2013年5月16日(木),神奈川県川崎市にある松原工業株式会社(http://www.mtbrk.com/index.html)の工場を見学させてもらいました.同社はおもにマイコンのフラッシュ書き込み業務を行う会社で,車に乗せるマイコンの書き込みが多いそうです.1個から書き込みを行ってくれて,24時間365日稼働しているとのこと.
お邪魔した工場は2013年3月に新しく稼働を始めたので,清潔感があふれていました.また半導体を扱うこともあり,工場の中はいたるところに清潔さを保つ工夫がされていました.
クリーンルーム(写真1)とは,ほこりなどがなく,温度や湿度が一定に保たれた部屋のことです(写真2).マイコンを書き込むときにほこりなどがあると,ソケットなどの接触不良やデータの欠損が発生する可能性があります.ちなみに空気清浄度はクラス10,000です.
クリーンルームに入るには,静電靴チェッカで静電気を取り除いて(写真3),洋服や髪の毛などに付いたほこりを持ち込まないようにクリーンスーツを着て(写真4),空気のシャワー(エアシャワー)をあびます(写真5).
温度や湿度が保たれている理由は,10n〜100ns単位での検査をしているので,測定結果が環境に左右されないようにするためです.また湿度は,高ければ高いほど静電気が発生しなくて良いのですが,高いほど金属などがさびたりしてしまうので50%±10%前後に設定されているそうです.
写真1 (a) ガラスの向こうのクリーンルームではクリーンスーツを着た方が働いている |
写真1 (b) クリーンルームとモノをやりとりするときはパスボックスを使う |
写真2 温度は25℃±2℃,湿度は50%±10%に保たれていて異常があるとアラームが鳴る |
写真4 クリーンスーツと静電靴を着用してクリーンルームに入る |
写真3 毎日1回,静電靴チェッカで靴の導電性能を検査している |
写真5 万歳のポーズでくるくる回り空気のシャワー(エアシャワー)を20秒あびる |
クリーンルームに入ると,20台の書き込み機などが稼働していました(写真6).きれいに並んだマイコンを,ロボット・アームが吸い上げて書き込み場所まで運びます(写真7).数秒で書き込まれるので,すぐにまたロボット・アームが書き込み済みのマイコンを取りに来て,完成品のケースに入れていきます.1日で最大20万個,1カ月で400万個の書き込みができるそうです.
歩いていると,床には均一に並んだ穴が開いていて,ごみやほこりが落ちたとしてもそこに吸い込まれるようになっていました(写真8).また,床下には広い空間が設けられおり,配線が集約されています.これは,作業者が配線にひっかかって転ばないようにする工夫です.
写真6 20台のマイコン書き込み機が稼働している |
写真7 マイコンを吸い上げるときにアームが回転してマイコンの角度も調整する |
写真8 床はつってあり,床板を持ち上げて掃除できるようになっている |
書き込みをする機械のほかに,マイコンの型番や管理ナンバをレーザで彫る機械(写真9)や,コードが書いてあるシールをマイコンに貼る機械がありました(写真10).また,マイコンに−55℃〜+150℃の環境で耐久試験をする装置(写真11)や,マイコンの足が曲がっていないかを画像処理で調べる装置(写真12)もあります.最後の工程として製品の出荷をするため,乾燥剤と部屋の湿度を吸って開けたかどうかがわかるインジケータを,銀色の袋に入れて空気を抜き梱包されていきます(写真13).
また階を行き来するエレベータは,なんと全面ステンレス製(写真14).床や壁面に塗装が施されていると,はがれて製品につく可能性があるので床もステンレスなのだそうです.
写真9 レーザーで型番のマーキングをほどこしたら印字が正確かを画像処理で見る |
写真10 型番の書いたシールが貼ってあるマイコン |
写真11 −55℃〜+150℃の環境にさらして耐久性を調べる装置 |
写真12 マイコンのリードの影を見て足が曲がっていないかを調べる装置 |
写真13 (a) 水分が入らない銀色の袋(ドライパック)で梱包して出荷する |
写真13 (b) ドライパックされた製品がずらり |
写真14 製品に配慮した全面ステンレス製のエレベータ |
案内をしてくださった杉本さんは,初代書き込み機「隼」を作った方で,2013年現在も工場内で働く機械を製作されており,社長賞をもらったこともあります(写真15).
本当にありがとうございました!
写真15 初代書き込み機「隼」と杉本さん |
(取材:トラ技ジュニア編集部)