[ミッション]学園生活が100倍楽しくなる装置を開発せよ
デザイン思考を使ってみよう! @トラ技Jr.先生セミナ

金谷 泰大

 

 私が勤めているTDKは,皆さんにいろいろなセンサを提供することで世の中をもっと楽しくしようとする会社です.今回そんなTDKに,CQ出版社から「皆さんの学園生活を100倍楽しくする装置を開発して!」というミッションを受けましたので,トラ技Jrを読んでいる先生,生徒の皆さんと一緒に,セミナを通じて夢の装置を作ってみました(編注:セミナは2018年12月26日に実施.開催報告はこちら).

 

どうすれば楽しくなるの? デザイン思考を使ってみよう!

 どうすれば学園生活を100倍楽しくできるのか,デザイン思考を使って皆さんと一緒に考えてみました.

 デザイン思考とは,デザイナーがデザインを行う過程を5つのステップで表現したものです(図1).近年,さまざまな企業がこのデザイン思考を使用して,今までにない画期的な新商品を次々に生み出しています.

 

 

 5つのステップは次の通りです.
● ステップ 1…実際に商品を使っているシーンのユーザの気持ちになりきる「共感」
● ステップ 2…共感するなかでどの部分をどうすればもっと面白くなるのかというインサイト(洞察)を決める「問題定義」
● ステップ 3…問題を解決する「アイデアの発想」
● ステップ 4…アイデアを実際に形にして試してみる「プロトタイプ」
● ステップ 5…実際にプロトタイプを使ってみてフィードバックを得る「テスト」

 このサイクルを回すことで,実際に商品を使っているユーザの気持ちに沿った画期的な新商品が生まれるのです.こんなデザイン思考のツール(考え方)を,当日の先生セミナの流れを追って紹介します.

 

ステップ1:感情の可視化!「スクール・ライフ・ジャーニー・マップ」

 皆さんは,学園生活のどういうときにエキサイトしますか? 気になるあの子が話しかけてきてくれたとき? クラスのヒーローになったとき?

 人がうれしい,悲しいと感じるシーンは人それぞれ.多感な時期の学生ならなおさらです.そういうときに使用するツールが「スクール・ライフ・ジャーニー・マップ」です(図2).

 


学園生活における行動,思考,感情を記入してみよう

 

 「スクール・ライフ・ジャーニー・マップ」を一言でいうと,学園生活における学生の感情の起伏を時系列で可視化したものです.日常生活においてどのような行動をしたのか,そのときどのような考えを持ち,そしてどのような感情(Happy or Sad)を得たのかを旅(Journey)に例えて表します.

 このときのポイントは,その行動において思考,感情の変化があったかどうかということです.恥ずかしがらずに些細な行動,感情の起伏もどんどん書き出しましょう.

 

ステップ2 インタビューを通して気になるあの子のプロフィールをまとめよう!「ペルソナ・シート」

 もっともっと相手のことを知ろう! 相手になりきれるぐらい共感することが,デザイン思考では肝要です.デザイン思考では,共感する方法としてインタビュー,行動観察,ロールプレイなどが代表的な手法です.ここでは,インタビューを通して相手を知る方法を記述します.

 TVなどで見かける一般的なインタビューは,あくまでも客観的な意見を集めるために使用されます.しかし,デザイン思考では相手の主観性,偏見を集めるために使うのです.

 


各グループから1名を選び,皆でインタビュー.
今日初めて会った相手の思考,感情をつかもうと,先生方が活発に質問を行った

 

 インタビューを通して相手と自分を同一化し,「スクール・ライフ・ジャーニー・マップ」に記載された感情の浮き沈みまで共感できるようになれればベストです.ここで知り得た情報は「ペルソナ・シート」にまとめます(図3).

 「ペルソナ・シート」は,年齢・性別など基本的な情報だけでなく,生活習慣や趣味,嗜好,価値観などの情報も書きます.これは,グループ内でイメージを共有することができるという点でも有効です.

 


図3 ベルソナ・シート
気になるあの子のペルソナ・シート(プロフィール・シート).君は作れるかな?

 

 「スクール・ライフ・ジャーニー・マップ」と「ペルソナ・シート」を見返して,相手の感情や情報を可視化して共感し,相手の学園生活を100倍楽しくするにはどうすればいいのかを自分のことのように定義しましょう.

 

ステップ3 100倍楽しくするアイデアを集めよう! 「ブレインストーミング」

 続いて「スクールライフジャーニーマップ」と「ペルソナシート」を通して定義されたインサイトを解決するにはどうすればいいのかアイデアを出しましょう.ここでは「ブレインストーミング」を使います.

 「ブレインストーミング」は,1つのテーマ(今回は先ほど定義されたインサイト)に対して数名の人間が自由奔放にたくさんのアイデアを出し合う手法です.これを行う際,守るべき次の4つのルールがあります.
@ アイデアは質より量にこだわろう
A どんなつまらないアイデアでもまずは出してみよう
B 相手のアイデアを批判しない
C 他人から出たいいアイデアには乗っかろう
 これらすべては自由奔放に大量のアイデアを出すためのルールです.ここで量産されたアイデアは,後のステップで絞り込みを行います.

