「自分で作れる人型ロボット・キット「ラピロ」の製作者,石渡 昌太さんにじっくりインタビュー」

 インタビュア:坪井 義浩(つぼいよしひろ) ytsuboi@gmail.com

面白いアイディアを応援できるWebサイト

 クラウド・ファンディング・サイト「Kickstarter」でRAPIRO(ラピロ)という人型ロボット・キットの資金調達をしている,機楽株式会社の石渡さんにお話を伺ってきました(写真1).

 クラウド・ファンディングとは,インターネットなどを通じて自分のアイデアやプロジェクトを紹介し,応援したいと思ったり,欲しいと思ったりした人たちから出資をしてもらう(少しずつお金を出してもらう)手法です.Kickstarterは海外のサイトです(図1).このサイトでは,多くの人々が出資を募っており,さまざまな面白いプロジェクトが資金を集めて活動をしています.従来,投資というのは事業がうまくいったときに戻ってくるリターン(お金)を目的に行われる性質が強かったのですが,Kickstarterではプロジェクトの成果物や,感謝の印といった金銭によらないリターンを得られるようになっています.

 

写真1

右側がRAPIROを作った石渡さん,左側がインタビュアの坪井さん

図1

クラウド・ファンディング・サイトKickstarterでRAPIROは資金調達をしている

 

プログラムもきょう体も改造できるロボット

 RAPIROは,これまた話題のRaspberry Pi(ラズベリー・パイ)というボード(写真2)を頭脳に使い,搭載されているArduino(アルデュイーノ)互換のサーボ・コントローラ基板(写真3)を通じて12個のサーボ・モータで動かすことのできるロボットのキットです.キットということで,サンプルのプログラムなどは提供されますが,購入した人はこれを組み立て,自分でプログラムを書いて楽しんだり学んだりできます.今後製品化にともなって,変更が加えられる可能性もありますが,現時点でRAPIROは図2のような仕組みになっています.Raspberry PiもArduinoも自分でプログラミングができるマイコンなので,深いところにまで手を加えることが可能になっています.

 

写真2

RAPIROの頭脳となるRaspberry Pi(ラズベリー・パイ)の外観

写真3

サーボ・モータや電子部品などを制御するArduino(アルデュイーノ)互換のサーボ・コントローラ基板

図2

Raspberry Piをサーボ・コントローラ基板に接続して12個のサーボ・モータや電子部品を制御できる

 

音声認識で命令も夢ではない

 RAPIROには目の部分を光らせるLEDや,腕や足などを動かすためのサーボ・モータ以外に,カメラ,距離センサ,スピーカなどが取り付けられるようになっています(図3).これらのデバイスを使うようにプログラミングをすれば,インタラクティブなロボットを作ることも可能ですし,例えばマイクを追加して,声をGoogleの音声認識APIを使うなどして音声で命令をするロボットを作るといった高度なことも考えられます.

 

図3

RAPIROは電子部品,基板モジュール,きょう体などで構成されている

 

3Dプリンタできょう体を作る

 また,RAPIROは最近ブームにもなっている3Dプリンタを活用した製品作りをしており,石渡さんがSolidWorksという3D CADで作った3次元データ(STL形式)の公開も予定されています.STLがあれば,3Dプリンタで出力できるので,RAPIROの交換部品を3Dプリンタで出力したり,あるいは自分で手を加えた部品を出力して,オリジナルのRAPIROを作ることもできます(写真4).  石渡さんによると,このRAPIROのデザインは,既存の廉価なロボット・キットのような無骨なデザインにしたくないという思いと,昔見たロボット・アニメに出てきたロボットのような,家にあってもおかしくないデザインにしたくて作ったとのことでした.製品開発には3Dプリンタが活用されていますが,製品自体は樹脂を射出成形(一般的に使われている型に樹脂を流し込んで作る方法)で量産される予定です.

 

写真4

3Dプリンタできょう体を作っていて,3次元データ(STL形式)を改造すればオリジナルきょう体を作れる

 

複数の通信方法が使える

 RAPIROの頭脳はRaspberry PiでLinux(組み込みを含むあらゆる分野で使用されているオープンソースのOS)が動いているので,クラウドと連携させるためにネットワークに接続するのが容易です.Raspberry Pi自体にもLANコネクタが搭載されていますが,USBに接続するタイプのWi-FiアダプタやBluetoothといったインターフェースを追加することで,さまざまな接続方法で楽しむことができます.また,Raspberry Piのオプションのカメラを搭載することも可能で(写真5),こういった機能はマイコン・ボードとしては比較的パワフルなRaspberry Piを採用したことで得られたメリットと言えるでしょう.  RAPIROのキットにはRaspberry Piが含まれていませんが,キットと別に買って追加しなくとも,RAPIROの付属品のサーボ・コントローラ基板はArduino互換なので,これをプログラミングすることで動かすこともできます.あるいはUART(非同期シリアル通信)なので,ほかのマイコンをコントローラ基板につないでも楽しめます.石渡さんはXBeeをつないでリモコンで動かせるRAPIROを見せてくださいました(写真6).

 

写真5

おでこのあたりからカメラ・レンズを出せる

写真6

XBeeなどをマイコン基板につない無線機能も実現できる

 

プロジェクトの確定は2013年8月

 RAPIROの背中のバックパックには電池を入れられるようになっています.単三電池を入れることもできますし,18650というリチウム・イオン電池(写真7)を入れることも可能です.リチウム・イオン電池は取り扱いを誤ると危険なので,通常,単三アルカリ電池を使うように設計される予定のようです.  RAPIROは,既存の見た目の良いロボット・キットの1/4,Linux搭載の人型ロボット・キットの1/10といった具合にコストが低いのも魅力です.Kickstarterで£199(約3万円)以上を投資するとRAPIROがリターンとしてもらえるのですが,£199の枠はすでに埋まっており,£229(3万5千円弱)の投資枠が残っている状態です(2013年7月現在).すでにKickstarterでプロジェクトが成立するだけの投資は集まっているので,2013年8月19日にはプロジェクトの成立が確定する予定です(写真8).

 

写真7

単三電池よりやや大きめの18650(リチウム・イオン電池)

写真8

ペンを持って字を書くこともできるという