4000万台,3人に一人はもっている.インターネットが社会に与える影響力があるように感じるのは,家庭ではなく会社や学校に普及しているからだろう.今のところ,表向きは仕事のためのインターネット,プライベートの携帯電話という構図が見える.

 そして,携帯電話の買い替えサイクルは2年程度である.2年後には,携帯電話のほとんどがインターネット対応になってしまうという可能性もある.したがって,インターネットが本当に個人向けサービスに活路を見出すなら,その消費者はPCユーザーではなく,iモード携帯電話の世界にあるのかもしれない.それがわかった瞬間に,コンテンツの作り方が変わってしまうだろう.

モバイルコンピュータにあらず

 メールとブラウザが使えるのだから,これは究極のモバイルコンピュータかといえば,ちょっと違う.いまのところ,情報を処理しない.私は,この割り切りのよさが逆に重要な特性だと思っている.モバイルコンピュータには,つねにコピーの発生と情報の分割という問題が付きまとう.

 電子メール一つとっても,それを読む“コンピュータ”が2台になった瞬間に,情報管理が破綻する.本気でモバイルするなら,情報はサーバで集中的に管理し,移動端末は表示とサーバに対する指示だけを行うほうが一貫性を保てるのである.

 仕事でiモード携帯電話を使うなら,プライベートサーバを使ってマスターの情報を携帯電話から操作するアプリケーションを作るとよい.その程度のことは,HTMLのFORMを使うだけでたいていのことはできるはずである.そういうサーバの市場が膨らむ可能性がある.


 この先,インターネット対応携帯電話が普及すると,ある種の特殊なドメイン名が受ける可能性がある.短く,かつ携帯電話のキーボードから入力しやすいものである.

 たとえば,gjm.gr.jpならストローク数は11だが,ilo.co.jpは21ストロークになる.海外ドメインまで探して,gj.jdなんていうドメイン名を取得できたらポイントは高そうである.

山本 強・北海道大学



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