IPネットワークの通信の信頼性の方針
 図5は,これまで何度も登場したIPネットワークを利用するコンピュータシステムの図です.一番下が電線や光ファイバといった現実世界に存在するハードウェアである物理層,次がハードウェアのデバイスドライバであるデータリンク層,そしてデバイスドライバ同士をつないで,さまざまなハードウェア使ってパケットを中継する機能を提供するIPソフトウェア(ネットワーク層)です.アプリケーションは,IPソフトウェアを使って通信を行い,Webやメールといったさまざまなサービスを実現します.
 ここで信頼性を確保する方法として,
  1. デバイスドライバの層で信頼性を確保する方法
  2. アプリケーションの層で信頼性を確保する方法
の2つがあることがわかります.  結論から言うと,インターネットでは2. に近い方法をとっています.
 では,なぜ1. の方法をとらなかったのでしょうか.インターネットは,パケットを中継する機能だけを持ったルータと呼ばれるコンピュータと,それらをつなぐハードウェアの回線からなっていることは,前回解説しました.図6のように,アプリケーションソフトウェアの通信は,多くのルータと回線を中継して行われます.
 もし,デバイスドライバの層で信頼性を確保したとしても,IPソフトウェアつまりルータのソフトウェアにバグがあったり,ルータのハードウェアに問題が起これば,回線ではなくIPソフトウェアのところで信頼性がなくなってしまい,結局アプリケーションソフトウェア同士はうまく通信できなくなってしまいます.
 つまり,アプリケーション層から見れば,途中にネットワーク層に対応するソフトウェアがあるため,ネットワーク層ソフトウェアの信頼性を確保しなければ,どんなにデータリンク層で信頼性を確保しても意味がないことになります.
 このことから,インターネットでは次のような方針で信頼性を確保します.
  1. 物理層では,できるだけデータが誤らないように努力する
  2. データリンク層では,ネットワーク層のパケットをできるだけ要求された順番に確実に伝送できるように努力する
  3. IPソフトウェアでは,アプリケーションのパケットをできるだけ最終目的地に届きやすそうな中継経路を選択する
  4. アプリケーションは,自分のソフトウェアの要求に見合った信頼性を自力で確保する
 「できるだけ」という言葉が多く出てきますが,これこそがインターネットの特徴です.英語に訳すとベストエフォート(best effort)となります.よく,「ベストエフォート型の接続を提供する」インターネットプロバイダがありますが,実はインターネット自身がベストエフォートを目指して設計されているので,あたりまえなのです.
 「できるだけ頑張ってパケットの中継伝送を行うけど,もしかしたら途中でパケットがなくなっちゃうかもしれないよ」これが,インターネットにおける通信の信頼性の方針です.

   〔図5〕信頼性を確保する2つの方法

〔図5〕信頼性を確保する2つの方法


   〔図6〕どこで通信の信頼性を確保しなくてはいけないか?

〔図6〕どこで通信の信頼性を確保しなくてはいけないか?

■リアルタイム伝送とベストエフォート■
 「通信相手にできるだけ届いてくれればよい」という通信の信頼性でもかまわないアプリケーションがあります.リアルタイムに情報を送る場合がそれです.
 たとえば,Real Network社のRealPlayerというアプリケーション(図A)があります.インターネット上に,リアルサーバという動画像を配信するサーバを設置します.ユーザーは,RealPlayerと呼ばれるクライアントソフトウェアを使って,リアルサーバから音や動画像を受信します.RealPlayerのほかには,Microsoft社のWindows Media PlayerやApple社のQuick Timeなどが有名です.
 配信される動画像(や音)は,テレビのニュース画面や,展示会などの講演会の画像などさまざまです.送られてくる動画像は,リアルタイムであることが重要とされています.たとえ数コマ画像が抜けたとしても(いわゆるカクカクと動く画像)それは気にせず,次の画像をできるだけ表示しなくてはなりません.
 これはまさしくベストエフォート型の伝送路が必要となります.もしTCPなどの再送の手続きが起こると,そこで伝送に時間がかかってしまって,次の画像までの時間が間延びしてしまい,見ていて逆にギクシャクしてしまうからです.
 そのため,リアルタイムに情報を送るときは,TCPではなくIPネットワークのベストエフォート性をそのまま使うことができるUDPを用います.


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