編集部
2015年8月1日〜2日の2日間,Maker Faire Tokyo 2015が東京ビッグサイト(東京都江東区)にて開催されました.本イベントの開催中,イタリアArduino Srl社のCEOであるFederico Musto(フェデリコ・ムスト)氏が来日し,Arduinoの商標訴訟の経緯や新製品などの展開を発表しました(写真1).
写真1 Arduino Srl社のCEOであるフェデリコ氏
2014年秋ごろから,公式Arduinoを作っていたArduino Srl社とArduino LLC社の2社が裁判で争うことになったそうです.
Arduino Srl社のフェデリコ氏によれば,Arduinoは2008年ごろから,Arduino Srl社(旧Smart Project Srl社)がハードウェア設計を行い,Arduino LLC社がソフトウェア開発とコミュニティ運営を担っていました.つまり2社共同で事業を行っていたそうです(図1).
図1 2005年から2015年にかけてのArduinoを開発した人や団体の動き
(クリックすると拡大)
一方,Arduino LLC社のCEOであるMassimo(マッシモ)氏は,「Arduino LLC社はSmart Projects社に対して製造販売を許可するライセンスを供与していただけ」とコメントしたそうです.
さらに下記の問題のために,2社は多くの訴訟を起こしているそうです.
(1)2008年ごろ,Arduino LLC社およびほかのメンバに相談なくArduino Srl社は「Arduino」という商標を自社のものとして登録した
(2)Arduino Srl社はただのライセンシ(ライセンスを供与されて製造販売する会社)なのに,事業自体を持っていってしまった
(1)Arduino Srl社はArduino LLC社から一方的にメールやWebのアカウントを削除された(2014年11月)
(2)Arduino Srl社はただのライセンシではなく一緒に製造やマーケティングをする事業社である
(3)Arduino Srl社製のArduinoボードをパソコンに接続すると「偽物だ」と警告する機能が,Arduino LLC社によって作られているArduino IDEに追加された(ちなみにほかのニセArduinoに対しては警告しない)
(4)Arduino Srl社のフェデリコ氏はArduino LLC社の持ち分20%を所有しているのに帳簿も見せてもらえない
(5)Arduino Srl社のジャンルッカ氏やダニエラ氏は,Arduinoを製造する工場を作るために個人のお金をつぎ込んでいる
以上の経緯により,Arduinoの開発環境「Arduino IDE」は,Arduino LLC社が作ったもの[https://www.arduino.cc/(図2)からダウンロードする]と,Arduino Srl社が作ったもの[http://www.arduino.org/(図3)からダウンロードする]が存在し,ユーザにとってわかりにくい状況になっています.
図2 Arduino LLC社によるArduinoのWebサイト(https://www.arduino.cc/)
図3 Arduino Srl社によるArduinoのWebサイト(http://www.arduino.org/)
なお,日本国内でもArduino Srl社が商標登録しているため,国内で販売されているArduinoロゴの付いたボードはArduino Srl社製のものです.
Arduino Srl社は,オープン・ソースのコード開発用エディタ・ソフトウェア「Adobe Brackets」をベースに,オフライン/オフラインに関わらず使用できる開発環境「Arduino Studio」を開発しました.JavaScriptで書かれており,ブラウザ上で動作するためタブレット上でも動作します.
またArduino Srl社は,Arduino Yunの後継機である「Arduino TIAN」を開発したそうです.Arduino YunはAVRマイコンであるATmega32u4が搭載されており,100Mbpsの大容量通信Wi-Fi機能が使えます.Arduino TIANはこれに低消費電力のBluetooth Low Energy無線機能が追加されています.550MHz動作のMIPSプロセッサと,Cortex-M0+を搭載しています.
さらに,Arduino Yunを小型化してブレッドボードに挿せる「Arduino Yun mini」も開発しました.Arduino Srl社で技適の取得を行い,日本国内でも販売される見込みです.
Arduino YunやArduino TIANは,Linuxで制御できるようにLinuxディストリビューション「Linino」(ライニーノ)を搭載しているそうです.AVRのGPIOやPWMなどの機能をLinuxから使えるとのことです.
約170ページの日本語の書籍,Arduinoボード,電子部品などがまとまっているキットを近日中に発売するそうです.
フェデリコ氏はArduinoを支えたいと思っている誰もが参加できる財団を作りたいと思っているそうです.その財団にArduinoの商標や所有権を移管し,今後の発展をゆだねたいと思っているとのことです.
* * *
ユーザとしては,競争によって開発が加速すればよいですが,商標訴訟によって新しいハードウェアやソフトウェアの開発が遅れることは望ましくありません.Arduino Srl社とArduino LLC社が再び手を取り合ってArduinoコミュニティを支えてくれることを期待したいです.