宇宙を目指せ!民間月面探査機「PM3.6」

  現在,北海道の小型ロケット開発プロジェクト「なつのロケット団」や,東京大学をはじめとした各大学の研究室・サークルによる小型衛星開発プロジェクトなど,日本各地で民間・アマチュアによる宇宙開発が進んでいます.

 その中でも最近NHKや新聞などで話題になっている日本初の民間月面探査プロジェクト「HAKUTO」の試験探査機(開発コードPM3.6)をレポートします.

 

民間月面探査プロジェクト「HAKUTO」

 「HAKUTO」は,GLXP(Google Luner XPRIZE)という民間無人月面探査レースに,日本で唯一参加している月面探査プロジェクトです.商業が経営コンサルタントの方からエンジニアの方まで,現在40名の方が活動しているそうです.

 ちなみに「HAKUTO」の由来は月の「白兎」とのこと.

 

 GLXPから課せられているミッションは,  @月面で500m以上走ること  A月面でハイビジョン動画を地球に送信すること  Bどのチームよりも早く上記2 ミッションを成功させること この三つです.優勝賞金は2000万ドル!「もちろん優勝を目指している」と開発チームの方が意気込んでいました.

 

民間月面探査機PM3.6の外観

 PM3.6(写真1)の特徴は三つ.

 PM3.6はプロトタイプ・モデル(Prototype Model version 3.6)なので,短い期間でさまざまな試験機を作る必要があったそうです.筐体の製造を依頼すると1か月はかかってしまうため,メンバ自前の3Dプリンタでラビット・プロトタイプ(20時間で出来上がり)したそうです.ホイールやスタビライザの形状も試行錯誤の上で見出した形状とのこと.

 


写真1(a)PM3.6の前姿




写真1(b)PM3.6の後ろ姿



 

PM3.6のハードウェア構成

 PM3.6のシステムは開発リソースを最低限に抑えるために,非常にシンプルな構成になっています(図1).そしてRaspberry Piをはじめとしたすべてのパーツが一般の人が手に入れることができる汎用部品で構成されています(写真2).

 


図1 ハードウェアの構成図





写真2(a)Raspberry Piが組み込まれている




写真2(b)右サーボ・モータを組み込んでいる



 

PM3.6のソフトウェア構成

 Raspberry Pi上で動かす主なソフトウェアは,  1 探査機制御エンジン  2 映像ストリーミング・サーバ の二つ.制御エンジンはネットワークから送られてくるコマンドから,モータード・ライバへ制御目標値を計算し,送信します.また,映像ストリーミング・サーバは探査機からスカイプのように映像を送るためのソフトウェアです.ソフトウェアもハードウェアと同様にシンプルな構成になっています(図2,写真3).

 


図2 ソフトウェアの構成図





写真3 ソフトウェア動作のようす




 

PM3.6の現状と今後の流れ

 9月某日,月面環境に近い実験が必要とのことで,静岡県の浜松砂丘でメディア向けの公開実験が行われました(写真4).現地のスタッフさんいわく,この浜松砂丘はJAXAの依頼で天候や砂の状態を10年間かけて調査した結果,日本で一番実験に最適な月面環境だそうです.

 管制室(右の写真)では探査機のカメラからの映像しか見れない状態にし,500 メートルの走行を行いながらハイビジョン映像の送信ができるかの試験が行われました.この試験の中でプラスチックきょう体の摩耗や,まれに制御ができなくなるバグなどが割り出され,プロトタイプの次の段階であるエンジニアリングモデルの開発に活かされることになりました.

 「HAKUTO」はホイール形状などの試行錯誤の段階であるプロトタイプ・モデルの開発を終了し,宇宙環境での動作を前提とした試験機「EM(エンジニアリングモデル)」の開発に移るそうです.

 


写真4(a)フォト・セッション中の吉田先生と袴田さん





写真4(b)砂浜に建てた管制室




 

優勝の可能性

 HAKUTO関係者の話によると,現在アクティブに活動している22チーム中,月に到達する可能性のあるチームはHAKUTOを含めた7チームで,「HAKUTO」と競合しているのはアメリカ2チームのみ.よって十分に優勝圏内だそうです.ただ,クラウドファンディング等を用いて資金を集めているものの,やはりアメリカと日本では資金環境に差があるそうです.お金があれば十分に優勝を狙える位置にいるとのこと.もしも,もっと「HAKUTO」を知りたいという読者の方がいらっしゃいましたらインターネットをご参照ください(図3).

 


図3 HAKUTOホームページに行けるQRコード



 

おわりに

 冒頭でも触れましたが,若手による宇宙開発とそれを支援する動きが,今確実に広がっています.今このビッグウェーブに乗らなければ確実に乗り遅れます.  若者よ,技術者よ,宇宙を目指せ!