本特集の第4章と第5章では設計サンプルとして,アラーム機能付きディジタル時計を設計します.同一の仕様のものを,二つのまったく異なるインプリメンテーション手法で設計し,まったく同じFPGAボード(Spartan-II評価キット)を使って実現します. 一つは,CPUコアIPを実装し,ソフトウェアプログラムでその機能を実現します.もう一方は,CPUもソフトウェアもまったく使用せず,ハードウェアだけでインプリメントします(図4).
しかし,何も知らされない人がこの手法の違う2種類のボードを並べて使って見ても,どちらがオールハードウェアでインプリメントしたもので,どちらがCPU+ソフトウェアで実現しているかは,まったくわからないでしょう. これは,何を意味しているのでしょうか? 技術者にとって厳しい言い方をすれば,要求仕様が満たされていれば,ユーザーにとっては,どのようなインプリメンテーションを行っていても関係なく,望んだとおりの動きを仕様どおり,正確に行ってくれることが重要であることです. 企業にとっては,同じ性能と機能であれば,開発期間が短く,保守返品率が低く,コストが安いモデルに越したことはありません.そして何より,それが売れてくれることです(これは,企画サイドの仕事になるが).まちがってもリコールや製品回収,開発期間の長期化などによるビジネスチャンスの消失など,企業が損失を被る事態は避けなければなりません.
これからの時代は,高度な設計になればなるほど,ハードウェア設計者やソフトウェア設計者という境界はなくなり,両者とも理解しているスーパーエンジニアが必要とされることは明白です.ハードウェアエンジニアが「C++言語はわかりません」とか,ソフトウェアエンジニアが「HDLはわかりません」と言える時代ではなくなっているのです. ですから,読者はハードウェアとソフトウェアの垣根を越え,分け隔てなく考えがおよび,アーキテクチャを決めることができ,アルゴリズムを考え,その時代のマーケットの要求,企業の要求に応じて,偏見なくベストなシステム設計手法とインプリメント手段を判断できるエンジニアをめざしてください.
11月号特集トップページへ戻る Copyright 2001 田原迫仁治 |