 

アイデアの絞り込みをしよう!SN図

 続いて「ブレインストーミング」で出たアイデアの絞り込みを行います.絞り込みに有効なツールとして紹介したいのが「SN(Seeds-Needs)図」です(図4).

 


図4 SN(Seeds-Needs)図

 

 SN図は,「実現可能かどうか(Seeds)」と「問題を解決可能かどうか(Needs)」を軸にします.今回の場合,「マイコン・ボード『Diamond Seeds』を使ってアイデアを実現できる/できない」を横軸に取り,「学園生活が100倍楽しくなる/ならない」を縦軸に取ります.

 この図に,先ほどブレインストーミングで得た大量のアイデアを分類していきます.そうすると,第一象限(右上部分)に「DiamondSeeds」を使って学園生活を100倍楽しくできるアイデアが抽出されます.第一象限にアイデアが1つもなくとも心配いりません.ブレインストーミング4つのルールの1つ,「他人の良いアイデアに乗っかろう」です.

 第二象限(左上部分)にあるのは学園生活を100倍楽しくできるアイデアですが,「Diamond Seeds」を使っても解決できないアイデアです.発想の転換で「Diamond Seeds」を使えばそのアイデアを表現できないかと考えることで,第一象限にアイデアを移行できます.

 第三象限(右下)にあるアイデアは,学園生活を100倍楽しくすることはできませんが(50倍ぐらい?),「Diamond Seeds」を使えば解決できるアイデアです.「Diamond Seeds」は多彩な機能を搭載しているので,ブレインストーミングで想定していた以上の機能を付加することで,50倍だったものを100倍にすることができるかもしれない,と考えるのです.

 


第一象限にある8つのアイデアからどれを作ろうか…

 

ステップ4 本当に100倍楽しいかな?プロトタイプを作って確認しよう!

 SN図を用いて学園生活を100倍楽しくできる装置を決めたら,早速プロトタイプを作ってみましょう.プロトタイプにもさまざま方法がありますが,ここではコンテクショナル・プロトタイプとファンクショナル・プロトタイプを紹介します.重要なのはさっと作って試してしまうことです.

 デザイン思考におけるプロトタイプは,アイデアを検証すること,自分たちが素晴らしいと思ったアイデアを実際目で見てみること,手で触れて感じてみることが目的だからです.

 コンテクショナル・プロトタイプは,いわゆるマンガを作ることです.今回は,参加者に4コマ漫画を作ってもらいました.共感のステップで「スクールライフジャーニーマップ」を作りましたが,そのシーンに「Diamond Seeds」を登場させて,学園生活を100倍楽しなるシーンを想像してみましょう.前後の時系列も含めてマンガとして表現すると,実際にプロトタイプを使っているシーンの輪郭がくっきりしてきます.

 ファンクショナル・プロトタイプでは,Arduinoで「Diamond Seeds」にプログラミングを行い,使用シーンごとにその装置をどのように使うのかを感覚的にで感じてもらいます.ここでも重要なのは,さっと作って試すことです.

 ペットボトルに「Diamond Seeds」を張り付けたり,紙コップに「Diamond Seeds」を張り付けたり,見た目は決して良くないけれど,ここでは機能を確認することが重要であり,それで十分なのです.

 


バイクのアクセルを握るように回すと,Diamond Seedsが光ってエンジンっぽい音が鳴るぞ!

 

ステップ5 作った装置をみんなに寸劇で披露!

 100倍楽しくする装置のプロトタイプが完成したら,さっそく周りにフィードバックをもらいましょう.このときに有効な手段が寸劇です.演劇方式で発表することで,実際使用するシーンの使用者,周りの雰囲気,前後の時系列や実際に作ったプロトタイプを使う感覚を鮮明に伝えられます.

 ここでも重要なのは,デザイン思考のステップ1共感です(「スクールライフジャーニーマップ」「ペルソナシート」の部分を見返してみるのもよい).演ずる側は,できるだけ使用しているシーンを伝える努力が大事ですが,見る側も使用者になりきって寸劇を観察しましょう.そうすることで,寸劇後のフィードバックがより鮮明になります.

 


頭文字Dのコップを作ったぞ.これで毎日の運転が100倍楽しくなる!

 

 

総括

 以上が,明日から使えるデザイン思考のツールです.他にもいろいろなデザイン思考のツールがインターネット上で公開されていると思うので,ぜひ調べてみてください.

 このセミナでは,時間の関係で1サイクルしか回しませんでした.本来は,寸劇で得たフィードバックによって共感,問題定義,創造,プロトタイプなどのステップに戻り,装置を何度も何度も作り直して完成度を高めていくのです.

 この記事を読んだ皆さんは,デザイン思考を使えるようになっていると思います.何度もプロトタイプを作って,まだ世に出ていない「学園生活を100倍楽しくする装置」の製作にチャレンジしてみてください.

 

※使用したマイコン・ボード「Diamond Seeds」については,こちらを参照ください.



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